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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

村上T

2020-08-30 17:53:47 | 村上春樹

村上春樹 二〇二〇年六月 マガジンハウス
サブタイトルは「僕の愛したTシャツたち」。
最近出た村上春樹さんのエッセイ集、書店でみつけて、なーんだ小説ぢゃないのかとも思ったが、きっとおもしろいだろうと読んでみることにした。
もとは『ポパイ』で2018年から連載していたものらしい。
タイトルのとおり、表紙の写真のとおり、なかみは村上さんの持ってるTシャツについて。
背の低いちょっと変わったサイズの本で、各章とも、だいたい文章が4ページ、1ページにひとつの大きなTシャツの写真が4ページくらいのつくりなんで、サクサクしてる。
毎回、Tシャツの絵柄の似たものを集めて語るという形なので、タイトルをみればだいたいテーマはわかる。
ひとつだけ「意味不明だけど」っていうタイトルが謎のようだけど、これは絵やちゃんとした文ぢゃなくて、意味わからない文字だけが印刷してあるTシャツ集。
「DMND」、「ENCOUNTER」、「ACCELERATE」、「SQUAD」って4枚、アメリカの中古屋で手に入れたものらしい。
たしかにこういうのって、なんのことか知らないで平気な顔で着て人前に出てたとして、もしウラのヤバい意味とかあったら恥ずかしいって危険性もあるので、私なんかは買うのをためらう。
一読したなかで、いいなあと思ったのは、スペインの出版社が販促でつくったという「KEEP CALM AND READ MURAKAMI」って文字と、猫が本みてるシルエットのやつ。
村上主義者としては(実際に着て外にでるかどうかはおいといて)ぜひ一着ほしい。
コンテンツは以下のとおり、最終章はインタビュー。
まえがき つい集まってしまうものたち
夏はサーフィン
ハンバーガーとケチャップ
ウィスキー
気を落ち着けて、ムラカミを読もう
レコード屋は楽しい
動物はかわいいけどむずかしい
意味不明だけど
スプリングスティーンとブライアン
フォルクスワーゲンは偉いかも
冷えたビールのことをつい考えてしまう
本はいかが?
街のサンドイッチマン
トカゲと亀
大学のTシャツ
空を飛ぶこと
スーパー・ヒーロー
熊関係
ビール関係
つい集まってしまったTシャツの話と、まだまだ掲載しきれなかったTシャツたち。


どうでもいいけど、そういやあ私の持ってるTシャツについては前に書いた。→「Tシャツ」(2010年5月)
その記事に載せ忘れたもので、もったいなくて着れないのが、このセット。

