many books 参考文献

好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

荒野の古本屋

2014-11-27 21:48:26 | 読んだ本
森岡督行 2014年3月 晶文社
ちょっと前に買っといて、つい最近読んだ本。
(その間が4カ月もあるというのが、いかがなものかと思う、近年の私。)
著者は、茅場町で古書店を経営しているんだけど、開店直後のひと月くらいのあいだ、あまりにお客さんが来なくて、侘びしい荒れ地に店をかまえてしまったという感想をもったことが、タイトルになってる。
学校を出たあと、一年間は就職をせずに、古本屋をめぐって少ない予算で好きな本を買ったりって生活をしていたんだけど、ふとした縁から神保町の老舗古書店に就職する。
そこでいろんなことを学んで、あるとき、これまた直感的な出会いのようなものから、独立を決意する。
そうかあ、古本屋で働くとか自分の店開くとかってのは、こういうことするんだ、と大いに参考になるんだけど、写真集を買いつけにプラハに行ったりとか、なかなかできることぢゃない。
最初に、社会と距離をおきたいから就職せずにいた、とかなんとか言ってたわりには、なんだかんだ積極的に人とコミュニケーションとろうとするし、古本屋を開くのに必要なのは、こういうアタックしていく姿勢なのかなと思う、なかなか大変、簡単にはマネできない。
(それは、めんどくさがりで人嫌いな私が思うことであって、案外ふつうなことなのかもしれないけど。)
で、いろいろやってくうちに、古本屋兼ギャラリーという新しい形態にたどりつく。
そういう本を売るだけぢゃない書店のありようを、オルタナティブ書店と自ら呼んで、そっちの方向の可能性を切り開いていく。
それはそうと、随所にでてくるんだけど、著者は、
>古いビルの話になると私はボルテージが上がる。
というおもしろいところがあって、これはまことにもっていい趣味だといえる。

あとから気づいたんだけど、本書は「就職しないで生きるには21」というシリーズの一冊らしい。
ほかのラインナップは知らないけれど、すごい名前のシリーズだねと思う。
ぜひ私のようなもののために、“退職して生きるには”という(できたら古本屋ものネタを含む)シリーズの刊行を期待したい。


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幸福な死

2014-11-26 20:26:14 | 読んだ本
カミュ/高畠正明訳 昭和51年 新潮文庫版
私の持ってるのは、昭和58年の16刷で、たぶんそのころ読んだんだろうけど。
当時の私が、なにをどうおもしろいと思って、こんなものを読んでたんだかは、いまとなっては計り知れない。
まあ、たぶん『異邦人』がムチャクチャおもしろいというか、ツボにはまったというか、刺激的だったんで、同じ作者のものを追っかけたんだろうけど。
タイトルからして魅惑的だよね、幸福な死って何?って思うぢゃない、哲学とかに興味もちはじめた青二才としては。
この『幸福な死』は、カミュ自身が発表したものぢゃなくて、没後に見っかた原稿を、周囲がむりくり(?)刊行したものらしい。
なので、残された原稿とか、それに付随するメモとかをもとに、「ヴァリアントならびに注(ノート)」っていう膨大な注がふられてて、本文読んでてもあちこちに注を示すナンバーがあって、はなはだ読みにくい。
それはしょうがないとして。
この文庫では巻末におかれた、「『幸福な死』の成立について」とか、解説を読めば、「異邦人」へのつながりなんかがあるらしい重要さはなんとなくわかるんだけど。
「第一部 自然な死」と「第二部 意識された死」の二部から成ってる。
第一部は、ある登場人物がべつの登場人物を殺しちゃう。
まあいいや、不条理系の元祖か本家か、神みたいな存在か知らないけど、とにかくそういう人の書いたものだから、常人には分からない論理でも全部肯定しちゃう。
第二部は、わりとふつうで、主人公らしき人も魅力的な女性たちに囲まれてたりして、一見どこにも死の匂いはしないんだけど。
読み進んでくうちに、やがて「あー、このひと、死んぢゃうんだ。うーん、つらいな、それは」みたいなものが浮かびあがってくる。
だからどうしたということのほどのもんはないんだけどね。
初めて読んだときの私が、きっと「死」というものについて魅惑的に感じていたのは、容易に想像できるんだけど。
いま読み返してみると、また違ったものを感じてしまうのは、時が流れた結果として、しょうがない。
なんていうかねえ、近ごろでは、若いときと違って、「死」というものをリアルに感じるんだ。
病を患ったり、身体の不調に直面したりすると、「ホントに、このまま死んぢゃうのかも」という感覚に襲われるんだよね。
本書の第二部にも、
>自分がこのままこうした無意識の状態で、目の前のものを見ることができなくなって死んでしまうのかもしれないという不安が、かれの想念に浮んできた。
なんて箇所があるけど。
若いころは比喩というか観念的だったと思うんだけど、このトシになると、ホントに死んぢゃうかも、死んぢゃったらどうしよう、って現実的なものになっている。

