江戸川乱歩編 1961年 創元推理文庫
ことし3月ころに買い求めた古本の文庫、シリーズは全5冊で、第5巻に収録されてる「危険な連中」が読みたかっただけなんだけど、どーせ読むだろと思って、同じ時期に5冊とも買っといた、これ読んだのは最近のこと。5→1→2→3→4の順でいちおう全部読めたことになる。
時代順に作品が並べられてて、本書は1927年から1933年にかけての作品が収録されてるんだが、しょっぱなにヘミングウェイがあって、ちょっと驚く。
ヘミングウェイって推理小説書いたっけか、と思うんだが、この短編のハードボイルドのスタイルが推理小説に影響を与えたって理由での選出らしい、そうそう、このシリーズは探偵ものに限らない、短編傑作集だった。
収録作は以下のとおり。物語の序盤のうちから引用して何となくどんな話だったかのメモとして、あまりくわしく内容を書いたりしないようにしておく。
「殺人者」 The Killers(1927) アーネスト・ヘミングウェイ
>ヘンリー食堂のドアが開いて、ふたりの男がはいってきた。カウンターの前に腰をおろした。
>「何をさし上げますか?」とジョージがきいた。
>「さて」とひとりの男が言った。「アル、おまえ、何を食うかね?」
>「さあ、何にするかな」とアルは言った。「おれにも何が食いたいんだかわからねえ」(p.11)
ふたりの男は、もうすぐここに来るであろう男をばらそうってわけよ、と言い出す。
「三死人」 Three Dead Men(1929) イーデン・フィルポッツ
>私立探偵所長マイクル・デュヴィーンから、西インド諸島まで、特別調査に出張してみないかと勧められたとき、私は飛びあがらんばかりに喜んだ。(略)
>デュヴィーンは次のように説明した。
>「この依頼者は、出張調査の費用として、一万ポンド提供するといってきているのだ。(略)(p.33)
バルバドス島で大農場の経営者と使用人など三人が殺されているのが見つかった。
「スペードという男」 A Man Called Spade(1929) ダシール・ハメット
>サム・スペードは卓上電話をよこにおしやり、腕時計に目をやった。四時ちょっと前だ。「おーい」
>チョコレートケーキをたべながら、秘書のエフィ・ペリンが表のオフィスから顔をだした。
>「シド・ワイズに、きょうの午後の約束はだめだ、といってくれ」(p.97)
私立探偵サム・スペードが、だれかに脅かされていると連絡してきた男を訪ねると、すでに事件は起きていた。
「キ印ぞろいのお茶の会の冒険」 The Mad Tea Party(1929) エラリー・クイーン
>ミランは戸を大きく押しあけた。「さあ、さあ、おはいりになって、クイーン先生。オーエンさまにお知らせして来ます。……みなさん、芝居の下稽古をしているんですよ、きっと。ジョナサン坊ちゃまが起きているあいだはやれませんのでね。(p.159)
エラリーが招待された田舎の家を訪ねていくと、翌日の誕生日祝いの余興の「不思議の国のアリス」の芝居の練習をしていたが、翌朝には関係者の失踪事件がもちあがり、次いで奇怪な出来事があれこれ起こる。
「信・望・愛」 Faith, Hope and Charity(1930) アーヴィン・S・コッブ
>三人の囚人はすわってたばこをふかしながら、護送官がそばにいないときには、いろいろおしゃべりをした。
>スペイン人のガザとフランス人のラフィットは、英語がかなりできたので、彼らはおもに英語で話した。イタリア人のヴェルディ(略)はほとんど英語はしゃべれなかったが、ナポリに三年いたことがあるガザがイタリア語がわかったので、彼のいうことをフランス人に通訳してやった。三人は食事以外は特等車にいれられたきりだった。(p.223)
列車で護送中だった三人の囚人はスキをみて逃げ出して駅から離れていくが、三人それぞれに運命が待ち受けていることになる。
「オッターモール氏の手」 The Hands of Mr. Ottermole(1931) トマス・バーク
>これが『ロンドンの恐怖の絞殺事件』といわれたものの発端であった。『恐怖』と呼ばれたのは、それが殺人事件以上のものだったからである。動機がなく、それには邪悪な魔術めいたところがあった。殺人は、いずれの場合にも、死体が発見された街には、それとわかるような、あるいは、嫌疑をかけ得るような犯人の姿も認められないときにおこなわれた。人っ子ひとり見えない小路がある。その端には警官が立っている。警官はほんのちょっと小路に背をむける。そして、今度ふりかえったとたん、またしても絞殺事件がおこったという報告をもって、夜をつっ走るのである。そして、いずれの方角にも人の姿は見られなかったし、見かけたという人もないのである。(p.257-258)