2003年阪神タイガースリーグ優勝のときのもの。

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日本の町

2020-08-29 18:00:20 | 丸谷才一

丸谷才一・山崎正和 一九八七年 文藝春秋
これはたしか2018年の秋に古本まつりで買ったもののひとつ、やっと読んだ。
ほかにも一緒につくった仕事がいろいろありそうなお二人による対談集、タイトルのとおり、日本の都市論。
京都生まれの山崎さんが、金沢について、
>よく京都と金沢というのは似ている、金沢は北陸の京都だなどといわれるけれども、あれは金沢に対する大変失礼ないい方であってね、(略)金沢は金沢という特殊な町であって、およそ京都じゃないという気がする。(p.12)
なんて言ってるけど、京都は文化を売り物にしてるけど、金沢の人は文化を自分で使って楽しんでいる、というのがその根拠。
初めて北海道に行ったという丸谷さんが、小樽について、
>ぼくの印象でも、衰退していく町という感じがずいぶん強い。(p.40)
とか
>(略)いったいこの市の管理者たちは何をやっているのかという感じでした。(p.41)
とか厳しいんだけど、「東京・横浜」とか「大阪・神戸」と同じように「札幌・小樽」というのはペアの都市なんだが、横浜や神戸は前からあった大都市に吸収されない特色があるけど、小樽は持ってた機能を全部札幌が大きくなったときに吸い上げられてしまったんではと考察してる。
港町なのに外国人の姿がない、なんて観察もしてるけど。
宇和島からは詩人が輩出されてるいっぽうで、法学者も続出してることについて、山崎さんは、
>季節はそれぞれに激しい、厳しい、はっきりしている。南国的なものと北国的なものとが結びついているそういう矛盾しているところから、詩と理屈という二種類のタイプの人間が出てくるんじゃないか。(p.79)
と「牽強付会」とことわりながら言ってたりする、おもしろい。
長崎の道が複雑で、ほかの城下町とかみたいに中心を決めて整備されたようなとこがないことについて、山崎さんは、
>(略)人口四十万という大都市にもかかわらず、おそらく日本の都市の中で最も自然発生的で、そのことをちっとも恥じていないという感じですね。それは一つには、町の歴史というものを長崎の人々が非常に誇りに思っているからでしょうね。日本で一番ユニークな町なんだと思っている。そのプライドの強さが、あの町の混乱状態をちっとも制御しないことになったと思いますね。(p.98)
なんて言っている、そういうものかもしれない。
西宮・芦屋とかの阪神間について、近世都市で巨大な城下町の大阪と、明治以降の近代都市で港湾都市の神戸という、違う性質の町に挟まれて両方の影響を受けながら不思議な性格の住宅地ができたんだという山崎さん。
編集部からの、京都と大阪のあいだにはなぜ住宅地が出来なかったのかという問いには、
>(略)京都と大阪は、江戸時代には、江戸と並んで三都と呼ばれていましたね。したがって、江戸と大坂の距離と、京都と大坂の距離は、心理的には同じだったのです。それほど京都と大阪は互いに遠い町であり、また異質の町だった。これを、関西は一つだとか、あるいは近畿圏といってひとまとめにするようになったのは、明治以降の虚構なんですよ。(p.121)
と答えてるんだが、日本都市文明史について蒙を啓かされるいい意見だなあと思う。
あと、やっぱあのへんの町の文化については、男たちは大阪へ昼間働きに出掛けてって夜も大阪で遊んでるんで、残った女性たちがつくったものではないかという。
そういやあ、やたら仕事の用で人が集まってる町よりも、女のひとが残っててランチ行っても店んなか女性ばっかなんて町のほうが、オッシャレーと言われることが多いような気がしないでもない。
弘前には京都の文化が伝わっていることについて、山崎さんは、
>(略)江戸が一時期、非常に反京都的で、関東武士の健康にして質実なる文化をつくろうとしていた時期に、かつての宮廷文化というのを受け継いだのは、むしろ日本海沿岸の港町及びその後背地なんです。私は津軽というのはまさにそういうところだったんだという気がします。(p.158-159)
と北前船の沿岸貿易による文化の伝わりについて解説してくれる。
同じことは日本海側の松江でも言われるんだけど、不便な交通手段の陸路に比べて、船の文化というのはスピードがありすぎて、町をつくるんだけどつながりがないと指摘する。
そこんとこで、丸谷さんが、日本で散文が成立しなかったのは航海日誌が書かれなかったからだという、意外な文学史を提唱してくれる。
>航海日誌がないというのはなぜなのか。それは船の乗り方が口から口への秘伝だったからでしょう。西洋の場合は、航海日誌を書くことによって後輩である航海者に伝えるというのが一つ。それからそれを書くことによって、船主に報告するという義務、その二つがあったと思うんですよ。それが日本の船乗りにはなかった。(p.210)
という事情から始まって、
>西洋の散文ってものは、まず航海日誌によってでき上ったものらしいんです。(略)そうすることによって、具体的に、詳しく、しかし簡潔に、描写力に富んだ書き方をする散文というものが成立した。(略)そういう富の集約の結果、成立したものが十八世紀のイギリス小説、つまりデフォーとか、スウィフトとか、そうした小説であるわけです。(p.210-211)
という小説の成り立ちを説明してくれる、いつものことながら、学校の文学史とかはこういうことを教えていただきたいものだと思う。
さんざ、いろんな地方都市に実際に出かけて論じてきたけど、最後の東京論が実はいちばんおもしろいんぢゃないかという気もする。
東京には坂が多く、しかも神戸とか函館とかの山と海をつなぐ一方的な坂とちがって、あちこちでこぼこ上がり下がりのある坂の多い土地に大都市をつくったのは珍しく不思議だという。
>東京が非常にユニークな町だというのは、単に現状がユニークだというだけじゃなくて、日本史の中でも例外的な町だし、ひょっとすると世界史の中でも異例な町かもしれませんね。港があったからとか、川沿いだとか、街道筋だとか、門前町だとか、われわれは人文地理学の都市形成の原理をいろいろ読みかじりますがね、しかし、尾根伝い、谷伝いに町をつくって、しかもそれが巨大な大都市になるというのは、いままでの人文地理学の本に書いてないようですね。(p.232-233)
という山崎さんは、自らこのことを「大発見」だという。
一方の丸谷さんは、江戸の中心は江戸城ぢゃなくて富士山をランドマークにしているという説の書いてある、陣内秀信「東京の空間人類学」という本に刺激を受けたというけど、うむむ、それは読んでみなくてはって気にさせられた。
コンテンツは以下のとおり。
金沢――江戸よりも江戸的な
小樽――「近代」への郷愁
宇和島――海のエネルギー
長崎――エトランジェの坂道
西宮芦屋――女たちがつくった町
弘前――東北的なもの
松江――「出雲」論
東京――富士の見える町

