見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

2016秋@大津祭

2016-10-14 22:14:23 | 行ったもの(美術館・見仏)
10月三連休に関西行きを決めた理由のひとつは大津祭。振り返ってみたら、そもそも柏井壽さんの『京都 冬のぬくもり』を読んで、大津祭のことを知って、2011年に訪ねたのが最初だった。もうすっかり忘れていたけど。

延長開館していた京都市美術館を出たときは午後6時過ぎで、もう外が暗くなっていた。京都市内から地下鉄で浜大津に向かう。例年、JR大津駅に下りると、どこでお祭りをやっているんだか、閑散としているのだが、浜大津のほうがお祭りの会場に近いので、心なしか人も多く、浮き立っている。







実は、今年1月、「大津祭の曳山(ひきやま)行事」を重要無形民俗文化財に指定する文化審議会の答申が行われた(それまでは県指定の無形民俗文化財)。私は全然知らなかったのだが、ちょうど西行桜狸山の前で、背広のおじさんが記念の挨拶をしていた。もしかしたら、祝賀ムードの影響で、例年より人が多かったかもしれない。

※参考:京都新聞:大津祭曳山行事、国文化財指定へ(2016/1/16)

大津祭の楽しさはお囃子の聞き歩きである。曳山ごとに少しずつ違う。カンカンカンカンと鉦を四回連打するリズムが基本のような気がするが、笛がよく聞こえるもの、鉦(かね)中心のもの、太鼓が混じるものがあり、街の東に位置する西行桜狸山や神功皇后山は、比較的ゆったりと遅く、西側の曳山はリズムは速い気がした。けっこう現代風にアレンジしてるな、と思う山もあるのだが、演奏している子供たちが楽しそうなのでいいか、と思う。伝統を墨守するより、こうやって楽しく受け継がれていくほうが大事。

↓宵宮飾りの屏風は大人の楽しみ。


↓西行桜狸山所蔵の狸面。また会えました。


最後にびっくりしたのは、JR大津駅に「ビエラ大津」という商業施設ができていたこと。いつの前に?と思ったら、10月1日にオープンしたばかりだそうで、カフェ(スタバ)やそば屋、居酒屋などが入っていて、旅人にはたいへんありがたい。
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2016秋@関西:若冲の京都、KYOTOの若冲(京都市美)など

2016-10-13 21:51:51 | 行ったもの(美術館・見仏)
龍谷ミュージアム 第25代専如門主伝灯奉告法要記念特別展『浄土真宗と本願寺の名宝I-受け継がれる美とこころ-』(2016年9月24日~11月27日)

 西本願寺のホームページによれば、伝灯奉告法要は、宗祖・親鸞聖人があきらかにされた「浄土真宗のみ教え」が新しい門主に伝えられたことを奉告するとともに、み教えが広く伝わることを願う行事。このたび、第25代専如門主が法義の伝統を継承したことから、2016年秋から来春にかけて法要が行われ、あわせて龍谷ミュージアムでは特別展が行われる。国宝『三十六人家集』が公開されるという情報に色めきたって来てしまったのだが、「常時2帖ずつ展示」なので、あまり大したことはなかった。

 出ていたのは、「元真集」と「小町集」。あと平安後期成立の『類聚古集』の万葉集を抜き書きした帖も見ることができた。白書院の障壁画『韃靼人狩猟図』(江戸時代)も面白かったが、あまり韃靼人(満州族)らしくなかった。昭和8年(1933)の伝灯奉告法要の記録フィルム、最近の門主の写真も興味深かった。あ、正式には「宗主(しゅうしゅ)」と呼び、戦前までは法主または門跡と呼ばれたが、 戦後昭和21年より門主と改称されたというのを初めて知った。

京都市美術館 生誕300年『若冲の京都 KYOTOの若冲』(2016年10月4日~12月4日)

 伊藤若冲生誕300年を記念する展覧会のひとつ。チラシを見ると『象と鯨図』も『樹花鳥獣図屏風』も『百犬図』も『果蔬涅槃図』もまだ出ていない。これら人気作品は11月以降に登場の予定である。そうなると、いまどんな作品が見られるのか気になって、来てしまった。冒頭には、細見美術館所蔵の墨画の押絵貼屏風が数種。あーこれ好きなので、まとめて見られるのは、負け惜しみでなくてうれしい。『乗興舟』は短い一部分(山崎のあたり)だったけど、周囲を気にせず、じっくり眺めることができた。『玄圃瑤華』も。

