■双塔、玄妙観
蘇州のローカルガイドさんは(名前を失念)地元っ子の若い女性。朝いちばん、双塔から観光を開始する。「ここには日本人はほとんど来ません」というとおり、静かでのんびりした空間だった。
一転、玄妙観(道教のお寺)は、浅草みたいに、にぎやかな観光名所である。おみくじが引けるらしいので、やりかたを教えてもらって試みる。ラーメン屋の 箸立てのように、竹串をぎっしり挿した丸筒を斜め45度前方に傾け、(本当は目を閉じて願い事に集中しながら)上手に振って、1本だけ床に落とさなければならないのだが、これがなかなか難しい。結局、10本余りをぶちまけてしまったが、そばで見ていたお坊さんが「これが最初に落ちた」と拾ってくれた。
その籤は「上上」。「我本天仙雷雨師/吉凶禍福我先知/至誠祷祝皆霊応/抽得終籤百事宜」という、怖いものなしのご神託であった。「我は本(もと)天仙 雷雨師」ってカッコいいけど、天蓬元帥の別名を持つ西遊記の猪八戒(酒に酔って失敗したため、天界を追放される)みたい...と思って苦笑した。
■拙政園、蘇州博物館、北寺塔
江南の名園めぐりは拙政園(せっせいえん)から。大規模に水を引き入れて、美しい景観を作っている。元来、蘇州は堀割と橋で構成された水の都だったが、埋め立ての進んだ現在、城内にその面影はほとんどない。こうした庭園の内部だけが、かつての名残を留めている。
見学ルートの橋のたもとに、楕円形のタライ舟が浮かんでいた。タライには小柄なおばさんが乗っており、足元に、蓮の花びらが落ちたあとの漏斗形の芯が積まれている。園内の蓮池で摘み取ってきたのだろうか。芯の部分に詰まった種を(ヒマワリの種のように)もぎとって食べるのである。菅野さんが1つ買ってみて試食。中国に来ると、いろいろとめずらしいものが食べられる。
小さな蘇州博物館(太平天国関係の遺物多し)を見学し、北寺塔に上る。
■寒山寺、留園、虎丘
昼食後は寒山寺に向かう。ここは「月落ち烏啼いて霜天に満つ」という、古来、日本人が大好きな「楓橋夜泊」の漢詩で有名だが、出発前に大木先生から「日本人はねえ、寒山寺の門前にある新しい橋を楓橋だと思って写真撮ってるけど、あれは違うからね。本物の楓橋は少し先にあるから間違えないように」とクギをさされてきた。
ローカルガイドさんに聞いてみると、確かに楓橋はあるが別料金だという。せっかくなので追加料金を支払って見学する。しかし大木先生の話では、本物の楓橋は「忘れられた古い橋」みたいだったのに、近年、改築整備して、観光エリアに組み込まれた様子で、ちょっと興覚め。
寒山寺はまた、寒山拾得という2人の禅僧(森鴎外の小説では汚い小坊主)が住んでいたことでも有名である。このコンビ(もちろん2人とも男性だが)、中国では和合の象徴として結婚式に絵を飾ったりらしい。以後、いつも一緒の石川さんと池浦さんを「うちの寒山拾得」と呼ぶことにする。
寒山拾得の図 | 同じく。 |
ときどきパラつく小雨に悩まされながら、2つ目の庭園、留園と、虎丘塔(ピサの斜塔みたいに傾いて立つ)を見学。
■夕食
夕食は、この夏、蘇州で開催された「世界遺産国際会議」のために造られたというレストランへ。蘇州市政府は、この国際会議のために、広大な展示場やレストランを建てたが、あとの経営のことは、あまり考えていないらしい(どこの国も同じ)。
料理の注文を仕切るマオさんと接客係の女の子の会話を聞いているとおかしかった。女の子は、我々の注文する品数が少ないことを不審がる。マオさんは「彼らは日本人だからそんなに食べないの」と説明するのだが、納得しない。そのうえ、飲みものについて、我々が、日本でも飲めるバトワイザーやチンタオを嫌って「地元ビール」に執着することも、理解不能の様子だった(啤酒就是啤酒!=だって、ビールはビールでしょう!=ごもっとも)。
■網師園(もうしえん)の夜間ツアー
なんだかんだで夕食から戻るのが遅くなってしまい、気があせる。今夜は、ホテルのそばの網師園(蘇州四大名園の1つ、大木先生いわく「こじんまりした穴場」)の夜間ツアーに行ってみようと思っていたのだ。園内の回廊をコースに従って進むと、伝統楽器の演奏や戯曲のさわりを楽しむことができる。要所要所に 点された、わずかな明かりが、庭園を包む闇の深さと豊かさを引き立てているように感じた。ただし、入園したのが遅かったため、演目を全て見ることができ ず、早々に追い出されてしまったのは残念だった。
明日は、忘れてならない「宿題付き」の滄浪亭に行くので、帰りみちの本屋さんで関連書籍を探してみる。「滄浪亭」というキーワードを告げると、さっと在庫検索して「2種類ある」と教えてくれた。パソコンを操作するのは高校生みたいな若い女の子で、中国の新世代という感じ。結局、「蘇州文庫系列」の「滄浪亭」を購入した。薄い文庫本みたいなシリーズだが、1つの名所に1冊なので、素人には十分読み応えがある。蘇州の1人歩きに、おすすめしたい。
ホテルに戻ってくつろいでいると、しばらく考え込んでいた菅野さんが「私、やっぱり売店に行ってくるわ」と決意の表情を上げる。ホテルの売店に売っているシルクのパジャマを買おうかどうしようか迷っていたらしい(蘇州はシルクの名産地)。自分の分とお嬢さんへのお土産の3着で1万円に負けさせるため、「1万円しか持っていかないわ」と財布を置いて出ていく。なかなか戻ってこないので、これは成功したかな、と思っていると、ノックの音。ドアを開けると、 店員さんを従えた菅野さんが「付け馬になっちゃったわよ~」と苦笑いしている。どうしても1着4,000円以下には負けてもらえず、足りない分を取りにきたのだそうだ。
それでも最初の価格から3分の2くらいまで落としたはずなので、「日本で買うよりは、かなり安いんですよね」と聞くと「さあ?わかんない」で大笑い。
【2019/5/4 geocitiesより移行】