二年くらい前に買った丸谷さん関係の古本はいっぱいあったんだけど、これでようやく一区切りついたみたい。ふう。

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ブラウン神父の知恵

2020-08-23 19:05:18 | 読んだ本

G・K・チェスタトン/中村保男訳 1982年初版・2017年新版 創元推理文庫版
丸谷才一が「大人の童話」って評するもんだから読んでみることにした、ブラウン神父もの、その第2短編集。
原題「THE WISDOM OF FATHER BROWN」は1914年の刊行、100年以上読まれてるってのはすごいやね、私は今月になってこの新版とやらの文庫を中古で買ったんだけど。
本書の最初の短編「グラス氏の失踪」を読んで、すぐ思い出した、これって高校の英語の教科書に載ってた話だ。
この話が、いったいなんぢゃこりゃ、って感じのものだったんで、私はその後ほかのミステリーを読むようになっても、著名なブラウン神父ものには手を出さないでいたんぢゃないかと。
ロープに縛られて、口にはスカーフをかまされてる男、部屋の中にはトランプが散乱してたり、割れたグラスやナイフが落ちてて争ったあとのような現場に踏み込んだのは、ブラウン神父と高名な犯罪学者。
家のひとが部屋のなかから「ミスター・グラス!」って声がときどき聞こえてたというが、そのグラス氏の姿はどこにもない。
犯罪学者は虫眼鏡をとりだして残されたシルクハットを観察し、グラス氏は背が高くて力が強い年配の人物だとか推論を述べたりする、消えたグラス氏というのは強請屋にちがいないとか。
それに対して神父は「あなたは偉大な詩人ですな! あなたは無から前代未聞の物語を創造なされた」なんて調子で、真実はちがうよと説明する、これって、なんかシャーロック・ホームズをモデルにしてバカにしてんぢゃないかと。
あと犯罪学者のセリフのなかには「(略)死体は庭に埋められているか、煙突のなかにでも押しこめられていることでしょう」なんてのもあるが、煙突うんぬんってえのは『モルグ街の殺人』への皮肉かなとも思われる。
なにがバカにしてるとか皮肉かっていうと、この密室暴行現場の真相というのが、そんな理屈づけアリかよってくらいあっけないもので、しかもそこダジャレかよってオチも付いてるんで、探偵小説へのアンチテーゼとしか思えない一品だからである。
ほかのもミステリーっていうより、私としてはショートショートみたいなつもりで読んでった、帯の紹介文風にいえば「諷刺とユーモア」ってことになるんだろうけど、あんまりマジメに謎を考えたりしないで、どんな仕掛けみせてくれんのよと楽しめばいいものだと思うんで。
一読したなかで気に入ったのは、エクスムア公爵が一族の遺伝としての片方だけ大きい耳を隠すために紫色の鬘をかぶっているんだが、なんでそんなことをしているかってことをとりあげた「紫の鬘」かな。
コンテンツは以下のとおり。
グラス氏の失踪
泥棒天国
イルシュ博士の決闘
通路の人影
機械のあやまち
シーザーの頭
紫の鬘
ペンドラゴン一族の滅亡
銅鑼の神
クレイ大佐のサラダ
ジョン・ブルワノの珍犯罪
ブラウン神父のお伽話