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のら犬は一生懸命

2014-11-25 18:02:19 | 読んだ本
ウォーレン・マーフィー/田村義進訳 昭和63年 ハヤカワ文庫版
推理小説つながり。
って、どうかな、これを推理小説と呼んでいいかどうか。
少なくとも私は、推理小説を求められても、ひとにはこれをすすめないな。
だって、あいかわらず主人公は、聞き込み先で名前を訊かれても、
>「デヴリン・トレーシー。友人はトレースと呼ぶ」
>「敵はなんて呼ぶの」
>「敵は三人しかいない。ひとりは元亭主と呼び、残るふたりは親父と呼ぶ」
なんて調子で与太をとばしてばかりだし。
というトレースシリーズの第五作、原題は「ONCE A MUTT」。ひさしぶりに読み返してみた。
初めて読んだときには辞書をひいたりなんかしなかったんだけど、いま改めて調べたら、MUTTって雑種犬という意味とまぬけという意味があるそうで。
ストーリーのほうは、7年前に飛行機事故で行方不明になった人物の死亡認定をめぐる調査が仕事。
雇い主の保険会社は、当然保険金を支払いたくないんだけど、誰も否定するだけの証拠はみつけられない。
で、トレースにお鉢がまわってくるんだが、そんな引き受けたくない面倒な仕事を引き受けざるをえない状況が、もうひとつのおもしろいストーリー。
友人に誘われて、海辺の街のレストランに投資話に乗ったんだが、開店する前から物件が水浸しになってしまって、修繕のためにカネが必要になったんで、いやいや働く破目になったというもの。
行く先々で、「新規事業の倒産率の一番高いのは飲食店業で、新しいレストランの75%は赤字倒産している」という話を聞かされてしまうし。
それでも、かねてから、タルサの街を駐車場にするとか、自動車のフロントガラスに逆さ文字を貼りつけるとかってアイデアで一儲けを妄想してた、トレースにしては堅実な選択のつもりだったんだろうけど。
まあ、そのへんはいいとして、本作のなかにトレースとチコの出会いのエピソードがあったのが興味深かったりした。
(いままでのなかにもあったのかな、おぼえていないだけかも。)
離婚してギャンブラーになったあと、保険会社の社長が娼婦に百万ドルの証券を巻きあげられようとしていたところを助けてやったころ、
>男に追いかけられて、裸のままマンションの廊下にでてきたところだった。
>トレースは男をぶんのめして、服をとりもどし、ブラックジャックのディーラーの仕事を見つけてやった。(略)
のが出会いだそうだ。なかなかおもしろい世界の住人だ。
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スタイルズ荘の怪事件

2014-11-21 19:54:26 | 読んだ本
アガサ・クリスティ/能島武文訳 昭和34年 新潮文庫版
推理小説つながり。
ホームズを読んだころ、世界にはポアロという名探偵もいるらしいということで、いくつか読んだクリスティ。
結論からいうと、私にはあまりおもしろくなかったので、ぜんぶおっかけるようなまねはしなかったけど。
原題“The Mysterious Affair at Styles”は、1920年発表のクリスティのデビュー作らしい。
語り手であるヘイスティングス氏は第一次世界大戦の傷病兵で、イギリスの田舎の別荘で厄介になっていると、そこの主の老婦人が殺されてしまうという事件が起きる。
どうみたって財産目当てだろって周囲からは訝られてる新しい夫とか、遺言状の内容次第では有利不利が分かれる二人の息子(とはいっても前夫の連れ子なので血がつながっていない)とか、身内があやしいという状況なんだが。
そこへたまたま近隣にいあわせたポアロが登場する。
>この小さな灰色の細胞ですよ。『これに責任あり』です
だなんて言うんだけど、なんか発見したり思いついたときの躁状態みたいな態度は、けっこう変わってる人だと思う、この探偵さんは。
この小説の終盤では、
>神経を鎮めているだけなんですよ。この作業は、指の正確さがいるんです。指が正確になれば、頭の働きも正確になる。
とか言って、一生懸命トランプタワーを建てたりしてるし。
で、ストーリーのほうは、うろおぼえだけど、たしかダブル・ジョパディーがテーマだったような気がしつつ、実にひさしぶりに読み返した。
毒殺につかわれたストリキニーネの効き目が何故すぐ現れずに遅くなったかというところがポイントだった、あー、そうだったかと。
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シャーロック・ホームズ最後の挨拶

