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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

ロンドンで本を読む

2022-03-06 18:34:18 | 丸谷才一

丸谷才一 編著 2007年 光文社知恵の森文庫版
これは2年前の夏ごろに地元の古本屋で買った文庫、ずっと読まずにいた、しょーがねーなー、俺。
サブタイトルは、「最高の書評による読書案内」。
どういう本かってのは、冒頭に丸谷さんが説明してくれている。
>『ロンドンで本を読む』は現代イギリス書評名作選で、第一に書評の藝の見本帖になつてゐる。新刊書の評判記ないし買物案内といふ形式も、伝統が豊かで社会が贅沢ならこれだけの充実と精妙に達することができる。(p.17)
っつーわけだ。これまでもいろんなとこで丸谷さんはイギリスの雑誌とかの書評文化をたたえてるんで、その選集つくるの担うのは当然のなりゆきか。
イギリスの書評ってのは雑誌の主な要素だったとして、
>(略)書評はまづ本の内容の紹介であつた。どういふことがどんな具合に書いてあるかを上手に伝達し、それを読めば問題の新著を読まなくてもいちおう何とか社会に伍してゆけるのでなくちやならない。(略)
>この場合、著者や彼の主題の背景を客観的に説明する手際のよさは、不可欠の条件だ。読者に恥をかかせず、事態をあつさりと呑みこませることはイギリスの書評の習はしで、それは教育的な情熱といふよりはむしろ、社交的な精神のあらはれらしい。
>紹介の次に大事なのは、評価といふ機能である。つまり、この本は読むに価するかどうか。それについての書評家の判断を、読者のほうでは、掲載紙誌の格式や傾向、書評家の信用度などを参照しながら、受入れたり受入れなかつたりするわけだ。(p.10-11)
というふうに説明してくれている、私なんかは書評の情報だけで読んだふりすることはとてもできそうにない、それってイギリス的紳士の資格がないってことみたいだけど。
収録されてる個々の書評の前にも丸谷さんによる解説があるが、いかにその書評がすぐれてるか示すのがいい。
たとえば、イギリスの詩人・批評家が遠藤周作をイギリスの読者に紹介したものについて、
>ところがその紹介の仕方がうまい。巧妙で、端正で、瀟洒である。文学事典ふうに書かない。ジャーナリズムとして書く。(p.156)
なんて調子である、作品をほめている書評もまたひとつの作品みたいに取り扱ってほめる。
本編は翻訳文なんだけど、読みやすくてサーッと読めた。
ところが、最後までいって問題発生、
>本書は『ロンドンで本を読む』(二〇〇一年六月/マガジンハウス刊)の本文中の41編を21編に再構成して、文庫化したものです。
とあった、もとの半分しかないのかい、くー、単行本がほしくなってしまった。
コンテンツは以下のとおり。本書の目次ではとりあげてる書名が先で、書評のタイトルが後になってるんだけど、私は逆にしてみた。
イギリス書評の藝と風格について 丸谷才一
クンデラと俗悪なもの ジョン・ベイリー(富士川義之訳)
 ミラン・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』
一七五〇年のマージー・サウンド ブリジッド・ブローフィ(出淵博訳)
 ジョン・クレランド『ファニー・ヒル』
戸棚に隠されたケルト人の謎 匿名氏(小池滋訳)
 コナン・ドイル『オクスフォード版 シャーロック・ホームズ全集』
頭でバン! サルマン・ラシュディ(池澤夏樹訳)
 スティーブン・W・ホーキング『ホーキング、宇宙を語る』
フレッド・アンド・グラディス・ショー ジョン・ノートン(沢崎順之助訳)
 アンドリュー・モートン『ダイアナ妃の真実』
マウスとメタル・ウェーファーの奇跡 アントニー・バージェス(大澤正佳訳)
 コンパクト・ディスク版『オクスフォード英語大辞典』(第二版)
過ぎ去りし日の思い出 アンガス・ウィルソン(出淵博訳)
 マルセル・プルースト『失われた時を求めて』
パッション・フルーツ ローナ・セージ(出淵博訳)
 マルグリット・デュラス『愛人』
エヴァがアダムを誘惑したとき、いったいどんな言語で誘ったのか? ジョージ・スタイナー(土岐恒二訳)
 ワルター・ベンヤミン『ワルター・ベンヤミン著作選集』第一巻(一九一三~一九二六)
『ブルームズデイ・ブック』 アントニー・バージェス(大澤正佳訳)
 ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』(H・W・ガーブラー編 原典批評研究版)
エーコ博士の流血館 ニコラス・シュリンプトン(富山太佳夫訳)
 ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』
レディ・ムラサキ V・S・プリチェット(出淵博訳)
 紫式部『源氏物語』
日本への布教 アントニー・スウェイト(小野寺健訳)
 遠藤周作『侍』
一人分のチャーハン アントニー・バージェス(幾野宏訳)
 丸谷才一『たった一人の反乱』
精神病院からの眺め ジュリアン・ルース(小野寺健訳)
 北杜夫『幽霊』『楡家の人々』
わんさかワタナベ リチャード・ロイド・パリー(小野寺健訳)
 村上春樹『象の消滅』
英語に恋して フィリップ・トインビー(富士川義之訳)
 ウラジミール・ナボコフ『ロリータ』
超素朴アメリカン小説 パトリック・スキーン・カトリング(富山太佳夫訳)
 J・D・サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』『エズメに捧ぐ/その他の短篇』『フラニーとズーイ』『大工よ、屋根の梁を高く上げよ/シーモア序章』
 イアン・ハミルトン『サリンジャーを探して』
覗く者と覗かれる者 ピーター・ケンプ(川本三郎訳)
 レイモンド・カーヴァー『ファイアズ(炎)』
ボディ・ポリティック マリーナ・ウォーナー(沢崎順之助訳)
 マドンナ写真集『SEX』

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