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総特集星野之宣

2020-08-22 18:04:18 | マンガ

文藝別冊 2020年5月 河出書房新社
サブタイトルが「デビュー45周年記念 宇宙より広く、神話より深く。」というムック。
私はそんな熱心なファンというわけでもないんだが、ときどき『宗像教授異考録』なんかを読み返したりしてたら、今年はこんな特集が出たというので買ってみた。
諸星大二郎との合作マンガも載ってるしね、「稗田礼次郎対宗像教授」って、いいなあ、そういうの。
しかし、作品やキャラやクリーチャーの解説なんかあって、作品リストもまとめられてると、いーなーと思ってしまい、片っぱしから読んでみたくなるんで、危険だ。
執筆者はどなたも星野作品への想いがつよいので、語りが熱い熱い、いかに魅せられてしまったかの経験談とかされちゃうと、こっちも一部作品とはいえ少しは知ってるもんだから、自分も世界拡げてみたくなってしまう、困るなあ。
なかで、大英博物館のキュレーターで2009年に星野之宣原画展、2019年にマンガ展を開催したニコル・クーリッジ・ルマニエールさんとの対談はおもしろい。
もっと英語版で日本のマンガを世界中に紹介したい、でも出版社がなかなかやらないみたいだし、著作権とか難しいと嘆く彼女への、星野氏の以下のような回答には興味もった。
>こないだ某集英社の編集の人と話をしたんですけど、あそこは大変なものをいっぱい持ってるわけですよね。アニメにもなるしマンガとしても海外ですごく売れるような作品をいくつも持ってる。それをその人は「油田を持ってる」と表現してましたね。(略)だったら、マンガをすべて油田と考えて、資源のない日本でマンガを資源として、これからどうやって生かしていくかということを考えてもいいんじゃないかと思います。
うーむ、世界に通用するもののひとつは、まちがいなく星野SFだろうと思う。
コンテンツは以下のとおり。
イラストギャラリー
3万字ロングインタビュー すべての道はSFに通ず。
特別寄稿 萩尾望都、西原理恵子、鶴田謙二、とり・みき、あさりよしとお、幸村誠、魚戸おさむ、皆川亮二、永野のりこ
描き下ろし合作マンガ 諸星大二郎+星野之宣 BLACK vs WHITE
スペシャル対談 ニコル・クーリッジ・ルマニエール×星野之宣 マンガと博物館の幸福な出会い
レア作品再録 環礁にて
特別収録 タイム・トンネル
秘蔵資料公開 星野之宣[創作宇宙]の旅
リスペクトインタビュー 小島秀夫
エッセイ 田中芳樹、新井素子、加門七海
STAR FIELD解読 牧眞司、赤坂憲雄、倉谷滋
特別企画 ファンが選んだ星野作品の名シーン、星の作品を彩るバイプレイヤー名鑑、星野宇宙の異生物図鑑
データベース 星野之宣[主要45作品]解説、年譜、全作品リスト

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使ってはいけない言葉

2020-08-16 17:36:21 | 忌野清志郎

忌野清志郎 二〇二〇年五月二日 百万年書房
「忌野清志郎、デビュー50周年企画。」ってことで、キヨシローの名言集が出た。
どーしよーかなーと思ったもんだが、構成が、キヨシローに「ヤマちゃん」と慕われた山崎浩一氏なので、信頼できると思って、買うこととした。
聞いたことある言葉もあるし、知らなかった発言もあるんだけど、さすがに、どれも、いいこと言うよなキヨシローは、と改めて感慨もひとしおのものばかり。
1ページにひとつ掲載、短いひとこともあれば、けっこう長いセンテンスのものもある。
数は全部で211か。巻末に出典一覧がついてるのがいいやね。
いろいろあるけど、歌について言ってるのが、らしくて好きだね、やっぱ。
たとえば、
>歌を歌う場合は、やっぱり人に伝えるんだってことを考えた方がいいですね。どうでもいいようなことを伝えてもしようがないわけだからさ。伝えたいんだってこと、伝えないといけないと思うんですよ。それが基本じゃないかな。どうしてもこれだけ伝えなきゃってことがない人は、歌わなくてもいいんだ、別に。ねぇ!(p.80)
とか、
>みんなが納得するような歌なんて、
>そんなの歌じゃないと思うんですよね。
>どこからも文句がこないような
>歌なんてのは……。(p.202)
とかっての。
そうやって歌の言葉だけのこと言ってんのかと思いきや、一方で「君が代」なんかについては、
>学校なんかで流れる「君が代」も、
>あまり歌いたくないアレンジですよね。
>「歌わないと左だ」とかそれ以前に、
>「歌いたくないアレンジだな」というのがあった。
>ここは坂本龍一さんに、みんなが歌いたくなるような
>アレンジを考えてもらえるといいんじゃないかな(笑)。
>それでみんなが歌ってみて
>「でもこれ、やっぱり意味がよくわからないんじゃないの?」
>という話になったほうがいいと思うんです。(p.74)
なんてことを言ってる、君が代をアレンジって切り口で語るひと、あんまりいないと思うw
以下の章にわかれてて、まあ、なんかそういうタイトルと合ってる感じの言葉に分類されての収録。
Part1 ぼくら夢を見たのさ
Part2 わかってもらえるさ
Part3 いい事ばかりはありゃしない
Part4 うまく言えたことがない
Part5 つ・き・あ・い・た・い
Part6 あきれて物も言えない

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