 次室「花鳥I」は屏風1件と軸物が21幅。うち三分の二くらいが鶏を描いたもので、この部屋にニワトリが何羽いるんだろう、と可笑しくなった。細見美術館のものなど、見覚えのある作品もあるが、多くが個人蔵。ほんとに若冲筆なのか疑わしいものも混じっているけど、おおらかな気持ちで眺める。『鵜に鰌』『芦に鵜』という珍しい題材もあった。

 次室は「鯉」がずらっと並ぶ。「人物」では『虎渓三笑』が微笑ましくて好き。あかんべする『布袋図』も。「花鳥II」では鶴がせいぞろい。「吉祥」の『高杯に栗図』は、わけわからないけど構図が面白い。さすが、かつて京博で、エポックメイキングな若冲展を企画した狩野博幸さん監修の展覧会。今年の若冲展の一押しだと思う。う~ん、展示替えしたら、もう一回行かなくちゃ。

大和文華館 特別展『呉越国-西湖に育まれた文化の精粋-』(2016年10月8日~11月13日)

 呉越国(907-978年)は10世紀に中国の江南に位置し、越窯青磁や金銀器など美術・工芸において高い技術を持つ一方で、仏教を篤く信奉し、東アジアにおける文化交流に大きな役割を果たした国、と解説にいう。しかし、呉越国の名前を知っている日本人は少ないだろう。呉越国が文化交流に大きな役割を果たした時代の日本はまさに平安盛期で、「国風文化」のイメージが強いことも一因ではないかと思う。本展は、磁器・工芸・小型の仏像など展示品92件のうち69件が、中国の浙江省博物館と臨安市文物館からの出陳。めったに見られないお宝がそろった本格的な特別展である。私はむかし杭州に行ったことがあるので、見ているかもしれないけど、あまり記憶にない。

 印象的だったのは、小さな銅銭「饒益神宝(にょうやくしんぽう)」。皇朝十二銭のひとつで、貞観元年(859)に日本で発行された。これが杭州の雷峰塔の地宮から出土したのだそうだ。出土した3,428枚の銅銭の大半は北宋時代のもので、これは唯一海外からもたらされたものだという。とても想像力が刺激される。見ものはやはり『銀製阿育王塔』(銭弘俶塔)。四面に本生譚の物語が刻まれていて、素晴らしく細工が精緻で、銀の輝きもきれい。ただし修復を受けた状態であるとのこと。後半に、東博所蔵の銅製阿育王塔(那智経塚出土、上部は破損しているが下部の細工はきれい)と永青文庫の銅製阿育王塔(錆びている)も展示されていた。白玉の飾りものもきれいだったなあ。

春日大社国宝殿 開館記念展『春日大社の国宝-千年の秘宝と珠玉の甲冑刀剣を一堂に-』(2016年10月1日~11月27日)

 今回の関西旅行の目的のひとつ。旧称宝物殿が、10月1日に国宝殿と名を改めてリニューアルオープンした。その変貌ぶりは想像以上。ホームページに「日本の美術館建築で活躍する方々が結集し」と堂々宣言しているだけのことはある。ただ、冒頭のコンテンポラリーアートな展示室「神垣」は、先端的すぎてちょっと戸惑う。そして開館記念展に「甲冑刀剣」というのも、今の観客をねらっているなあ。開放的で入りやすいカフェスペースが併設されたのは、とてもありがたい。

玄関脇のミニ石庭でくつろいでいたにゃんこ。「あれは…」と聞いたら、職員の方はニコニコしながら「看板猫です」とおっしゃっていた。



カフェ・ショップ「鹿音(KAON)」でソフトクリームをテイクアウト。奈良に来る楽しみがひとつ増えた。


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2016秋@大徳寺曝涼(むしぼし)再訪

2016-10-11 22:06:12 | 行ったもの(美術館・見仏)
■大徳寺本坊

 10月の第二日曜に京都・大徳寺で行われる宝物曝涼(むしぼし)に行ってきた。ちなみに3年前の初訪問の際の記事はこちら。↓

2013秋@大徳寺曝涼(むしぼし)の至福
2013秋@大徳寺:高桐院宝物曝涼展、黄梅院、龍源院

 前日は京都に宿が取れず、滋賀県の守山泊。明け方、目が覚めて窓の外を見ると、どしゃぶりの大雨だった。これは曝涼は中止か、と思って、しばらく二度寝してしまったが、明るくなると、雨だけは上がった様子。でもまだ雲は低い。無駄足になるかもしれないなあ、と気をもみながら、新快速で京都を目指す。大徳寺が目の前に迫ったバスの中で、窓にポツポツ雨粒が当たり始めたときは、万事休すかと思ったが、なんとか傘を開くことなく、本坊に駆け込む。玄関には、たくさんの靴が並んでいたが、前回も感じた通り、会場が広いので、そんなに混み合った感じではなかった。



