いしかわじゅん 2009年 小学館
サブタイトルは、「漫画と、漫画の周辺」。
こないだ5月になったくらいのころだったか、ふと見つけた古本。
前に読んだ『漫画の時間』同様、「ディープな漫画読み」の書くものだから、なんかおもしろいもの発見するヒントになるんぢゃないかと思って手にとった。
>ぼくは、活字マニアでもあるのだが、漫画好きでもある。自分では気づくのがかなり遅かったのだが、どうやら誰よりも大量の漫画を読んできたらしい。(p.228)
と言っているとおり、いろんなものを知っている、特にいわゆるメジャー誌ぢゃないところへもアンテナを張ってたりするからすごい。
ただ、ときどき、なんか自分だけが絶対に正しいみたいな姿勢が垣間見えるような気がするときがあって、しかも、そういうとき他人とケンカすんのは一向にかまわないみたいな好戦的な感じがするんで、そのへんはシラーっと読むことにしている。
文章を書くことについては、あるときある編集者から依頼があって始めたんだけど、
>「でも、文章なんて書いたことないんですけど……」
>「そんなの、漫画といっしょですよ」
>そうだろうか。漫画と文章は同じなんだろうか。(p.302)
って、そのときのことを回想してるが、もちろんこれは、漫画と文章は違うだろって言いたいんぢゃないかと思う。
>漫画は、作品を完成させるためには何度も同じ工程を繰り返さなくてはいけない。シナリオを書き、下描きをし、ペン入れをして仕上げをする。何度も何度も繰り返し同じものを、頭から最後までなぞらなくてはいけないのだ。(略)気持ちを維持するのも、漫画の才能の一部なのだ。(p.339)
って具合にその苦労を語っているが、ちなみにこれは、山田詠美は漫画家ぢゃなくて小説家になってよかった、ってエピソードの一端でもある。
あと、日本の漫画ってのは、編集者が漫画家を育てて、だれになにを描かせるか決めてく重要な役目を担ってるってことは、繰り返し説かれている。
2001年に「コミックバンチ」って週刊誌が創刊イベントとして新人漫画家を募集し、優勝賞金5000万円という破格の賞をつくったんだけど、その大賞の決め方が読者人気投票に委ねてるってのはおかしい、って話はその顕著な例。
たとえば「ジャンプ」は、その時点でそれほどうまくなくても、将来おもしろいものを描くやつを抜擢したのに、読者だけに選ばせると完成度は高くても将来上積みあるかは不明だとして、
>誰が五千万円の元を取らせてくれるかを判断するのは、本来編集者の仕事であるべきではないのか。『ジャンプ』は、そうやって新しい才能を見つけてきたはずだ。(p.41)
って業界のプロデュースの重要性を指摘してる。
全体としては、マンガ評論って感じでもなくて、「あとがき」には、
>作品のことだけでなく、漫画家のこともたくさん書いた。アシスタントのことも書いた。大学時代の漫画研究会のことも書いた。(p.387)
ってあるように、漫画をテーマにしたエッセイっていうほうに近いかもしれない。
『フロムK』を読んでた私としては、アシスタントの話とかなつかしくておもしろかった。
今井美樹 1997年 フォーライフ
つい先日、布袋さんがパラリンピックの開会式に出たって報道をテレビでみた。
イベントそのものには興味ないので見てないんだが、翌日そのときの一瞬の切り抜きみたいな映像やってて、まあBOØWYのライブビデオのときとおんなじような足の上げかたしてんで、いいなーと思った。
(どーでもいーけど、オリンピックの開会式って、全部とおしで見てないで言うのもなんなんだけど、くだらねーなーって感じがした、とりあえず思いついたものあるだけ並べてみた、って感じしない?)
