ドナ・タート/吉浦澄子訳 平成二十九年 新潮文庫版
『村上さんのところ』のなかに、最近のおすすめの小説を訊かれて、村上さんはドナ・タートの『The Goldfinch』がとにかく面白い、だけど翻訳がないので、前作『シークレット・ヒストリー』を読んでみ、はまりますと答えてるのがあって。
編集の註がついてて、『ゴールドフィンチ』も訳されて刊行されたとあるんだが、調べてみると単行本で全4巻だというので、初めての作家だから躊躇してしまい、文庫になってるこっちを読むことにした。
予備知識なんもなしにいきなり取り組んだけど、おもしろいっす。
いきなりプロローグの1行目から誰かが死んだことが書いてある、すぐ右の登場人物紹介欄をみればそれが何人かいる古代ギリシア語クラスの学生のひとりだってことはわかる。
すぐに、その学生仲間でそいつを殺したってことが堂々と書いてある、いったいどういう物語、って困惑する。
舞台はヴァーモント州のカレッジで、そこへ遠くカリフォルニアから運命に導かれて入学することになったリチャードが語り部。
ほかのふつうの学生たちとは一線を画して謎めいたようにみえる一団、ジュリアン教授とそのたった五人の教え子たちに魅力を感じて、そのクラスに入ることになる。
大男で常に冷静な語学の天才ヘンリーと、白い顔赤い髪して黒いマントをふくらませて歩くフランシスと、男と女の美しい双子チャールズとカミラ(なんてネーミングだと思ったが)。
命を落とすことになると冒頭で宣言されちゃいつつ描かれるのが、いつもすこしだらしない風貌で、キーキー大声で話すバニー。
このバニーは困った性格で、友人にカネをせびるのはしかたないとして、ひとの弱点をみつけるとそこ突っつくのが大好きで得意。
語り部リチャードによれば、
>見かけは愛想がよくて、のほほんと無神経なバニーだが、実際はどうしようもなくでたらめな性格だった。その理由はいくつか挙げられるが、なかでも一番大きいのは実行に移す前に考える能力が徹底的に欠如しているという点であった。(p.382)
ということになるんだが、なんかある種の発達障害なんぢゃないかという気がしてくる、そういうのを説明に堕すんぢゃなくて丁寧に描くよね、上手だ。
でも、だからって殺すことないぢゃないとは思うんだが、なんで彼を殺すことになるか追いつめられてく過程がみっちりと書かれていくのが前半、上巻まで。
後半は、失踪が遺体発見という形で明るみになって以降、捜査が入って周囲は騒がしくなってくなかで、秘密を共有する仲間たちが精神的に厳しくなっていくさまが密度濃く書かれている。
少ない登場人物とはいえ、キャラクターの書き分けがなんともいい。
いちばん好人物っぽかったチャールズがアルコールに溺れてくのなんかが痛々しいほど迫りくるものある。
『村上さんのところ』のなかに、最近のおすすめの小説を訊かれて、村上さんはドナ・タートの『The Goldfinch』がとにかく面白い、だけど翻訳がないので、前作『シークレット・ヒストリー』を読んでみ、はまりますと答えてるのがあって。
編集の註がついてて、『ゴールドフィンチ』も訳されて刊行されたとあるんだが、調べてみると単行本で全4巻だというので、初めての作家だから躊躇してしまい、文庫になってるこっちを読むことにした。
予備知識なんもなしにいきなり取り組んだけど、おもしろいっす。
いきなりプロローグの1行目から誰かが死んだことが書いてある、すぐ右の登場人物紹介欄をみればそれが何人かいる古代ギリシア語クラスの学生のひとりだってことはわかる。
すぐに、その学生仲間でそいつを殺したってことが堂々と書いてある、いったいどういう物語、って困惑する。
舞台はヴァーモント州のカレッジで、そこへ遠くカリフォルニアから運命に導かれて入学することになったリチャードが語り部。
ほかのふつうの学生たちとは一線を画して謎めいたようにみえる一団、ジュリアン教授とそのたった五人の教え子たちに魅力を感じて、そのクラスに入ることになる。
大男で常に冷静な語学の天才ヘンリーと、白い顔赤い髪して黒いマントをふくらませて歩くフランシスと、男と女の美しい双子チャールズとカミラ(なんてネーミングだと思ったが)。
命を落とすことになると冒頭で宣言されちゃいつつ描かれるのが、いつもすこしだらしない風貌で、キーキー大声で話すバニー。
このバニーは困った性格で、友人にカネをせびるのはしかたないとして、ひとの弱点をみつけるとそこ突っつくのが大好きで得意。
語り部リチャードによれば、
>見かけは愛想がよくて、のほほんと無神経なバニーだが、実際はどうしようもなくでたらめな性格だった。その理由はいくつか挙げられるが、なかでも一番大きいのは実行に移す前に考える能力が徹底的に欠如しているという点であった。(p.382)
ということになるんだが、なんかある種の発達障害なんぢゃないかという気がしてくる、そういうのを説明に堕すんぢゃなくて丁寧に描くよね、上手だ。
でも、だからって殺すことないぢゃないとは思うんだが、なんで彼を殺すことになるか追いつめられてく過程がみっちりと書かれていくのが前半、上巻まで。
後半は、失踪が遺体発見という形で明るみになって以降、捜査が入って周囲は騒がしくなってくなかで、秘密を共有する仲間たちが精神的に厳しくなっていくさまが密度濃く書かれている。
少ない登場人物とはいえ、キャラクターの書き分けがなんともいい。
いちばん好人物っぽかったチャールズがアルコールに溺れてくのなんかが痛々しいほど迫りくるものある。