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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

火床より出でて

2017-04-30 19:08:02 | 読んだ本
山上たつひこ 2011年 小学館文庫版
『光る風』を読まなきゃあと思いつつも、手に入れようという気合がすこし足りなくて、まだ探していない。
代わりというわけぢゃあないが、最近読んだ山上たつひこの小説。たしか『枕の千両』買ったときに、ついでに一緒に買ったもの。
2003年の『追憶の夜』を改題したという文庫。タイトル「火床」は「ほど」である、読めなかった。
小説の舞台は著者の住む金沢、時代は西暦二千年、ときの総理大臣なんて誰だか忘れてたけど本文中に森首相とあった、石川県選出だね。
主人公は、金沢に事務所をかまえる私立探偵。ほう、こまわりぢゃなくて、探偵小説なんだ、と何のジャンルか知らないまま買ったもんで、ちょっと意外だった。
最初の依頼人は、自分が生まれる前に、兄を亡くした学生。
23年前に、自宅に押し入った男によって、両親は包丁で刺されて重傷、当時7歳だった男児は連れ去られて、殺されたとされているが、実は死体は見つかっていない。
逮捕された加害者と、被害者である父親の関係は、患者と医者。患者は末期の胃癌で、医者の診断ミスで命が縮まったと、逆恨みして犯行に及んだ。
9日間にわたる逃亡のあいだと逮捕された後にも、日本の医療を糾弾するみたいな声明まで出したんで、社会問題にもなった犯人は、未決拘留のまま病死した。
で、依頼人である被害者の肉親の依頼はなにかっていうと、最近になって死刑制度廃止運動のグループが両親に近づいてきたようなので、死んだ犯人の妻と娘の動向を探ってくれというもの。
ところが、調べてくうちに、当の調査対象である犯人の娘が、依頼人として探偵の自宅に押しかけてくる。
こちらの依頼は、死んだ父の昔の友人で、事件のあと自分たち家族を支えてくれて、母に仕事まで紹介してくれた、ある人物を探してくれというもの。
ちなみに、母は最近亡くなってしまい、娘自身は死刑制度廃止運動をするってわけぢゃなくて、とにかくその人にもう一度会いたいというレベル。
妙な立場に立たされた探偵だが、職業倫理に反しないようにして、両方に結果を報告できるようにするべく調査をすすめてく。
その過程で、死刑制度廃止運動のグループにも接触したりするんだけど、そこでの議論は、これが主題なのか重たいねえと一度は思わされる。
でも、最後は、ちゃんとミステリーらしい、意外な真相が明らかになる、って驚かされかたされるのが、なかなかよろしい。
(ちょっと雰囲気的には、京極堂シリーズのようなものを感じた。)
んー、『枕の千両』でもそうだけど、独自のドロドロした書き方がすごいやね、格闘シーンとかグチャグチャ感がいっぱい。
その圧倒的な力は、たとえて言わせてもらえば、とても寝る前とかには読めない、これ読んで寝たら悪夢にうなされそう。
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やりすぎマンガ列伝

2017-04-29 18:37:31 | 読んだ本
南信長 2015年 角川書店
ちょっと前に、書店のサブカルコーナーみたいなとこで見つけて、オッと思って、目次サッと見たら、つい買っちゃった本。
著者のなまえは、前に『マンガの食卓』って本を読んだんで、おぼえてたわけなんだが。
目次の最初に「やりすぎスポーツマンガ」ってあって、そりゃあアレだよなって思ったやつが、その横いちばん最初にタイトル名挙げられてたんで。
こりゃあ時代的にもチョイス的にも一致するものあるだろうなと思ったのが、読んでみよっかって動機のひとつではある。