そういや、どっかに布袋さんのアルバムあったな、出して聴いてみっか久しぶりに、と思ったんだが。
ふと、それよりもなによりも、「PRIDE」が聴きたくなって、このアルバムを出してきた。
「PRIDE」って曲は好きだなあと思う、もしかしたら布袋さんのつくった曲のなかでいちばんいいと言っても過言ぢゃないかも。
だいたい私は、山下久美子の歌うの聴いて、布袋さんっていいかもって思ったようなとこあるから、布袋さん本人の歌うのより他のひとのうしろで弾いてるギターが好きな可能性もあるが。
当時どこでどうこの曲にたどりついて、いつごろCD買ったのかなんて忘れてしまったが、まあ私にとってあのころはFMをよく聞いていた時代なので、そのへんで触れて気に入ってすぐ買ったような気がする。
今井美樹さんの本業は女優だとばっかり思っていたので、当時「ボーカルとしての今井美樹、けっこう好き」とか言ってたかもしれない。
(ちなみに、この言い方の私における元々は「ボーカルとしての薬師丸ひろ子、けっこう好き」である。)
今井美樹さんは声がいいねえ。
私はあなたの空になりたい
とかって入ってくるとこなんか、とても背中がぞくぞくするようないい感じがする。
っつーわけで、ほぼ全曲といっていいほど聴くたびいいなーと思う、なかなかお気に入りのアルバムである。
そうこうしてるうちに布袋さんの本妻が不幸せになっちゃったってこと知っちゃうと、複雑な気もしないでもないが。
1.PRIDE(OVERTURE)
2.LAST JUNCTION
3.I CAN'T STOP LOVIN' U
4.DRIVEに連れてって
5.No.1
6.OVER THE RAINBOW
7.永遠のメモリー
8.Prussian Blue
9.Windy noon
10.アラビアン・ナイト
11.私はあなたの空になりたい
12.PRIDE
斎藤美奈子 2001年 文春文庫版
これは、米原万里さんの書評集で、日本の新聞・雑誌に載る書評ってのはホメるのが基本でケナしてはいけないもんなんだけど、
>二五三冊もの本を次々に情け容赦なく滅多切りにしていく書評本なのだが、その類い希なる毒舌の才と芸が冴え渡っていて、(略)まことに見事な、貶す書評の鑑というべき本なのだ。
と絶賛されてたので、読んでみようと先々月ころ古本を買い求めたもの。
単行本は1998年で、初出は「鳩よ!」の連載コラムだったらしいが、そのときのタイトルは「本とうの話」だそうで。
読者は踊るってのは何かっていうと、冒頭に「本書をお読みになる前に」というまえがきがあって、そこに、
>・空いた時間を書店でつぶすことがある。
>・書店に入ったら、新刊書のコーナーを見る。(略)
>・世の中にはくだらない本が多すぎると思う。
といった20項目の例があって、10個以上該当したひとは「踊る読者」、話題の本ってのに踊らされちゃう、その状態から脱却するため本書を参考にしてちょうだいって問題提起。
私としては書評集ってのは、やっぱ貶すよりは面白がりようを書いてあったほうが読んでてたのしいんだが。
(貶しはたまにあるとよいが、そういうのばっか並んでると、なんか食傷気味なもの感じる。)
>結論からいおう。この二冊は(よほど暇な人以外は)読まなくていいです。(p.222「文科系の読者をたぶらかす複雑系本の複雑怪奇」)
みたいな潔いまでにわかりやすい言い方はいいですけどね。
たとえば、天然記念物の図鑑をとりあつかった回では、
>が、肝心の各指定種の記載は、それぞれ専門研究者が執筆しているわりに、おざなりの感がぬぐえない。(略)絶滅が危ぶまれる、保護の必要がある等の「一般論」を説いておしまい。(略)
>そりゃそうでしょうけれどもね、もっときっぱりとした提言はできないのだろうか。この範囲を保護区に指定せよとか。あそこのあの工事をやめさせろとか。(p.171-172「盆栽鑑賞式の天然記念物図鑑が自然保護とは笑わせる」)
みたいに切り込んでるんだけど、そういうのが米原さんのいう「今の時代の本と本をめぐる日本人の精神の有りよう」への批評になってるんぢゃないかなって、参考になります。
というわけで、読んでみたくなる本ってのを見つけにくいんだが、飴屋法水『キミは動物と暮らせるか?』っていうのには興味あるなあ。
コンテンツは以下のとおり。
カラオケ化する文学
・消えゆく私小説の伝統はタレント本に継承されていた
・字さえ書ければ、なるほど人はだれでも作家になれる