これ、エラリー・クイーンなど12人が、世界のベスト短編選出を行ったとき、ポオの「盗まれた手紙」、ドイルの「赤髪連盟」をひきはなして、第一位になった物語なんだそうである。
「いかさま賭博」 The Mud's Game(1932?) レスリー・チャーテリス
>かたちもすっかりくずれた服のその男は、ひょうきんそうなかっこうで、テーブル越しに名刺を差し出した。J・J・ネイスキルと印刷してあった。
>聖者(セイント)は、チラッとそれを見ただけで、シガレット・ケースのふたをピンとはねると、一本抜いて勧めながら、
>「ぼくはあいにく、名刺をきらせてしまった。名前はサイモン・テンプラア」(p.281)
主人公サイモンは、義賊なんだそうである、悪漢を懲らしめ、警官の鼻をあかし、可憐な美女を危機一髪の場面で救い出したりするのが仕事なんだとか。そのサイモンに、なにか仕掛けのありそうなカードを使った、インチキ賭博でカネを巻き上げられたって青年が相談をもちかけてくる。
「疑惑」 Suspicion(1933) ドロシイ・L・セイヤーズ
>列車のなかはたばこのけむりが濛々と立ちこめて、ママリイ氏は、しだいに胸がむかついてくるのを感じていた。どうやら、さっきの朝食のせいらしい……
>しかし、べつにわるいものを食べたとも思えない。まず黒パン。(略)かりかりに揚げたベイコン。ほどよくゆでた卵が二つ。それに、サットン夫人独特のいれかたによるコーヒーだった。サットン夫人という女中は、ほんとの意味で掘り出し物だった。この女中のために、彼ら夫妻は、どのくらい助かっているか知れなかった。(p.317)
体調がすぐれないママリイ氏は、新聞紙上を賑わせている、砒素を使った連続殺人の容疑者で行方不明になっている料理女の話題が気になっている。
「銀の仮面」 The Silver Mask(1933) ヒュー・ウォルポール
>ミス・ソニヤ・ヘリズがウェストン家の晩餐会から帰ってくる途中、すぐ耳もとで人の声がした。
>「おさしつかえなければ――ほんのちょっと――」(略)
>「でも、あたし――」彼女はいいかけた。寒い夜で風がほおをさすようだった。
>ふりかえってみると、それはじつに美しい青年だった。(p.349)
ひとりもので五十になるソニヤは、寒さにふるえている青年に、親切心をだして家にいれてやり食べものを与えてやったのだが、後日また青年は訪ねてきて、だんだんおかしなことになっていく。
これ、あと味わるいなあ。
ことし3月ころに買い求めた古本の文庫、シリーズは全5冊で、第5巻に収録されてる「危険な連中」が読みたかっただけなんだけど、どーせ読むだろと思って、同じ時期に5冊とも買っといた、これ読んだのは最近のこと。5→1→2→3→4の順でいちおう全部読めたことになる。
時代順に作品が並べられてて、本書は1927年から1933年にかけての作品が収録されてるんだが、しょっぱなにヘミングウェイがあって、ちょっと驚く。
ヘミングウェイって推理小説書いたっけか、と思うんだが、この短編のハードボイルドのスタイルが推理小説に影響を与えたって理由での選出らしい、そうそう、このシリーズは探偵ものに限らない、短編傑作集だった。
収録作は以下のとおり。物語の序盤のうちから引用して何となくどんな話だったかのメモとして、あまりくわしく内容を書いたりしないようにしておく。
「殺人者」 The Killers(1927) アーネスト・ヘミングウェイ
>ヘンリー食堂のドアが開いて、ふたりの男がはいってきた。カウンターの前に腰をおろした。
>「何をさし上げますか?」とジョージがきいた。
>「さて」とひとりの男が言った。「アル、おまえ、何を食うかね?」
>「さあ、何にするかな」とアルは言った。「おれにも何が食いたいんだかわからねえ」(p.11)
ふたりの男は、もうすぐここに来るであろう男をばらそうってわけよ、と言い出す。
「三死人」 Three Dead Men(1929) イーデン・フィルポッツ
>私立探偵所長マイクル・デュヴィーンから、西インド諸島まで、特別調査に出張してみないかと勧められたとき、私は飛びあがらんばかりに喜んだ。(略)
>デュヴィーンは次のように説明した。
>「この依頼者は、出張調査の費用として、一万ポンド提供するといってきているのだ。(略)(p.33)
バルバドス島で大農場の経営者と使用人など三人が殺されているのが見つかった。
「スペードという男」 A Man Called Spade(1929) ダシール・ハメット
>サム・スペードは卓上電話をよこにおしやり、腕時計に目をやった。四時ちょっと前だ。「おーい」
>チョコレートケーキをたべながら、秘書のエフィ・ペリンが表のオフィスから顔をだした。
>「シド・ワイズに、きょうの午後の約束はだめだ、といってくれ」(p.97)