70年代の週刊少年マンガ誌、とくに後発の「ジャンプ」の持つ熱いというか「過剰で濃厚な世界」(p.15)が、やっぱすごかったんだろうと思う。
私はリアルタイムで読んでたものもあるんで、影響けっこう大きかったんぢゃないかという気がする。
出て来るマンガのなかには、なつかしいなー、でとどまらず、今でもできることなら何とかして全部そろえて読んでみたいと思うものもいくつかある。
もちろん読んだことないのもあるんだが、全部が全部、読んでみたいとまでは思えてこないのは、私がトシとったせいかも。
んー、でも、やっぱ読んだことなくて読んでみたいのは、『光る風』かなあ。
章立てと紹介されてるマンガは以下のとおり。
第1章 やりすぎスポーツマンガ
『アストロ球団』『侍ジャイアンツ』『リングにかけろ』『プロゴルファー猿』『赤いペガサス』『あぶさん』
第2章 やりすぎ学園マンガ
『ハレンチ学園』『硬派銀次郎』『男組』『エリート狂走曲』『東大一直線』『炎の転校生』
第3章 やりすぎアクション&SFマンガ
『ドーベルマン刑事』『スケバン刑事』『漂流教室』『サバイバル』『巨人獣(ザ・パラノイド)』
第4章 やりすぎ愛と性マンガ
『同棲時代』『愛と誠』『彩りのころ』『妻をめとらば』『やけっぱちのマリア』
第5章 やりすぎ社会派マンガ
『はだしのゲン』『光る風』『共犯幻想』『餓鬼』『アシュラ』
第6章 やりすぎ仕事マンガ
『課長島耕作』『宮本から君へ』『ナニワ金融道』『100億の男』『編集王』
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青い雨傘

2017-04-23 18:30:58 | 丸谷才一
丸谷才一 1998年 文春文庫版
またまたなんとなく読みたくて、見かけると買い求めてしまう、丸谷才一の古本。
ことし1月だったかな買ったの、読んだの最近、エッセイ集。
初出が「オール讀物」の1992年~1994年というので、わりと新しい。
…25年も前のものを新しいとかいうのはヘンだけど、このへん、こないだ読んだ『裏声で歌へ君が代』なんかが昭和57年というあたりから、ついそう感じてしまう。
個人的な時代感覚はともあれ、なにがどうというわけではないが、おもしろいんだから、いい。
昭和61年5月にカルロス・クライバー指揮のバイエルン国立管弦楽団の演奏を聴いて、いたく感激したのを、
>知的で優雅で、気品があつてしやれつ気があつて、これぞ理想の指揮者といふ気がする。色気があつてしかも貫禄充分なのだ。(p.50「マエストロ!」)
と褒めたたえるとこから始まる一節は、ところがこの指揮者は滅多に棒を振らないし、レコード吹込みに熱心ではないので、なかなか聴くことができないという状況の紹介へとつながる。
なんで、クライバーが仕事をしないかというのは、いろんな関係者の証言を集めてみて、1)怠け者である 2)努力家であり完璧主義者である 3)飛行機嫌ひである 4)子供つぽい性格だ などと推測している。
ここんとこにでてくるクライバーのいろんなエピソードもとてもおもしろいのだが。
話はどこへどう展開するかというと、著者は、クライバーにレコーディングをさせるのには、全世界の小説家および劇作家のなかから何人かを選んで考えさせたらよろしいと言う。音楽業界はもうダメだ、通用しないと。
かくして、マルグリット・デュラス、フレデリック・フォーサイス、ガブリエル・ガルシア=マルケス、ピーター・シェイファー、渡辺淳一の5人を選んで、彼らがそれぞれどうクライバーと交渉するかという想像をたくましくする。おもしろいっす。
どうでもいいけど、今回文中で紹介されてるなかで、読みたくなったのはマーヴィン・ハリスの『食と文化の謎』っていう本、また探さなくては。
コンテンツは以下のとおり。
硬と軟
先輩の話
ラの研究
西郷隆盛
マエストロ!