・芥川賞は就職試験、選考委員会はカイシャの人事部
・夏休みの課題図書は「じじばば文学」の巣窟だった
・身内の自慢話が「だれも悪くいわない本」に化ける条件
ニッポンという異国
・胃袋で突撃残飯ルポが書けるなら世話はない
・大阪がコテコテだなんて、いつだれが決めたんや
・日本列島は世界の縮図説から国内植民地問題を考える
・「ばかけんちく」が林立する九〇年代日本の風景
・安くてうまい本はどれだ。辛口「料理店批評」批評
・会社を辞めた若者たちが西へビンボー旅行に出る理由
文化遺産のなれのはて
・マニアなのかマヌケなのか。クラシック音楽批評の怪
・おとぎ話のパロディだけが流通している不思議の国
・汝、驚くなかれ。いまどきの聖書の日本語訳(教会訳編)
・汝、驚くなかれ。いまどきの聖書の日本語訳(個人訳編)
・死海文書よりミステリアスな死海文書本の攻防戦
・豊かな縄文文化の象徴はヘソ出しルックの縄文ギャルか
野生の王国
・敵は手強い。幻想の館に秘められた意外な事実
・盆栽鑑賞式の天然記念物図鑑が自然保護とは笑わせる
・猫語と犬語の違いは、お育ちの差か飼い主の差か
・まともな神経では溺れ死ぬ。イルカ&クジラ本が泳ぐ海
・ポケモンは生き物採集の代用品となりうるか
科学音頭に浮かれて
・マルチメディアの未来をにらんで怒る人、笑う人
・地震対策の障害は建造物よりアタマの固い地震学者だ
・暴走する利己的遺伝子の陰謀にだまされてはいけない
・文科系の読者をたぶらかす複雑系本の複雑怪奇
・環境ホルモン狂騒曲に男社会が泡くう構図
おんな子どもの昨日今日
・女子高生ルポの商品価値はナマ写真ならぬナマ言説
・下半身じゃなく大脳を刺激する「高級猥談」の妙味
・アダルト・チルドレン人口をそんなに増やしてどうするの
・知らぬはオヤジばかりなり。フェミニズム本の二〇年
・学校のスリム化で得をするのは親か子どもかお役所か
・三〇年後も男の子を魅了する友里アンヌ隊員の謎
歴史はこうしてつくられる
・死ぬまでやってなさい。全共闘二五年目の同窓会
・ひめゆりの塔の乙女たちは沖縄戦の広告塔か
・「すわ震災」のチャンスを即興芸で語った人たち
・隣は何を書く人ぞ。新語事典の中のオウムとノモ
・薬害エイズ訴訟に見るチャンバラ時代劇の構造
・みんなひれ伏す「在日のアウトロー」という物語
・近代史音痴の国で起こったお笑い歴史教科書論争
知ったかぶりたい私たち
・哲学ブームの底にあるのは知的大衆のスケベ根性だ
・お子様用の学習まんがで手っとりばやくお勉強
・源氏物語(のアンチョコ)で春のうららを雅びにすごす
・言葉で失敗したくない方はこちらの国語辞典をどうぞ
・学問は人の上に人を造る。超勉強本は疑似出世読本だ
佐藤究 2018年 講談社文庫版
これは、穂村弘の『図書館の外は嵐』で、
>そして、物語の真ん中近くの「ファミレス」のシーンで衝撃に襲われた。これ、最高のやつじゃないか。
と語られてるのが気になってしまい、運よくすぐ古本の文庫を見つけたのは先月のこと。
最近になってやっと読んだんだけど、うーん、なんというかが難しい。
ミステリーってことになってるんで、自分用の中身のメモとしてでも、詳細をあれこれ書くのはよくないだろうし。
でも、裏表紙に書いてあることだったら許されるんだろうから、猟奇殺人鬼の一家を舞台とした話ってのは言ってもいいんだろう。
なんぢゃ、そりゃ、って私も読み始めていきなり思ったが。
語り部である「わたし」は、市野亜李亜(アリア)、17歳の女子高生。
42歳の母、杞夕花(キユカ)、バーベルのシャフトで、連れ込んだ男を後ろからぶん殴る。
21歳の兄、浄武(ジョウブ)、ネットで知り合った女の子を、おびきよせて喉を咬みちぎる。
52歳の父、桐清(キリキヨ)、ふだんは不動産業界紙を読んだりしてる、地下の物置に殺した男の死体がミイラになっている。
という四人家族が住んでるのは西東京市東伏見で、「わたし」は友だちはいないらしいけど普通に高校に通ってる。
いまどきの高校生にしてはめずらしくスマホが嫌いだったりする、あとどこにでもある監視カメラも嫌悪してる。
>父に「進路をどうする」と訊かれて、できれば大学に行きたいと答えた。心理学をやりたい。人間の心を勉強しなから、人殺しもつづけたいの。
>「ふうん」と父は言う。「お母さんやお兄ちゃんはどう言っている」
>わたしは首を振る。わかんない。全然話さないから。(P.38)
