こんにちは、23期生の永岡伸一です。引き続き裁判員裁判の経験談をお伝えします。
私の関わった事件は偽札事件です。コンビニなど複数店舗で偽札を使用したと思われる人物についての裁判です。一連の事件は複数箇所、何日間かに分かれて発生。他の実行犯も複数います。被害者もバラバラ。他の実行犯についての裁判の内容は一部しか証拠提出されていません。裁判は証拠で決まるという原則により、限られた情報のみで審理する難しさを感じました。
1.法廷での審理
11日間の日程のほとんどは10:30に集合しました。時間になったら法廷に向かいます。法廷では検察、弁護士、被告人が既に着席していました。初日は傍聴席が満杯かもしれないと言われていましたが、実際にたくさんの方が座っていました。学生の団体などもいました。裁判官が壇上の前列中央、その左右に裁判員が座ります。補充裁判員の私は後列に座りました。11:00に裁判が開始されました。
初日は検察官から事件の概要説明。証拠によって証明しようとする具体的事実を明らかにします。続いて弁護人からの冒頭陳述。被告人を犯人とするのは合理的な疑いが残るので無罪にすべきと述べました。被告人からの証言があり、最後に裁判官から双方が対立している争点が整理されました。
その後の数日は証拠調べが続きます。提示された証拠の内容は様々です。事件当時の証言記録や物的証拠、防犯カメラの映像、また今回の裁判は平成に発生した事件の再審でした。そのため証拠の中には前の法廷での証言映像などもありました。こういった物的証拠は映像を含め、傍聴席からは見えません。音声は法廷内で流れますが、把握するのは難しいと思いました。余談ですがコンビニの防犯カメラの精度のよさに感動しました。
今回の事件では複数名の証人が呼ばれていました。証人1名には1日審理をかけます。裁判に時間がかかる理由の一つです。平成の事件でもあり当然記憶も薄れています。当時の証言と今の証言の違い、記憶の薄れ、証言拒否、A氏とB氏の証言が食い違っていること、など様々でした。証人尋問は1回勝負。後日聞きたいということもできないため、ビジネス以上に緊張しました。裁判員は証人に質問が可能です。私は補助裁判員だったため、その機会はありませんでしたが、中にはするどい質問をされている方もおられました。
裁判官の皆様は、すべて鉛筆でメモし、いつの証言だったかを把握されていました。法廷にはデジタル機器を持ち込めません。診断士のヒアリングを欲しいスキルだなと思ったりしました。
証拠調べの日程の最終日には、検察から事件内容の整理、求刑する内容について発言。弁護士からも証拠調べにおいて提示される証拠の疑念点について主張がなされました。
すべての証拠提出がなされたことを確認して、審理は完了。次の日から裁判官と裁判員による評議に入りました。
2.評議
法廷での審理の内容にもとづき、どのような判決を行うか裁判官と裁判員同士で審議します。残念ながらここが守秘義務の根幹となるので、詳細については記載できません。ただ裁判官の皆様は、法律の素人である一般の私達にもかみ砕いて丁寧にファシリテーションしてくださっていたという印象です。いずれにせよ、この評議を数日間行い、チーム裁判所としての判決を決めます。この段階で裁判員の仕事はほぼ終了です。裁判官の方々が判決文を作成する日数をあけて、判決日に望みます。
3.判決の宣告の立ち会い
最終日です。補助裁判員の私は評議が終了した段階で仕事は終了。この日は傍聴席に席を用意していただき、他の傍聴人とともに判決を見守りました。判決は管轄違い。懲役刑などの刑罰が地方裁判所以上、罰金刑などは簡易裁判所での判断となる、裁判所毎の役割分担があります。いきさつは評議の内容に触れるため詳しく書けませんが、地方裁判所で判断すべき事件ではないという判決になりました。
4.裁判員の経験を終えて
最終日に、裁判所から感謝状を頂きました。11日間の裁判に参加して感無量です。裁判を終えての感想としては、刑罰を決めることの難しさです。過去の判例が重視されるのももっともであり、正解がないため時間が掛かるのも納得できました。少人数で行われるプロセスである以上、こういった裁判員制度がある意義もよく理解できました。事件やニュースに対しての見方も大きく変化することが実感できました。生活環境によっては相応の負担がありますが、機会があれば参加されることを強くおすすめ致します。
余談ですが、最終日にマスコミの取材の申し出がありました。希望者のみということでしたが、匿名ですが応じたのは裁判員の中では私だけでした。自分がマイナーであることが自覚できました。レアな経験はどんどんしたいと思うのですが。皆様なら取材受けますか?