 毎年、宝物の配置は同じらしい。前回の記録を参照しながら感想を修正/追加しておく。

【第1室】
・やっぱり、鴨居の上の『十王図』に驚く。
・高麗仏画『楊柳観音図』。第6室の楊柳観音図ほどは大きくない。
・牧谿筆『龍虎図』二幅。どちらも人相が悪い。その間に、机のような岩にもたれる『白衣観音図』があって三幅対の構成。
・美形の『維摩居士図』。

【第2室】
・左右の壁に『十六羅漢図』8幅ずつ。「明兆筆」の中に1点だけ「等伯筆」。
・牧谿筆の『虎』『鶴』『白衣観音』『猿』『虎』が並ぶ。第1室の虎に比べると、背を丸くかがめた姿勢。たおやかな白衣観音は宋代の美の理想という感じ。
・ここは襖絵も見どころ。

【第3室】
・書状、墨蹟が中心。大きな字で「茘枝(れいし)」が可笑しかったが、禅語では悟りの機縁らしい。

【第4室】
・鴨居の上に南宋時代の『五百羅漢図』百幅のうちの6幅。前回、「展示作品は毎年同じです」と聞いたけど、詳細を覚えていないので、確かめる術なし。
・頂相多し。臨済義玄とか虚堂智愚とか。
・狩野正信筆『釈迦三尊図』。『寒山拾得図』も好き。

【第5室】
・書状、宸筆。綸旨多し。
・襖(障壁)に猿回しが描かれている。

【第6室】
・小さい部屋に作品多数。
・長沢蘆雪筆『龍虎図』二幅と、その間に『大燈国師像』。
・明時代の『猫狗図』二幅。「狗図」は黒ぶち・茶ぶち・灰色のころころした子犬三匹に椿と太湖石、小鳥もいる。「猫図」は、前回キジトラと書いたが、サバトラかも。おすまし猫に牡丹、笹に雀。
・そして再び高麗絵画の『楊柳観音像』。これは本当に巨大。

【起龍軒】
・伝・牧谿筆『芙蓉図』。落款も署名もないのに、どうして牧谿と分かるのかなあ。
・利休の目利き添状は「宗易」の署名。

■高桐院



 次に、ここも一日限りの宝物曝涼をやっている高桐院へ。湿り気を含んで緑の鮮やかな竹林と苔庭のアプローチが美しい。書院の展示は、探幽筆『文殊・普賢像』、永徳筆『維摩居士像』が印象的。天正20年(文禄元年)の秀吉の書簡は、文禄の役(朝鮮出兵)に触れていて、けっこう生々しい。「然れば高麗国王、去る二日、内裏自ら放火せしめ逃げ退き候」等とある。

 茶室「意北軒」「松向軒」をさっと見て、本堂に向かう。方角を間違えて、思いがけず、銭選(銭舜挙)筆『牡丹図』二幅の飾られた部屋に、先に迷い込んでしまって慌てる。それから、ようやく本堂にたどりつく。

 本来の仏間の中央を塞いで、中央に『楊柳観音像』と左右に南宋の李唐筆『山水図』ニ幅が掛けられている。手前には濃い緑釉の香炉が置かれ、線香から煙が立ちのぼっていた。その前に太い青竹が渡されていて、観客が近づきすぎないよう、無言で諌めている。『山水図』は、向かって左に身をよじる巨木の図、向かって右に流れ落ちる滝の図。この配置は前回と同じだ。

 正面には、柱を背に、低い机を前に置いて、黙って見守るおじさんの姿。たぶん前回もお見かけした宇佐美松鶴堂の方だな、と思った。きちんと正座されていたので、一日中このままなんだろうか、と驚いたが、帰りがけに見たら足を崩されていたので、ほっとした。ちなみに、室内にはもうおひとり、学生ふうの若い女性の方も緊張した面持ちで正座しておられた。貴重な宝物を間近で拝観できる曝涼はありがたいけど、管理者の方は気が休まらないだろうなあ。

 前回、気づかなかったのだが、『山水図』の脇に木箱(保存箱)の蓋が飾られていて、蓋の裏に「平成弐年十一月廿八日修理完了/株式会社宇佐美松鶴堂請負/高桐院現在剛山識」(たぶん)と記されていた。また『牡丹図』の脇にも同様の蓋があり「昭和五拾年参月文化財保護法ニヨリ修理了/高桐院現在剛山宗忠代」と読めた。

 こうして二度目の大徳寺曝涼も堪能。外に出たときは、雲が切れて太陽が覗き、気温が上がっていた。またいつか来たい。どうか参観者が増えすぎませんように。この行事が続きますように。
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2016秋@大徳寺・聚光院特別公開

2016-10-10 20:58:39 | 行ったもの(美術館・見仏)
■大徳寺・聚光院 創建450年記念特別公開(2016年3月1日~2017年3月26日)

 10月の第二日曜に京都・大徳寺で行われる宝物曝涼(むしぼし)には、3年前の2013年に初めて行った。そろそろ、もう一度行ってみたくなって、今年は三連休関西旅行を企てていたのだが、最終日(今日)は東京の両親のもとを訪ねる必要が生じ、二日間しか遊べなくなった。行きの新幹線の中で、慌てて旅行計画を組み替えたので、けっこう大きな失敗をしてしまった。というのは、大徳寺の曝涼は日曜一日だけなのに、「これだけは見逃せない!」という思いが強すぎて、土曜日だというのに、京都に着くと直ちに大徳寺に向かってしまったのである。

 大徳寺本坊の前まで来て、自分の間違いに気づいて大ショック。仕方ないので、開いている塔頭寺院でも見ていこうかと考える。ふと本坊のすぐ隣りに「聚光院 特別公開」の大きな立て看板を見つける。そうだ、千利休の菩提寺で、狩野永徳の障壁画を有する聚光院が、創建450年を記念して、いま1年間の特別公開中なのであった。予約優先で、ホームページから日時を指定して申し込む、という話を聞いていたが、空きがあれば当日でも拝観を受け付けてくれるらしい。

 ダメもとで「今日はもう空きはないでしょうか?」と聞いてみたところ、受付の真面目そうなお姉さんが、受付表をめくって、しばらく考えたのち、「おひとり様でしたら次の回で行けますね…あと5分くらいで入場です」とおっしゃる。なんと、思いがけない幸運! 13:40になると、拝観料2,000円を払って門の中に入れてもらった。

 1回の定員は15名。大玄関で10分ほど待つ。大きな荷物はクロークに預け、「ご案内は約40分間ですから、先にトイレなどお済ませください」という指示がある。ご朱印は書いたものを頒布している。準備が整ったところで、女性の方の案内で方丈へ。

 方丈は、向かって右の「礼之間」に狩野松栄筆「瀟湘八景図」、中央の「室中之間」に狩野永徳筆「花鳥図」(奥の仏間、厨子の下の戸袋には松栄筆「蓮池藻魚図」)、左の「壇那之間」に永徳筆「琴棋書画図」。裏側にまわって「衣鉢之間」に松栄筆「竹虎遊猿図」という構成で、全46面ある。

 やはり圧巻は、永徳の「花鳥図」。室中之間は、たぶん24畳くらいあって、かなり広い空間なのだが(天井は低い)、その三方を変化に富んだ花鳥図が取り巻いている。右側(春の景色・梅の巨木)から左側(冬の景色・芦雁図)へゆっくりと動いていく時間。永徳は部屋の「角」を巧みに使って、奥行のある円環のような空間を作り出している。これはやはり、博物館の展示ケースでは分かりにくい。もとの配置に戻してこそ、実感できるものだと思う。なお、リンク先の特設サイトでは、襖が全て閉まった状態の写真を掲載しているが、実際は正面が少し空いていて、仏間のご本尊と三好長慶像、利休像が見える。

 松栄筆「竹虎遊猿図」は、サルの群れの中に白いサルが二匹いて、大きな白ザルが大御所・狩野元信で、母に抱かれている小さな白ザルが天才児・永徳、その横で、やるせない顔を膝を抱えているサルが狩野松栄という見立てがあるとか。松栄、ちょっとかわいそうだな。

 方丈の前庭は、あまり技巧に走らない簡素な石組みを持つ苔庭で、なかなかよかった。方丈の裏に茶室「閑隠席」「枡床席」がある。「閑隠席」の前の井戸は、釣瓶の滑車に織部焼きが使われていて、めずらしかった。最後に案内された書院は、2013年落慶で、千住博氏の障壁画「滝」が見どころ。チベット仏教を思わせる群青色に、白い滝が幾筋も流れ下る様は、天上界の青と雲あるいは雪山の白のようでもあった。



 拝観を終わって出てくると「本日は終了致しました」の貼り紙。結果的に超ラッキーだったというべきだろう。なお今回は、京都国立博物館に寄託している障壁画の9年ぶりの里帰り公開であるが、ふだんは2007年に作成された高精細のデジタル複製画が飾られているそうだ。複製もいいけど、現物が設置されている間に、もう1回くらい見たい。真冬の冷気を感じながら見てみたい。