私立探偵サム・スペードが、だれかに脅かされていると連絡してきた男を訪ねると、すでに事件は起きていた。
「キ印ぞろいのお茶の会の冒険」 The Mad Tea Party(1929) エラリー・クイーン
>ミランは戸を大きく押しあけた。「さあ、さあ、おはいりになって、クイーン先生。オーエンさまにお知らせして来ます。……みなさん、芝居の下稽古をしているんですよ、きっと。ジョナサン坊ちゃまが起きているあいだはやれませんのでね。(p.159)
エラリーが招待された田舎の家を訪ねていくと、翌日の誕生日祝いの余興の「不思議の国のアリス」の芝居の練習をしていたが、翌朝には関係者の失踪事件がもちあがり、次いで奇怪な出来事があれこれ起こる。
「信・望・愛」 Faith, Hope and Charity(1930) アーヴィン・S・コッブ
>三人の囚人はすわってたばこをふかしながら、護送官がそばにいないときには、いろいろおしゃべりをした。
>スペイン人のガザとフランス人のラフィットは、英語がかなりできたので、彼らはおもに英語で話した。イタリア人のヴェルディ(略)はほとんど英語はしゃべれなかったが、ナポリに三年いたことがあるガザがイタリア語がわかったので、彼のいうことをフランス人に通訳してやった。三人は食事以外は特等車にいれられたきりだった。(p.223)
列車で護送中だった三人の囚人はスキをみて逃げ出して駅から離れていくが、三人それぞれに運命が待ち受けていることになる。
「オッターモール氏の手」 The Hands of Mr. Ottermole(1931) トマス・バーク
>これが『ロンドンの恐怖の絞殺事件』といわれたものの発端であった。『恐怖』と呼ばれたのは、それが殺人事件以上のものだったからである。動機がなく、それには邪悪な魔術めいたところがあった。殺人は、いずれの場合にも、死体が発見された街には、それとわかるような、あるいは、嫌疑をかけ得るような犯人の姿も認められないときにおこなわれた。人っ子ひとり見えない小路がある。その端には警官が立っている。警官はほんのちょっと小路に背をむける。そして、今度ふりかえったとたん、またしても絞殺事件がおこったという報告をもって、夜をつっ走るのである。そして、いずれの方角にも人の姿は見られなかったし、見かけたという人もないのである。(p.257-258)
これ、エラリー・クイーンなど12人が、世界のベスト短編選出を行ったとき、ポオの「盗まれた手紙」、ドイルの「赤髪連盟」をひきはなして、第一位になった物語なんだそうである。
「いかさま賭博」 The Mud's Game(1932?) レスリー・チャーテリス
>かたちもすっかりくずれた服のその男は、ひょうきんそうなかっこうで、テーブル越しに名刺を差し出した。J・J・ネイスキルと印刷してあった。
>聖者(セイント)は、チラッとそれを見ただけで、シガレット・ケースのふたをピンとはねると、一本抜いて勧めながら、
>「ぼくはあいにく、名刺をきらせてしまった。名前はサイモン・テンプラア」(p.281)
主人公サイモンは、義賊なんだそうである、悪漢を懲らしめ、警官の鼻をあかし、可憐な美女を危機一髪の場面で救い出したりするのが仕事なんだとか。そのサイモンに、なにか仕掛けのありそうなカードを使った、インチキ賭博でカネを巻き上げられたって青年が相談をもちかけてくる。
「疑惑」 Suspicion(1933) ドロシイ・L・セイヤーズ
>列車のなかはたばこのけむりが濛々と立ちこめて、ママリイ氏は、しだいに胸がむかついてくるのを感じていた。どうやら、さっきの朝食のせいらしい……
>しかし、べつにわるいものを食べたとも思えない。まず黒パン。(略)かりかりに揚げたベイコン。ほどよくゆでた卵が二つ。それに、サットン夫人独特のいれかたによるコーヒーだった。サットン夫人という女中は、ほんとの意味で掘り出し物だった。この女中のために、彼ら夫妻は、どのくらい助かっているか知れなかった。(p.317)
体調がすぐれないママリイ氏は、新聞紙上を賑わせている、砒素を使った連続殺人の容疑者で行方不明になっている料理女の話題が気になっている。
「銀の仮面」 The Silver Mask(1933) ヒュー・ウォルポール
>ミス・ソニヤ・ヘリズがウェストン家の晩餐会から帰ってくる途中、すぐ耳もとで人の声がした。
>「おさしつかえなければ――ほんのちょっと――」(略)
>「でも、あたし――」彼女はいいかけた。寒い夜で風がほおをさすようだった。
>ふりかえってみると、それはじつに美しい青年だった。(p.349)
ひとりもので五十になるソニヤは、寒さにふるえている青年に、親切心をだして家にいれてやり食べものを与えてやったのだが、後日また青年は訪ねてきて、だんだんおかしなことになっていく。
これ、あと味わるいなあ。