many books 参考文献

好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

エディプスの恋人

2016-01-05 20:55:40 | 読んだ本
筒井康隆 昭和56年 新潮文庫版
持ってるのは昭和62年の18刷。
こないだ「家族八景」を読みかえしたついでに、見つけたんでこれも読み返してみた。
主人公の七瀬さんは、私立高校の事務員として働いているが、その学校に香川智広という、ちょっと変った二年生がいることに気づく。
その生徒に危害が及びそうになると、野球のボールは空中で破裂するし、人は見えない力でふっとばされてしまう。
彼の父は画家で、母は十二年前に死んでいることを調べた七瀬は、その出身地に両親のことを調べにいったりする。
そんなことしてるあいだに、二人は激しい恋におちるんだけど。
同時に、彼を守っているのは、「意志」と七瀬が名付けた圧倒的な精神力みたいなものだと気づくんだけど。
その力はまさに全知全能というべきもので、恐ろしくもなってくるが、抗うことはできない。
うーん、人ひとり、一夜明けてみたら、最初っからこの世に存在してなかったことになるなんて、凄すぎ。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

黄いろい船

2016-01-03 19:07:55 | 読んだ本
北杜夫 昭和53年 新潮文庫版
昨秋11月ころだったか読みかえしてみた、北杜夫の短編集。
「黄いろい船」(昭和43年)
船というのは水に浮かぶ船ぢゃなくて、飛行船のこと。
>プラットフォームにかぶさる屋根の横に、意外に綺麗な空が見えた。都会のうえの空にしては、もったいないような空であった。
>男はふと、その空に浮ぶ飛行船の幻影をまぶたに描いた。ゆったりと、童話じみて浮遊する黄いろい船。どこまでもその中へ埋没できるようなおおらかな存在。(略)
というように、現実には目の前にはない飛行船の姿を想像する、主人公は失業中の妻子ある男。
職安に通うんだけど、以前に週刊誌の記事で見た、ドイツの飛行船を日本に呼ぶ事業なんて仕事にあこがれてたりする。
>もう飛行船のとべる空じゃないんだ、どこもかしこも……おれの心の中も
なんて独白を照れずにやるところが、北杜夫らしいような気もする。
「こども」(昭和43年)
これ、昔はじめて読んだときに結構衝撃受けて、その後も印象を忘れられなかった小説。
細かいことは忘れるけどね。この短編集に入ってたことも忘れてたけど。
主人公のイラストレーターの男は、妻が死んだときにはまだ赤ん坊だった一人息子を、妹の助けなども借りながら育てる。
しかし、その男の子は、妙に悪賢くて自分勝手で、大人の顔色を見て演技の態度をとるのはうまかったりするんだけど、ときおり残忍な態度をみせる。
>こいつはいったい、なにものなのだ。
なんて、途中の所々で父親が深く苦悩する場面があって、なんか不吉な感じがずっと根底に流れたまま、時は過ぎて子供が成長していく様子が描かれる。
「指」(昭和43年改稿)
体質の弱い小学校三年生の少年が、年上のガキ大将にくっついて悪いことに加担するはめになり、弱みを握られて強請られる。
小遣い銭をせびられたうえに、少年の大事にしている小刀を譲るように要求される。
「おたまじゃくし」(昭和43年)
北杜夫のよく書く、“ダメなおじさん”をとりあげたもの。
一族から役立たずと思われてるそのおじさんは、子どもといっしょに原っぱで戦争ごっこに興じてる。
タイトルがおたまじゃくしなのは、その男が食用ガエルの養殖という事業の成功を夢想してるんだが、甥っ子からは一緒に遊んでくれたらおたまじゃくしを獲ってきてやると条件をつきつけられてるところから。
「霧の中の乾いた髪」(昭和41年)
軽井沢の別荘地に住む少年の家には、大学生二人が夏のあいだ卒業論文を書くために下宿していた。
しかし学生たちは勉強している様子もなく、部屋にいてはエントツのようにタバコを吸ってるだけ。
そうかと思うと、ヒメマス釣りに出かけたり、乗馬している婦人をおっかけて馬に乗って出かけていったり、遊んでばかりに見える。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする