穂村弘 2016年7月 PHP研究所
最近出たのを見つけて買って読んだ、私の好きな歌人、穂村弘のエッセイ集。
しかし、好きな歌人とか言って、全然短歌は読まないで、こういうのばっか面白がってんだけど、ま、いいか。
タイトルから想像つくとおり、怖いことに関してってのがテーマ。
ただ、単純に怪談めいた話だけぢゃない。
いままでのエッセイでもあったと思うけど、日常のちょっとしたことが自然にできない、みたいな弱点を著者は持ってて、本書のあとがきにも、飲み会に途中参加したり宴の途中で席を移動したりするのがこわい、なんて例があげられてるように、そういうのがある。
>他人の心は読めない。いくら考えても、やってみるまでわからないことが多すぎる。それが私の心におそれを生むのだ。(p.126「やってみるまでわからない」)
ってことで、なにかをちょっと変化させることで、それまでの関係がこわれちゃうことを恐れるっていうのが基本線にあるみたい。
あと、体重計に乗る時は服を着て何かを手に持ったままとか、かなり以前に出演したテレビは観られるがリアルタイムのは観るのがこわいとか、
>誤魔化しツール。私は現実を直視することができないのだ。(p.135「現実曲視」)
っていう自身の傾向を認めてるけど、この弱さがおもしろい作品を生んでいるってのはあると思う。
全部で44篇あるけど、実際にタイトルの「鳥肌が立った」って表現が出てくるのがいくつか。
・プロジェクトの最終日に他の参加者から“鉛筆のキャップ”をひとつずつもらいたいという女性。電卓を使ってもらったっていう。どこに電卓があるのか訊くと、何も無い片手を開いてみせる。ぱあっと鳥肌が立つ。(p.72「ヤゴと電卓」)
・外国の連続殺人事件の雑誌記事を読んでるとき、被害者女性の写真が並んでるページがあった、ぜんぶ青い目に金髪のロングヘアーの真ん中分け。それを見た瞬間に鳥肌が立った。(p.74-75「そっくりさん」)
・路上にヘンなものが落ちてたり、並んでたりして、意味わからないとこわい。或る場所に大量のベビー靴が飾られているのを見たことがある。鳥肌が立った。(p104「落ちている」)
・83歳になった父と鮨屋に行った。耳の遠い父親が、べつの席にいる客を指して、有名人じゃないかというが、どうみても普通の人っぽい。しばらくして、父は、その隣のひとも有名人じゃないかと云う。その瞬間、鳥肌が立った。(p.217「鮨屋にて」)
というぐらいか。最後のは説明が必要で、その何年か前に亡くなった母親に「今は昼かい?夜かい?」って質問されて困ったという悲しい経験がベースにある。
鳥肌が立つまでいくと困りものなんだけど、そのちょっと手前、「状況が理解できればなんでもないことなのに、それを把握するまでは脳内がパニック」くらいの出来事は、語られるのを他人事として聞いてるぶんには面白い。
撫でようと手を伸ばした猫がふいと顔を上げたら、異常な姿をしてて鳥肌が立ったけど、正体は耳が短い種類のウサギだった、みたいなやつ。(p.164-165「異常な猫」)
最近出たのを見つけて買って読んだ、私の好きな歌人、穂村弘のエッセイ集。
しかし、好きな歌人とか言って、全然短歌は読まないで、こういうのばっか面白がってんだけど、ま、いいか。
タイトルから想像つくとおり、怖いことに関してってのがテーマ。
ただ、単純に怪談めいた話だけぢゃない。
いままでのエッセイでもあったと思うけど、日常のちょっとしたことが自然にできない、みたいな弱点を著者は持ってて、本書のあとがきにも、飲み会に途中参加したり宴の途中で席を移動したりするのがこわい、なんて例があげられてるように、そういうのがある。
>他人の心は読めない。いくら考えても、やってみるまでわからないことが多すぎる。それが私の心におそれを生むのだ。(p.126「やってみるまでわからない」)
ってことで、なにかをちょっと変化させることで、それまでの関係がこわれちゃうことを恐れるっていうのが基本線にあるみたい。
あと、体重計に乗る時は服を着て何かを手に持ったままとか、かなり以前に出演したテレビは観られるがリアルタイムのは観るのがこわいとか、
>誤魔化しツール。私は現実を直視することができないのだ。(p.135「現実曲視」)
っていう自身の傾向を認めてるけど、この弱さがおもしろい作品を生んでいるってのはあると思う。
全部で44篇あるけど、実際にタイトルの「鳥肌が立った」って表現が出てくるのがいくつか。
・プロジェクトの最終日に他の参加者から“鉛筆のキャップ”をひとつずつもらいたいという女性。電卓を使ってもらったっていう。どこに電卓があるのか訊くと、何も無い片手を開いてみせる。ぱあっと鳥肌が立つ。(p.72「ヤゴと電卓」)
・外国の連続殺人事件の雑誌記事を読んでるとき、被害者女性の写真が並んでるページがあった、ぜんぶ青い目に金髪のロングヘアーの真ん中分け。それを見た瞬間に鳥肌が立った。(p.74-75「そっくりさん」)
・路上にヘンなものが落ちてたり、並んでたりして、意味わからないとこわい。或る場所に大量のベビー靴が飾られているのを見たことがある。鳥肌が立った。(p104「落ちている」)
・83歳になった父と鮨屋に行った。耳の遠い父親が、べつの席にいる客を指して、有名人じゃないかというが、どうみても普通の人っぽい。しばらくして、父は、その隣のひとも有名人じゃないかと云う。その瞬間、鳥肌が立った。(p.217「鮨屋にて」)
というぐらいか。最後のは説明が必要で、その何年か前に亡くなった母親に「今は昼かい?夜かい?」って質問されて困ったという悲しい経験がベースにある。
鳥肌が立つまでいくと困りものなんだけど、そのちょっと手前、「状況が理解できればなんでもないことなのに、それを把握するまでは脳内がパニック」くらいの出来事は、語られるのを他人事として聞いてるぶんには面白い。
撫でようと手を伸ばした猫がふいと顔を上げたら、異常な姿をしてて鳥肌が立ったけど、正体は耳が短い種類のウサギだった、みたいなやつ。(p.164-165「異常な猫」)
「鉛筆のキャップ」って、
あるプロジェクト合宿の打ち上げの席で、それぞれが感想をいうって場面で、ある若い女性が、
「楽しかった、お別れするのが淋しい。記念にみんなの鉛筆のキャップをひとつずつ貰って帰りたいと思います」
と言ったんで、笑い声があがった、って話ですよね。
突拍子もないこというんで面白い冗談だと思ってたら、彼女は冗談ではなくマジで言ってた…
その論理が理解できねー、ってことですよね。
このひと、おかしくね? という事態に鳥肌が立つ。
鉛筆のキャップがなんのメタファーなのかとかそういうことはわかりませんけど。