 この日は、もう1箇所、塔頭の龍源院(2013年にご朱印を貰い逃したところ)に寄って、龍谷ミュージアムと京都市美術館を参観。夜は大津祭りへ。翌日、再び大徳寺に来て、方丈と高桐院の宝物曝涼を見た。続きは稿をあらためて。
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本人術はリアリズム/本人遺産(南伸坊)

2016-10-07 21:40:41 | 読んだもの(書籍)
○南伸坊、南文子『本人遺産』 文藝春秋 2016.8

 南伸坊さんが「本人」になり切った姿を、奥さんの文子さんが写真に収めたもの。2012年の『本人伝説』の続編である。撮り下ろし、雑誌『オール読物』に連載されたもの、その他の雑誌に掲載されたものが混じっている。初出の時期は、2012年から2016年ということで、最近、ニュースになった人々が多数登場する。

 一方で、古典的な文化人の肖像も多数あって、私はけっこう、このシリーズが好きだ。伸坊さん、作家顔なのかなあ。江戸川乱歩、内田百閒、大江健三郎とか、すごく似ている。本来の顔の輪郭からいってあり得ないのだが、三島由紀夫も似ている。

 本人の「談話」がついているものもあるが、これはあまり真面目に読まなかった。申し訳ないが、ひねった談話よりも、シンプルに顔面だけのほうがずっと面白い。笑ったのは、ロボット学者の石黒治センセイ。南さんが「本人」と「アンドロイド」の二役を演じ(分け)ているのが、まるで不条理劇みたいである。

 私が、似てると思ったのは、清原和博、舛添要一、タモリ、長島茂雄、林修。やっぱり、おじさんが似せやすいのか? 今回、女性は少なめのように思った。しかし、信じられないことに木村拓哉が似ている。南さんの「本人術」は、どこかに必ずずギュッと特徴をつかんだところがあって(目だったり、口だったり)、そこに注意が集中すると、あとは似ていようといまいと気にならなくなる。人間の認識力って、実に不思議なものだ(もしくは、いい加減なものだ)。

 巻末に、マンガ家・東海林さだおさんとの対談あり。本人術の裏オモテが語られていて面白い。有名人を認識する手段として、髪型や小道具は大事なんだなあ。似顔絵は特徴を誇張するけど、三次元で本人になり切るときはリアリズムなので誇張しすぎてはダメ、という話も興味深かった。
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共生を語る/アンチヘイト・ダイアローグ(中沢けい)

2016-10-06 22:11:08 | 読んだもの(書籍)
○中沢けい『アンチヘイト・ダイアローグ』 人文書院 2015.9

 新大久保でヘイトスピーチを含む反韓デモが行われていることを著者が知ったのは、2012年夏のことだという。2013年2月にはヘイトデモに抗議するカウンターと呼ばれる人々が登場し、やがて著者自身も抗議の現場に出たり、安保法制に反対する国会前の集会に出たりするようになる。その様子を、私は少し前からSNSで追いかけている。

 本書は、こうした「現代の現実」をベースに2015年の2月末から4月にかけて行われた対談集である。対話者は登場順に、中島京子、平野啓一郎、星野智幸、中野晃一、明戸隆浩、向山英彦、上瀧浩子、泥憲和の8人。最初の3人は小説家で、人気作家と呼んでいいのだろうが、同時代小説を読まないので、名前しか知らなかった。小説家のエッセイさえ、ほとんど読まないので、ああ、小説家って、こんな生活をしていて、こんなことを考えているんだ、というのが、ものめずらしくて面白かった。中沢けいさんの関心のせいか、いずれもアジア、特に韓国のことが話題に上がっている。中国・台湾・韓国では、日本の文学がよく読まれているのに、日本人はアジアの現代文学を知らない、というのは、よく言われることだけど本当にそう思う。

 政治学者の中野さんとは、現在の政治状況について。安倍政権には問題があるが、民主党が「自民党以上に優等生体質なところがあって、自分たちは正しいのだからいつか報われるし分かってもらえるという発想が強い」という分析は的確すぎて、参った。

 社会学者の明戸さんは、出版関係者による『NOヘイト!』の共著者の一人。在特会などが主導するヘイトスピーチデモが、古くからある差別とどう違うのか、寛容・包摂が規範化した現代において、それに反発する「バックラッシュ」の面を持っているのではないかと説く。向山さんはエコノミスト。経済面から、日本・韓国・中国の実力と影響関係を冷静に論じる。