ベートーヴェンから話ははじまる
鞦韆記
贅沢の研究
尾崎秀実と阿部定
最も日本的なもの
首相の決闘
水着の女
イアン・フレミングと女たち
昭和失言史
醍醐味
椅子について
日本ラーメン史の大問題
カポネ会見記
牛乳とわたし
ゼノフォービア
三栄町遺跡
矢立譚
ハムレット王と孝明天皇
命名論
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怯えるタイピスト

2017-04-22 18:15:29 | 読んだ本
E・S・ガードナー/宇野利泰訳 昭和54年 ハヤカワ・ミステリ文庫版
原題は「THE CASE OF THE TERRIFIED TYPIST」という1956年の作品、私のもってる文庫は昭和63年の五刷、たぶん古本。
スペンサーをひとつ読むと、ついでにひとつ読み返すことにしているペリイ・メイスンシリーズ。
乗り物のなかで読んでたりすると、すらすらといいリズムでページめくっていける、軽やかさが好きだ。
スペンサーシリーズもプロットが短くて早く読めるんだけど、ペリイ・メイスンも読むのは早い。
一応いわゆる推理小説のたぐいなんだろうけど、謎解きが必要になっても立ち止まって考えるひまもなく、メイスンが行動開始したり、反対訊問で相手を追い込んでくれるんで、次はどうなるって進んでっちゃうから。
今回の事件は、臨時雇いのタイピストが必要な状況のメイスンの事務所に、おどおどしている女性のタイピストがやってくるところから始まる。
態度はおかしいが仕事を与えると、すばらしいスピードと正確さで書類をタイプしていくその女性、仕事が終わりかけたところで目を離すと姿を消していた。
なにやら周囲が騒がしくなってきたが、同じ建物のなかにある南アフリカ宝石貿易商会のオフィスに、若い女の泥棒が入ったのを警察などが捜索しているという。
当然、そのうち死体がみつかって、メイスンのところに紛れ込んできた怯えるタイピストが依頼人になって、またホントのことを弁護士に言ってくれないのに困りながらも弁護するんだろうな、と想像したんだけど。
予想とは違って、メイスンの依頼人は宝石商会のほうで、共同経営者のひとりが殺人容疑で逮捕された、殺されたのは宝石密輸業者だという。
ところが、肝心の被害者の遺体は見つかっていない状態、船から海に飛び込んだまま行方不明なのだが、目撃者の証言で被害者がボートに上がるところを容疑者が刺したとされている。
そもそも被害者の行動は、自殺を装って海に飛び込むことによって、税関とかを通ることなくダイヤを密輸するための芝居だし、密輸業者の一味は被告以上にうさんくさい人物たち。
しかし、メイスンに依頼していきた宝石商も信用できない言動ばかりで、その交友関係を追ってくと、ロボトミー手術を受けた兄を介護してるフランス女なんていう謎の存在が浮かびあがったりする。
被告本人も、メイスンに対しても自分の言いたくないことは言わないと頑固に言い切る始末だし、イギリス人っぽい態度で陪審の印象は悪いし、裁判でメイスンは苦労する。
で、問題のタイピストは、検察側の証人として出廷してきて、宝石商会でごたごたして、メイスンの事務所に飛び込んだときは机にダイヤを隠したなんて、被告に不利な証言をするんだが、陪審員には好感をもたれて信用される。
かくして、死体がなくても殺人は立証することができるって裁判長の見解も示されて、有罪の判決が下されることになるんだが。
最後の最後に、どんでんがえしが待っていて、メイスンは再審理を要求する。
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ドリームガール

2017-04-16 19:00:55 | 読んだ本
ロバート・B・パーカー/加賀山卓朗訳 2010年 ハヤカワ・ミステリ文庫版
年明けぐらいに買って、ついこのあいだ飛行機での移動の時間とかで読んだ、スペンサー・シリーズの34作目。
