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バーニング・プラットフォームから管理会計プラットフォームへ

2024-11-16 12:00:00 | 24期のブログリレー

こんにちは!

稼プロ!24期生の松田です。

「バーニング・プラットフォーム(燃え盛る足場)」というメタファー(暗喩)をご存じの方も多いかもしれません。私は最近、ある講義でこの言葉を初めて耳にしました。このメタファーは、1988年にノルウェーの石油掘削プラットフォームで発生した火災による大惨事に由来しています。本稿では、このメタファーから得られる教訓を、日本の中小企業が置かれた現状に重ねて考察してみたいと思います。そして、私が中小企業診断士として今後取り組んでいきたい「戦うための管理会計プラットフォーム」についてもご紹介します。

バーニング・プラットフォームの悲劇

この大火災事故は、北海の海上50mに位置する石油掘削プラットフォームで発生しました。メンテナンス作業中に起きたガス漏れが引火し、大規模な爆発が連鎖的に発生、瞬く間に火災へと発展しました。災は制御不能な勢いで、プラットフォーム全体に広がり、爆発の衝撃で構造物が損壊。露出した燃料がさらに火勢を強め、悪循環を引き起こしました。急速に広がる炎によってプラットフォームの温度は急上昇し、毒性のある黒煙が作業員たちの逃げ場を奪います。そこにとどまれば「焼け死ぬ」という恐怖に直面した作業員たちは、パニック状態の中で孤独な戦いを余儀なくされました。

究極の二択

視界には北海の冷たい海面がちらついていたことでしょう。しかし、海面までの高さ50mは、飛び込むという選択は非常に危険で無謀でした。さらに、爆発の影響で散乱した鋼鉄の破片が海面を覆い、水温も極めて低かったため、決断を鈍らせました。飛び込めば凍え死ぬ可能性もあり、助かる保証はどこにもありませんでした。作業員たちは「とどまって確実に死ぬ」か、「飛び込んで生き延びる可能性に賭ける」かの究極の二択を迫られました。結果として、229人の作業員のうち、リスクを承知で飛び込んだ62人だけが生き延びることができたのです。

一瞬の判断ミスが生死の分かれ目

とどまった作業員たちは、「逃げ道があるかもしれない」「鎮火される可能性もある」と高をくくり、状況を見守る決断をしたのかもしれません。あるいは、いつものように「消火システムが作動する」「消防隊や他の救援が駆けつける」といったわずかな希望にすがり、様子をうかがっていた可能性もあります。しかし、この火災では消火システムの一部が損傷し、機能しなかったことが判明しています。その結果、「とどまれば確実に火に包まれる」と認識するまでのわずかな数分が、致命的な判断ミスとなりました。作業員たちは、数分後に、まさか自分がプラットフォーム上で命を落とすとは思っていなかったでしょう。

現状維持バイアスの影響

この事例で命を落とした作業員たちは、現状維持バイアスの影響を受けていた可能性があると考えられています。現状維持バイアスとは、差し迫った危機を過小評価し、慣れ親しんだ現状にとどまろうとする心理的傾向を指します。このバイアスを助長した要因として、急激に顕在化したリスクが作業員たちを危機的な状態に追い込み、パニックの中で「飛び込む」という選択肢のリスクと効果を咄嗟に判断できなかったことがあげられます。その結果、一歩踏み出す勇気を出せず、バーニング・プラットフォーム(現状)にとどまる理由を模索しているうちに、命を落としてしまいました。

中小企業の現状もバーニング・プラットフォーム?

では、中小企業を取り巻く現状はどうでしょうか。コロナ禍を経て、多くの中小企業は、急激な顧客ニーズの変化への対応遅れによる業績悪化や過剰債務に加え、人材不足、後継者不在、賃上げ圧力や物価高騰、そして金利上昇など、複数の深刻な問題に直面しています。まさに「バーニング・プラットフォーム」のような状況であり、リスクはすでに顕在化し、持続可能性を脅かされているといっても過言ではないでしょう。このまま何も手を打たなければ、倒産や休廃業といった避けがたい結末に至る危険性が高まっています。

見える化で気づきを促す管理会計プラットフォーム

しかし、多くの中小企業は日々の業務に追われ、リスクの兆候に気づかないまま見過ごしてしまい、その結果、リスクが現実化し、危機的な状況に陥っていることが少なくありません。その原因の一つは、多くの中小企業の社長が売上を感覚的に把握している一方で、原価やキャッシュフローを適時・的確に管理できていない点にあります。ある金融機関の担当者も、コロナ禍での積極的な金融支援が終了し、状況が一変した今、多くの社長が自社の経営状況を十分に把握できていない現実を嘆いていました。

現在、金融機関は経営改善・事業再生支援へと重点を移しつつあります。そんな中、制度会計上の財務諸表の形式では、社長や金融機関が本当に必要とする情報を適時・的確に把握することが難しいのが実情です。これは制度会計の限界であり、経営状況の見える化が十分に機能しているとはいえません。だからこそ、この厳しい時代を生き抜くには、管理会計のさらなる工夫に大きな可能性があると考えています。

中小企業が究極の二択に追い込まれてからでは手遅れです。その前に。私は管理会計を改善し、経営状況の見える化を実現するお手伝いをすることで、中小企業の社長を支援したいと考えています。そのため、簡便かつ低コストの管理会計プラットフォームの設計・開発・改善を、私のライフワークとして継続的に取り組んでいく所存です。

選択肢を提示して決断を後押しする管理会計プラットフォーム

このプラットフォームを活用することで、社長が経営状況を数値(共通言語)で把握できるようになり、その情報を社内で共有することで、コミュニケーションが活性化します。これにより、社内の一体感が高まり、連携が強化されます。そして、外部環境の変化によるリスクが顕在化する前に、現状を打破し、必要な変革を受け入れる意欲が高まり、次の一歩を踏み出す勇気につながると考えています。

さらに、このプラットフォームで、次の打ち手についてリスクと効果をシミュレーションしながら、社長と一緒に検討していきたいと考えています。その際、松竹梅(Good-Better-Best)の3つの選択肢に絞り込み、事前に合意しておくことで、社長に心理的な余裕を与え、より的確な意思決定をサポートできると考えています。この「マジックスリー」という心理的アプローチは、選択肢を3つに絞ることで迷いを防ぎ、印象に残りやすくする効果があります。

また、事前に社長のリスクに対する考え方(リスク選好度)も確認しておきたいと思います。これにより、究極の二択に追い込まれる前に、危機(バーニング・プラットフォーム)を未然に防ぎ、リスクと効果を仮説検証可能な3つの選択肢から、状況に応じて迅速かつ柔軟に決断できるようになると考えています。

私は、この管理会計プラットフォームのさらなる改良が今後の経営改善・事業再生支援の重要な基盤となり、経営革新の第一歩となると考えています。このプラットフォームで中小企業がこの厳しい経営環境を乗り越えるためのサポートを全力で続けてまいる所存です。

 

 

コメント (1)
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