 最後の二人は弁護士で、上瀧(こうたき)さんは、在特会による朝鮮学校襲撃事件等、反ヘイトスピーチ裁判を手がけ、泥さんも集団的自衛権、人種差別問題などに取り組んでいる。上瀧さんの、一人の権利を守ることが社会の公益につながる、という考え方に強く賛同する。このお二人は、個人的な閲歴がユニークで、特に泥さんは、小さな皮革工場に勤めたり、建設現場の人材派遣業をやって、自分も土方をやったり、小説みたいである。その泥さんが語る親鸞や阿弥陀の本願の話はとても面白かった。

 阿弥陀の願に「もしも私が悟りを開けるならば、すべての女性は洗濯や繕いものの苦労をしなくても済むだろう。これが実現できないようなら私は悟らない」というのがあるというのは知らなかった。いい話である。
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曜変天目もあり/中国陶磁勉強会(根津美術館)

2016-10-04 21:49:24 | 行ったもの(美術館・見仏)
根津美術館 コレクション展『中国陶磁勉強会』(2016年9月15日~10月23日)

 「コレクション展」といえば、ふつう、その美術館の所蔵品の中から選んだ作品が展示される。だから根津美術館の「中国陶磁勉強会」と聞いて、だいたい見たことのある品が並ぶんだろうな、と思っていた。それが、会場に入ってみると、何だか様子が違う。圧倒的に数が多い。展示リストを見たら、全121件。前半は、時代順に中国陶磁の歴史的な展開をたどり、後半は、日本で「唐物(からもの)」として大切にされた作品を鑑賞する構成になっているのだが、特に前半は「個人蔵」が過半を占めるのだ。いったい「個人」って誰?というのが不思議だったが、最後まで分からなかったし、今、ホームページ等を見ても分からない。

 入口付近の展示ケースでは、めずらしく濃紺の背景と展示台を設置していたのも、いつもと違う雰囲気に感じた原因かもしれない。白っぽい陶磁の色を引き立てて、効果的である。紀元前6000~5000年頃の土器『紅陶双耳壺』に始まり、彩陶、白陶、黒陶、灰陶(陶器)など。紀元後(後漢)に入って緑釉陶器が登場し、西晋時代には初期の青磁(越州窯系)、北斉時代には白釉陶器が生まれる。北斉の白釉碗は、宋代の白磁を思わせるくらい、薄くて美しくて、びっくりした。

 隋代の『緑釉貼花文大壺』は、大きく膨らんだ胴に花文と天女を象った型抜き文様を貼り付けた、華やかな名品。根津美術館の館蔵品だというが、記憶になかった。唐代の三彩、加彩駱駝。宋代に入ると、耀州窯の青磁、定窯の白磁、なごみの磁州窯など定番品が並ぶ。『黒釉掻落牡丹文扁壺』は「黒釉掻落(こくゆうかきおとし)」という技法から見て磁州窯だと思ったら、西夏時代の霊武窯(寧夏回族自治区)の作品だった。南宋の龍泉窯の青磁、景徳鎮の青白磁に続き、元代には青花が登場する。明代から清代にかけて、色とりどりの単色釉、多色を複雑に組み合わせた五彩、豆彩、粉彩など、中国陶磁は華麗な大発展を遂げる。なるほど、これだけ豊かな「実例」を見ながら、中国陶磁の歴史を一気に学べるのは、「勉強会」の名にふさわしい展覧会である。

 なお、解説パネルの文体が、なんとなくこれまでの展覧会と違っていて、「(彩陶の大量出土など考古学的発見に)驚いたものでした」と語りかけられて、思わず主語を探してしまった。個人の体験を書いているようで、親しみが湧いて好ましいのだけど、あんた誰なの~? ちなみに英語では「same of those discoveries were amazing」だった。

 後半は、茶の湯の世界で尊ばれた中国磁器「唐物」を展示。根津美術館の館蔵コレクションが並ぶ。茶壺、水指、花生、(陶製の)茶入なども。曜変天目(重要美術品)と油滴天目が1点ずつ出ていた。どちらも小ぶりで、斑文の色変わりは控えめで、落ち着いた感じで好ましかった。曜変天目は、この展覧会のポスターにもなっている。あれ?根津美術館も曜変天目を所蔵していたんだっけ?と思って、Wiki「曜変天目」の項を見たら、「現存するものは世界でわずか4点(または3点)」とあり、所蔵者として静嘉堂文庫、藤田美術館、大徳寺龍光院、MIHO MUSEUM(油滴天目ではないか?の声あり)が挙がっており、根津美術館の名前はない。

