みなさん、こんにちは。20期生の加納久稔(かのうひさとし)です。今日は士業の独占業務と求められる専門性について、個人的な思いを述べさせていただきます。
4月7日に政府が緊急事態宣言を発出した際、7割から8割の外出自粛を国民に求めたため、一時的に休業したり在宅勤務ができなかったりした企業の一部は、労働者に自宅待機を命じました。そして政府は、労働者に給料の6割以上に相当する休業手当を支払った企業に対して雇用調整助成金を、これまでの要件を緩和して支給することにしました。
助成金を受給するためには当然申請しなければなりません。要件が緩和されたとはいえ、申請書はもちろん、休業に関する労使協定書、休業や休業手当の実績がわかるものなど、多くの書類が必要で、自身では対応できない中小企業は、社会保険労務士に依頼することが多かったと思います。
さて、そもそも論ですが、なぜこの申請の代行は社会保険労務士に依頼するのでしょうか。雇用調整助成金は雇用保険法に基づくものです。そして、開業している社会保険労務士(以下「開業社会保険労務士」とします)以外は、他人の求めに応じて報酬を得て、社会保険に関する法令などで規定された書類やデータの作成と諸官庁への提出をしてはならない、と法律で決められているからです。これらは人々の生活に直結し、誤りがあったら社会的な影響が大きいため、国家試験に合格して専門知識を有していることが担保されている開業社会保険労務士の独占業務としているわけです。いろいろな士業に、それぞれ理由があって独占業務があることは否定しません。しかし、士業以外ができないために非効率的となっているものもある、ということが政府の規制改革推進会議で取り上げられていました。
企業グループ内にある複数の間接部門の業務を1か所に集めて効率化を図ることをシェアードサービス、受け皿となる会社をシェアードサービス会社といいます。ERPを利用した給料計算は代表的な業務の一つでしょう。たいていのERPには社会保険に関する機能もありますので、たとえば人を雇ったときに届け出なければならない健康保険、厚生年金保険や雇用保険に関する書類やデータも、必要な情報さえ入力されていれば、簡単に作成することができます。
しかし、シェアードサービス会社が他のグループ会社の社会保険に関する事務を行うことは、開業社会保険労務士の独占業務に該当するため、現状では不可能です。そこで経済団体は、これが可能となるよう、もしそれが無理ならば、シェアードサービス会社に所属している勤務等社会保険労務士(開業しないで企業などに勤務している社会保険労務士)が、他のグループ企業の社会保険業務行えるよう、厚生労働省に求めました。
詳しいやり取りは、2019年5月21日に開催された規制改革推進会議行政手続部会の議事録に記載されていますが、結論としてはゼロ回答に近いものでした。しかし、労働生産性の向上が課題であるといわれているなか、現状のままでよいのでしょうか。さきほどの入社時の書類作成は、一連の流れの中で実施できる業務なのに、その部分だけ開業社会保険労務士がやることに、どれだけのメリットがあるのでしょうか。簡単とはいえ、開業社会保険労務士もERPの操作方法を覚えなければならないため、負担の方が大きいのではないでしょうか。シェアードサービス会社に在籍している者にとって、経済団体の要望はよくわかります。高度な専門性を要するものは独占業務として残し、そうでないものは誰でもできるようにすることが必要ではないでしょうか。
ところで、少し前の話しになりますが、2017年9月25日付の日本経済新聞朝刊に、2015年12月に公表された野村総合研究所とオックスフォード大学の共同研究による「10~20年後に、AIによって自動化できるであろう技術的な可能性」のうち、弁護士・司法書士・弁理士・行政書士・公認会計士・税理士・社会保険労務士・中小企業診断士の8つの士業の代替可能性が掲載されていました。6つの士業で70%以上だったのに対し、弁護士は1.4%。そして、一番低かったのは中小企業診断士の0.2%でした。
どのような過程を踏んで導かれた結果なのか、詳しいことはわかりませんので鵜呑みにしてはいけないと思いますが、書類の作成や手続きが主な業務である士業は、総じて可能性が高かったようです。一方、弁護士は訴訟代理などの法律事務、中小企業診断士は中小企業の経営コンサルティングが主な業務と記載されており、直接人を相手にすることが、可能性を低くしている理由なのかもしれません。
中小企業診断士には法令で決められた(守られた?)独占業務がありません。誰でもコンサルティングや研修講師、執筆活動を行うことができるわけです。そんななかで勝ち抜いていくには、中小企業診断士としての専門性が必要となってくるのでしょうが、その「専門性」とはどういうものなのでしょうか。ご無沙汰診断士の私には、まだ明確なものはありませんが、結局はセルフブランディングを確立していくことが大事なのでしょう。
最新の画像[もっと見る]
- アップルファーム社の取り組みに学ぶ―障がい者雇用を軸とした真似できない世界観 2週間前
- 輪島支援 4週間前
- 輪島支援 4週間前
- 趣味と次のこと 4週間前
- 趣味と次のこと 4週間前
- ヤンゴン雑記 2ヶ月前
- ヤンゴン雑記 2ヶ月前
- ヤンゴン雑記 2ヶ月前
- 衛星利用ビジネス検定β版 2ヶ月前
- 大阪の安宿 4ヶ月前
資格保有者が合理性を阻害しているとしたら、その資格自体が合理的でなくなるのでは?
資格や業界団体の部分最適が発生していると、それ以外の人達が割りを食いますね。
どの資格もそうですが、その分野に関して適切な手順を踏める(テストに合格する)ことが資格認定の要件ですよね。ただアルゴリズムは人間よりも機械のほうが迅速正確です。
アルゴリズムにできない「高度な専門性」を有することと、その証明をすること。悩ましいですね。
本来補間しあえる関係と思いますが、今のAIは進み過ぎて、職を奪われる脅威のほうが先に立つかもしれないですね。
独占業務が決められた当時は、それなりの理由があったと思います。また、性善説に立つか、それとも性悪説に立つかによっても、見解は異なると思います。ただ、永久に変わらない、ということはないと思います。
AIと医者。昨年放送された、女医が主人公のテレビドラマでは、AIより女医の方が優れていましたね(「私、失敗しないので」と、自信をもって言ってみたいものです)。……少し脱線しましたが、結局は棲み分けなのかな、と思います(これも少し古いのですが、「特集 AIに勝つ!社労士・司法書士・行政書士」という記事が、『週刊エコノミスト』2018年2月13日号に掲載されていました。ご希望があれば、次回の講義にお持ちします)。
アンケート対象が全体の母集団の状況を表しているのかどうか分かりませんが、アンケートでは開業社労士が90%、加納さんのような勤務社労士が10%。開業社労士が手続き業務(1号、2号業務)に充てている時間は全体の60%弱。独占業務を狭める動きに対しては、身内から反対の動きが出そうです。
「社労士は職域拡大すべきか」との設問には、40%の方が「現状を少しずつ変えていくのがよい」、30%の方が「現状を大きく変えないと社会保険労務士の将来は危うい」との答。将来に危機感をもっておられることが伝わってきました。
また、会議の議事録を読んでいただいたり、関連記事を検索して読んでいただいたり、嬉しい限りです(アンケートの結果は、会誌にも掲載されていましたが、全く記憶にありませんでした(-_-;))
コロナ対策を除けば、社労士が重要としていた最近の課題の一つは、働き方改革対応です。しかし、この分野は独占業務ではありません。企業経営理論の範囲と考えれば、診断士の方が、より広い観点で助けになるかもしれませんね。