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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

アーチー若気の至り

2022-04-24 18:07:16 | 読んだ本

P・G・ウッドハウス/森村たまき訳 2022年2月 国書刊行会
去年から出始めたウッドハウス名作選なるシリーズの三つ目。
2月ころに新刊出てたの知ってたんだけど、買い行くの延び延びにしてたら、古本が出回ってたんで3月下旬ころそっち買った。
原題「Indiscretions of Archie」は1921年の作品。
主人公アーチボルド・ムームは、イギリスの若紳士、ただしカネも仕事も持ってない。
第一次世界大戦ではフランスで戦った経験があるが、それが終わると一族からアメリカへ行けっていわれて、ニューヨークにやってきた。
そこでホテルの支配人とひどい口論したあと、マイアミの知人のパーティに行くんだが、そこでアメリカ娘と恋におち、電撃結婚してしまう。
妻となった「小柄でほっそりして、黒髪の雲に包まれた、小さな生き生きした顔の持ち主(p.19)」のルシールと、ニューヨークに戻ってきて、紹介された彼女の父親というのが、あのホテルのオーナー、口論した当の相手だったというのが一連の喜劇の幕開け。
アーチー本人が、
>いったい全体、これほどの女の子がどうして自分みたいなバカタレと恋に落ちてくれようがあるんだろう?(p.86)
と自問するくらい、完璧な女性であるルシールと結婚したのは奇跡みたいなもんなんだが、ルシールはアーチーのことを世界一素敵なひととマジで思ってるっぽい、この幸せもの。
それは、たぶん、
>アーチーは――そして間違いなくこの事実が、彼がかくも大きく多様な友人の輪を持つ理由であろう――いつだって自分の悩みを棚上げにし、他人の悲しい身の上話を聞くことができる男だった。(p.130)
とか、
>アーチーは同情心の持ち主で、見知らぬ人ですらごく内々の悩みを気軽に打ち明けてくれたものだ。(p.259)
とかってアーチーの性格のよさに魅力を感じてるんぢゃないかと思われる。
だから、「善かれ悪しかれ、妻は僕を外交向きな男だと思っていて(p.274)」って具合に、ホテルをめぐるトラブル解決の交渉役としてルシールに送り出されたりする、ルシールとしては夫が父親の役に立ってくれることを心底願ってるわけだ。
かくして、義父からはまったく信頼されてないアーチーだけど、ホテル・コスモポリスを住処にして、数々の冒険をこなしていく。
画家のモデルとして水着姿になっていたが、アトリエの外に出た拍子に締め出されて、犯罪者と疑われたり。
プレスエージェントが盗み出した、舞台女優のペットの蛇を預かったり。
義父の持っている小さな陶器像と一対となるべき品を手に入れるべく、妻の宝石を質に入れた資金でオークションに参加したり。
実は犬好きで犬に詳しくて、舞台キャンセルしてきた宿泊客の女優の犬が病気なのをアドバイスしたり。
ニューヨーク・ジャイアンツの勝ちに懸けたはいいが、主戦投手が女友達とケンカしてるときは好投できないと知って真っ青になったり。
ルシールの兄のビル・ブリュースターの恋路がうまくいくように協力してやったり。
どんなややこしいトラブルがあっても、誰にだって、おお、わが友よ、とか呼びかけて仲良くふるまえちゃう人の好さで乗り越えてく、なかなか素敵な若者です。
私としては、爵位をもってる変わり者のイギリスの老紳士たちが出てくる展開のほうが、好みではあるかなと思いますが。


コメント
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