 根津美術館のホームページは、所蔵品について「16世紀初め頃にはすでに、曜変は最高の碗とされていました。この碗は、その当時にはまだ曜変としては認められていませんでした。江戸時代に加賀前田家が『曜変』の中に加えた茶碗です」と記す。ちなみにMIHO MUSEUMの茶碗も、Wikiに「加賀藩主前田家に伝えられたもの」というから、同系統なのかもしれない。名前はともかく、美しい茶碗であることは間違いない。ただ、私が手元に置きたいと激しく願うのは、呉州赤絵とか古染付である。景徳鎮民窯の『古染付葡萄棚水指』は、どう見ても葡萄に見えない、ゆる~い絵で楽しかった。

 展示室2は「唐物」つながりなのか、南宋~元の絵画。牧谿筆『瀟湘八景図巻』から切り取られた『漁村夕照図』(国宝)が出ている。『瀟湘八景図』模本は、「山市晴嵐」から「江天暮雪」まで六面が開いていた。気に入ったのは、伝・夏珪筆『風雨山水図』。画面の三分の二ほどは、雲に隠れた雨空だか岩壁だか。右下の隅に、斜めにした傘に隠れて道を行く人の姿が小さく小さく描かれている。

 展示室4は「中国の漆器」。展示室5は「名残の茶」で、わび・さび・やつれの茶道具を集める。この部屋だけ、中国手趣味が希薄で、日本好みだった。
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日本の手仕事と世界の民芸/柳宗悦・蒐集の軌跡(日本民芸館)

2016-10-03 21:27:28 | 行ったもの(美術館・見仏)
日本民芸館 特別展『柳宗悦・蒐集の軌跡-日本の工芸を中心に-』(2016年9月1日~11月23日)


 創設80周年記念特別展の第3弾は、朝鮮、沖縄に続き、日本の工芸を中心に柳宗悦の蒐集の軌跡を辿る企画。大階段の展示をちらりと見ながら、まず2階の大展示室に急ぐ。最初に目に入ったのは、左手の壁を隅から隅まで使った日本地図の大屏風。芹沢銈介の『日本民藝地図(現在之日本民藝)』(1941年)である。

 北から南へ、六曲、四曲、六曲の三枚仕立てになっている。都道府県が色分けされ、かなりデフォルメされた日本地図で、各都市・各地域の特産が「和紙」「曲物」「民窯」「漆器」などのマークで示されている。「都道府県」と言ったが、北海道は見切れていて、函館のある雄島半島がちらりと見えるのみ。元道民として、ちょっと寂しい。沖縄は宮古・八重山など特筆されているのに。ほかにも、よく見ると民芸品マークが多い県(山形とか)と少ない県(新潟とか)の差が激しいのは、何の表れなのか、興味深い。

 今回の大展示室には、伝統的な日本の工芸品が勢ぞろい(ただし蒐集時期は新しめで、昭和初期のものが多い)。磁器、土鍋、土瓶、鉄瓶、刺子の足袋、黄八丈など。日本の農具なのに、どこかエスニックな背当(ばんどり)は、むかしここの常設展示で知ったもの。がっしりした馬の鞍は祭礼用か、麻の葉の布団を敷き、キラキラした螺鈿で飾られていた。昭和23年刊の書籍『手仕事の日本』も並んでいて、いい書名だなあとしみじみする。

 2階の階段裏の特集は「日本民藝館の設立」で、初めて見る民芸館の『所蔵品分類札整理箱』が面白かった。江戸時代の薬箱を転用したもので、50あまりの大小の引き出しに、小さく切った薄い色紙(いろがみ)とハンコが入っている。色紙に「漆器」「木工」などのハンコを押して分類札として使っている(いた?)のだ。

 このほか2階は「朝鮮の美術 1914-」「雑器の美 1924-1931」「宗悦清玩」「『工藝』創刊 1931-1951」の4室と「初期大津絵」。雑誌『工藝』の表紙を貼り交ぜた屏風が面白かった。朝鮮の石仏の如来像は、先だっても見たように思うが、側面から見ると、頭部が左右から押しつぶされたようなかたちをしていることが分かった。室町時代の墨画『栗鼠図』もしみじみ見ると、アメコミの登場人物みたいな濃い顔をしていて可愛い(枇杷?を食ってる)。また、アイヌのマキリ(小刀)を見つけ、北海道にも「民藝」があることを確認して、ちょっと嬉しくなる。

 1階に下りつつ、大階段の上に掛けられた大きな屏風が『近江八幡文様芝居幕』に木枠をはめたものであること、踊り場には、中国製の紫檀の長卓に(民芸館の訪問者にはおなじみ)笑顔の地蔵菩薩像(木喰仏)が載っていることを確認する。階段下の展示ケースは「『白樺』時代の蒐集 1910-1923」。唐代の踊る女性俑があったり、ウィリアム・ブレイクの版画があったり、ユニバーサルでみずみずしい審美眼を感じる。まわりの壁には、チベットの絨毯や、大きな種子(梵字)を描いた両界曼荼羅一対が掛かっていた。