2014-11-19 19:30:53 | 読んだ本
コナン・ドイル/延原謙訳 昭和30年 新潮文庫版
私の持ってるのは、昭和55年の46刷。
こないだの「透明人間」の副題は「グロテスクな綺譚」だったんだけど、この短編集の冒頭は、
>「ワトスン君、きみはそれでも文学者といわなくちゃなるまいが、怪奇グロテスクという言葉をどう定義するかね?」
というホームズの言葉で始まる。ワトスン先生は、
>「不思議ストレンジとか、世の常ならぬリマーカブルとか……」
というのだが、ホームズは頭をふって、
>「それ以上の意味がふくまれている。悲劇的な、恐ろしさを思わすものが、その奥に感じられる言葉だ。(略)」
という。だからどうしたということもないが、悲劇的なというところが、わかったようなわからないようなまま使ってしまう私なんかには大事な定義だと思ったので。
(よく昭和の(?)マンガに向けた悪口の決まり文句なんかで「エロ・グロ・ナンセンス」とかっていうようなとこあるんだけど、これって不快ぐらいの意味しかないんぢゃないかと思う。)
さて、このホームズ第四短編集「His Last Bow」は、8つの短編からなっている。
「ウィステリア荘」Wisteria Lodge.
怪奇を体験したと電報を打ってきた依頼者のエクルズは、最近親しくなったばかりのガルシアという人物の住むウィステリア荘を訪問した。
しかし、一夜明けると、客である自分を残して、主人も下男もコックも姿をくらましてしまったのだという。
「ボール箱」The Cardboard Box.
隠居にちかい生活をしている五十歳の婦人のもとに、アイルランドからの小包で、人の耳が二つ入ったボール箱が送りつけられた。
レストレード警部の要請でホームズが現地に赴くと、注意をひいたのは変わったところのある紐と耳のかたち。
「赤い輪」The Red Circle.
依頼人は下宿の主婦のワレン夫人、こんどきた下宿人は部屋に閉じこもったきり姿を見せず、欲しいものは紙に印字したメモをよこすのだという。
心配いらないと一度は依頼人を帰すが、夫が拉致されかかったと再び駆け込んでくるにあたり、ホームズたちは現地に張り込むことになる。
「ブルース・パティントン設計書」The Bruce-Partinton Plans.
深い霧の日が続くロンドン、ある朝地下鉄の線路近くで死体が発見された。
依頼者はホームズの兄マイクロフト、死体になった男は極秘の新型潜航艇の設計書を持ち出しており、国家のために全力で行方を探せという。
「瀕死の探偵」The Dying Detective.
ハドスン夫人に呼ばれてワトスンが駈けつけてみると、ホームズは痩せ細って熱にうなされ譫言を口走るような状態。
医者の診察をうけるべきだとワトスンがいうと、ホームズは東洋の病気に詳しいカルヴァトン・スミスという人物を呼んできてくれという。
「フランシス・カーファクス姫の失跡」The Disappearance of Lady Frances Carfax.
伯爵家の末裔フランシス姫からの便りが途絶えたことから、ワトスンがホームズの代理でローザンヌまで調査に赴く。
調べていくうちに、あるときは伝道師シュレシンガ博士またあるときは神聖(ホリイ)ピーターズと呼ばれる男の存在が浮かびあがる。
「悪魔の足」The Devil's Foot.
医師から静養を命ぜられたホームズは、ワトスンといっしょにコーンウォールにきていたが、静かなこの地方でも事件が起きる。
ある家で、部屋のなかでテーブルを囲み椅子にすわったまま、男の兄弟は二人とも発狂、妹ひとりは恐怖の表情を浮かべたまま死んでいた。
「最後の挨拶」His Last Bow.
三人称で書かれているし、冒頭からわかりやすい事件発生の模様が書かれてるわけでもないし、初めて読んだときは戸惑った。
第一次大戦直前、イギリス国内に潜入しているドイツのスパイであるフォン・ボルクは、成果をあげて撤退しようとしていた。
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