という猟奇殺人鬼のわりには淡々とした調子で毎日を過ごしてるように語って物語は進んでくようにみえたんだが。
あるとき家庭内で事件が起きて、そこから一気に流れが変わる。
探偵小説によくある犯人探しとかトリック暴きとかが中心になってるわけぢゃない、そこんとこが内容出さずになんと言ったらいいかがむずかしい。
やっぱ穂村弘さんは、うまいので引用しちゃう、
>特徴としては、提示された謎が外界ではなく人間の心の中にあることだ。(略)ここにあるのは、自分が自分に出したなぞなぞ、絶対に出されなければならなかったなぞなぞ、にも拘わらず解かれてはならないなぞなぞ、とでもいうべき何かだ。(『図書館の外は嵐』p.89)
ということになる。
まあ、あんまり私の好みではないかもしれない、見かけの表現方法も含めて。
ちなみにタイトルの「QJKJQ」というのは、ポーカーでその5枚がきたら「エストー・ペルペトゥア」って手役だと、物語のなかでは言う、知らなかったけど。
そういえば主人公のイニシャルは「A」だね。
丸谷才一 一九八四年 朝日新聞社
これは二年前の秋に地元の古本屋で見つけたんだったと思う、持ってない丸谷才一の本だと単行本でも文庫でもなんでも手を出してたころだが。
よく調べてみたら、オリジナルの出版というわけではなく、丸谷さんによれば「編集本」だった。
巻末解題(小田切進)によれば昭和38年『深夜の散歩』から昭和58年『好きな背広』までの評論集・エッセイ集17冊のなかから、「代表的ともいうべき三十五篇を選んで編んだもの」だという、なんだ、つまらない。
ということで長いこと放っておくことになってしまったんだが、なんせ不勉強な私のことだから、読んだことないものもあるだろうと、最近やっと開いてみたら、9篇は読んだことないものだったんで、そこんとこだけ読んだ。
難しそうな評論『後鳥羽院』とかは手を出してないからしかたないとして、『完本 日本語のために』を持ってるのに、そこには省かれた「当節言葉づかひ」なんかがあって、やっぱ『日本語のために』も手に入れとかなきゃなと再認識した次第。
ちなみに書名の「夜明けのおやすみ」については、
>この編集本に収めるたいていの文章は、わたしがまだしよつちゆう徹夜で仕事をしてゐたころに書いたものだといふ意味にすぎない。そのころわたしは、硬軟さまざまの文章を夜どほしかかつて書きつづり、明け方あるいは早朝に書きあげると、倒れるやうに眠つたものだつた。(P.261)
というところからきてると丸谷さんは書いてるけど、徹夜で仕事をしたのは昭和52年くらいが最後だったという。
いまぢゃ「そんな馬力はないから」と、無理な依頼は受けないとしている文章の日付は、「昭和五十八年十一月二十四日午前二時」。
コンテンツは以下のとおり、うしろの括弧内はオリジナルが収録されてる単行本。
I 人生はむづかしい
男の運勢 (低空飛行)
小説家のサービスの話から結婚の回数の話になりました (女性対男性)
写真と味 (男のポケット)
アイスクリーム百杯 (男のポケット)
雨の男は定九郎 (男のポケット)
若旦那の修行 (男のポケット)
岡山に西国一の鮨やあり (食通知つたかぶり)
文学的な庭 (男のポケット)
彼の釣魚大全 (低空飛行)
野坂昭如は確信犯なりや (低空飛行)
菊池武一 (低空飛行)
丸やギ左衛門のこと (低空飛行)
夢判断 (低空飛行)
サッカーは血を荒す (大きなお世話)
アメリカ的美徳 (遊び時間2)
II 探偵小説の楽しみ
フィリップ・マーロウといふ男 (深夜の散歩)
角川映画とチャンドラーの奇妙な関係 (遊び時間2)
ケインとカミュと女について (深夜の散歩)
III 日本語それとも文章
最後の授業 (遊び時間2)
勅語づくし (低空飛行)
当節言葉づかひ
娘たち (日本語のために)
電話の日本語 (日本語のために)
文体を夢みる (共著・私の文章修業)
名文を読め (文章読本)
ちよつと気取つて書け (文章読本)
IV 文学もむづかしい
しどろもどろな文学辞典 (遊び時間2)
香具山から最上川へ (日本文学史早わかり)
花 (日本文学史早わかり)
橋姫 (後鳥羽院)
『細雪』について (星めがね)
退屈を教へよう (コロンブスの卵)
夷齋おとしばなし (日本文学史早わかり)
家の歴史 (遊び時間)
西の国の伊達男たち (梨のつぶて)
なぜ書くのか (遊び時間)
夜明けのおやすみ