 ほかに「丹波焼の蒐集 1949-1961」「『抽象』と『破形』」「仏教哲学」の3室。「仏教哲学」は、日本民芸館では、ありそうであまりない特集だと思う。日本で刊行された仏教書は、黒々した墨付きが美しい。色絵和讃、黒駒太子図もいい。しかし、いちばん惹かれたのは円空の聖観音像。正面から見ると、特に珍しくない造形なのに、側面から見ると極端に薄い。民芸館といえば、木喰仏のイメージが強かったが、この円空仏もなかなかいいと思った。
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多才で多彩/鈴木其一(サントリー美術館)

2016-10-01 22:43:36 | 行ったもの(美術館・見仏)
サントリー美術館 『鈴木其一 江戸琳派の美学』(2016年9月10日~10月30日)

 鈴木其一(すずききいつ、1796-1858)は、江戸琳派の祖・酒井抱一の一番弟子。本展は、其一派や江戸琳派の関連作品を含めると、200件近い作品が揃う大回顧展である。ただし、姫路市立美術館、細見美術館にも巡回する上、サントリー美術館でも5期の展示替えがある。ま、最大の見ものである、メトロポリタン美術館所蔵『朝顔図屏風』は全期展示なので、ひとまず安心し、あとは運試しと思って出かけてみた。

 鈴木其一というと、私は月次の花鳥図とか花木図のイメージが強いが、墨画や美人画や歴史がなど、いろいろな作品を手掛けていることを改めて知った。大作では、光琳に学んだと見られる『群鶴図屏風』(ファインバーグコレクション)。金地屏風に青い水流。黒と白と灰色のかたまりである真鶴の群れ。このパロディみたいな『水辺家鴨図屏風』(細見美術館)もかわいい。

 描き表装の作品がまとめて展示してあったのも面白かった。華やかな『三十六歌仙図』(出光)など。仏画であり、描き表装でもある『虚空蔵菩薩像』(ファインバーグ)も素晴らしかった。紺青の下地に五色(?)の雲と蓮の花びらが規則正しく舞っていて、チベット仏画の雰囲気がある。図録を見てると、後期展示の仏画もいいなあ。特に描き表装の『白衣観音像』。

 階段を下りて、後半の展示に向かうところ。階段上の天井に大きな凧がディスプレイされている。鬼女の図と達磨の図と二種類。実はこれ、其一直筆の凧(複製)なのだそうだ。本物は階段下の展示ケースに飾られている。状態は驚くほどよい。前期は桜と紅葉を背景に大きく鬼女の面を描いた『紅葉狩図凧』。このコーナーには絵馬や羽子板(裏も表も超かわいい)もあって、琳派の芸術が、当時の生活に密着していたことをしのばせる。「節句掛」というのは、一度使ったら破棄すべき絵画だったのかー(図録の解説による)。

 季節の花木図はいちばん其一らしさを感じる。そして「江戸の美意識」の中心みたいな安心感がある。たまたま、見る機会の少ない『向日葵図』(畠山美術館)に巡り会えて、思わず声が出てしまった。この厳格な正面性、神仏図のような敬虔な感じがする。水色の長い花房が垂れた『藤花図』(細見美術館)もよかったが、色違いみたいに紫色の花房を描いた作品(個人蔵)もあるのだな。並べて見たい。『花菖蒲に蛾図』(ファインバーグ)の精巧な菖蒲(あやめ)の文様もよかった。ファインバーグさん、いい作品を持っているなあ。2013年の『ファインバーグ・コレクション展』を見たときは、特に其一が好きという印象は受けなかったんだけど。そして、図録を見ていると、後期や他館で出る作品にも、非常に面白そうな作品が多い。しかも個人蔵が多いので、この展覧会を逃すともう見られないかもしれないので困った。

 さて、お宝『朝顔図屏風』は最後に登場。もちろん、文句なく美しい。しかし、思っていたよりも大輪である。園芸種の朝顔の実物大くらい。私は、この花つき具合と色から見て、野生種に近い小型の朝顔を想像していたので、ちょっと戸惑った。しかも、これまで平面(図録写真)でしか見たことがなかったのだが、三次元の屏風として立てると、よりダイナミックで力強い印象になるのが面白かった。

 なお、途中の年表を見ていて、鈴木其一が安政5年(1858)流行のコレラに罹患して没したことを初めて知って驚いた。Wikiでは「死因は当時流行したコレラともいわれる」という微妙な書き方になっている。
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