原題は「Hundred-Dollar Baby」、巻末の解説によればイギリス版では「Dream Girl」なんだそうで、日本版はそっちにあわせたということか。
その〈ドリームガール〉ってのが何のことかっていうと、「ブティックみたいな娼館を全国に広げるという。(略)パートタイムで。主婦、スチュワーデス、女子大生、教師、そういう類の。」(p.314)っていう、とんでもない事業計画のことを指している。
そんなことやりだすのは誰かというと、かつて第9作の「儀式」と第13作「海馬を馴らす」でスペンサーに助けられたエイプリル・カイルという女性。
スペンサーいわく「破滅的な売春の生活から救い出して、品位ある私娼の生活へと導いたのだ」(p.29)ということになるのだが、ふつうそういう解決手段をとろうとはしないよ、私立探偵。
「私が知っている大切なことは、ほとんどすべてあなたが教えてくれた」(p.9)とエイプリルは言うんで、やっぱ恩人なんだろうけど。
それに対し、「そうむずかしいことではないな。大切なことはさして多くないから」と答えるスペンサーはカッコいいが。
さて、みたび現れたエイプリルの依頼は、自分はニューヨークの女主人からこっちに支店を開くことをまかされているんだが、最近売り上げの一部をよこせという脅迫が始まったから、助けてくれというもの。
暴力的な脅しにきた、使いっぱのごろつきを叩き出すくらいのことは、スペンサーにとっては朝飯前なんだが、相手もそれなりの組織のワルなんで、相棒のホークに援護を依頼する。
ホークいわく報酬はいつものとおり「おまえが受け取るものの半分だ」(p.46)だそうだが、ホークのいいところは、そこでスペンサーが「無料奉仕(プロ・ボノ)になるかもしれん」と言ったとしても、「かまわんさ、おれたちで分け合うなら」と平気で受けるあたりである。
それでも、ホークだけでは背後の守りや尾行に行って留守のときの護衛が足りないので、もうひとりガンマンを呼ぶことにした。
おなじみヴィニイ・モリスやチョヨが他の仕事で忙しいので、白羽の矢が立てられたのはジョージア州のテディ・サップ。
電話を受けた彼は「凍える寒さで、雪が降っていて、撃たれるかもしれず、報酬は未定」(p.73)とスペンサーの人使いの荒さを皮肉りはするけど、ちゃんと承知して次の日にはやってくる。
彼には得意の腕前を十分に発揮するほどの活躍の場面はないんだが、ゲイだっていう属性が、エイプリルの性格と対比されることで登場の役割を果たす。
さて、脅迫してくる連中の根っこを断とうと、事件の背景をスペンサーは探っていこうとするんだが、うまくいかない、誰もが本当のことを言わない。
それはいつものことなんだけど、肝心な依頼人のエイプリルも困った現状に至った事情を決して明かそうとはしない。
そうこうしているうちに、例によって死体が転がることになる、今回は至近距離から頭を撃たれたやつ。
地元ボストンでも、ニューヨークでも、スペンサーは警察の知りあいの最大限の協力を得て、売春関係の捜査には極力見て見ないふりをしてもらってるんだけど、殺人事件の犯人は挙げなきゃいけない。
はたして、スペンサーはみたびエイプリルを救えるのか。終盤で事件関係者に「彼女を救おうとしている」(p.335)と宣言はするんだけど、「何から?」と問われると「わからない」と言わざるをえないような困った状況になってるのに。
どうでもいいけど、スペンサーがスーザンに過去を告白して、
>二十二歳かそこらだったころ、おれはふたりの仲間と一時休暇で日本に行った。巣鴨の近くのホテルに泊まって、一週間、女の子たちを借りきった。(p.63)
って言うところがあるんだけど、これって『愛と名誉のために』の主人公と一緒じゃん、って私はわりと近ごろ読み返したばかりだったので憶えてた。
あまりリアルを追及すると、朝鮮戦争のとき二十二歳だったら21世紀のいまは何歳になってんだよスペンサー? って言いたくなっちゃうけど。
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