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リース会計基準

2019-03-14 12:00:00 | 18期生のブログリレー

皆さま こんにちは。

稼プロ18期の舌歯 昌洋です。

稼プロブログの12回目になります。

 

今回は最近出てきた企業会計に関するルール変更に関する話題について触れます。

具体的には、日本会計基準におけるリース会計のルール変更です。

 

去る2019年3月8日に、日本経済新聞において下記見出し記事が1面トップに出て参りました。

「リース取引、資産計上へ、会計を国際基準に、企業の利益率下押しも。」

この見出しの説明を以下に行って参ります。

 

まず話の前提として会計上のリース取引とはこのようなものです。

リース取引とは、

物件の所有者=貸手が

物件の使用者=借手に

一定期間にわたり使わせてあげる代わりに

お金をもらう取引を指す(適宜口語化は行いました)。

 

要はモノを貸し借りして、代わりにお金をやり取りする取引です。一般的にはリースあるいはレンタル等呼ばれ方は色々あろうかと思います。なお、リース取引は会計上「ファイナンスリース取引」と「オペレーティングリース取引」に分類されますが、その詳細は本稿では省略します。

 

それらを前提として記事の内容を簡単に説明します。

①   ビジネス上リース取引は一般的に行われている

②   リース取引は、会計上「ファイナンスリース取引」と「オペレーティングリース取引」に分類される

③   従来から「ファイナンスリース取引」では購入と同様に取得した資産と支払う債務が貸借対照表に計上されている

④   「オペレーティングリース取引」については、貸借対照表には何らの記載がなく、リース会社等に支払ったリース料だけが損益計算書に計上されている

⑤   「オペレーティングリース取引」のルールを改め、関連する資産と負債を貸借対照表にも計上することにする

 

この⑤番がキモです。この処理を行うことが、見出しの「リース資産、資産計上へ」の部分で表現されています。

次に、この影響が具体的にどのような形になって財務諸表に現れてくるのかを試算してみます。サンプルにはイオン株式会社の2018年2月期の有価証券報告書を利用します。サンプル抽出の理由は、その新聞記事にイオン株式会社にも言及があったためです。

 

連結財務諸表を概観すると、以下のようになります。

連結貸借対照表

総資産額9.5兆円

流動負債5.5兆円

固定負債2.1兆円

純資産額1.9兆円(非支配株主持分0.8兆円含む)

(注:イオングループにはイオン銀行がある。連結貸借対照表には流動資産に「銀行業による貸出金1.8兆円」流動負債に「銀行業による預金」3.0兆円などが含まれている。そのため、厳密には小売業だけの財務諸表ではない。しかし、簡易な試算が目的のため特別な配慮などは行わない。普通の企業で預金といえば流動資産だが、銀行業では流動負債になるのがマメ知識。)

 

連結損益計算書

売上高  8.4兆円

営業利益 2100億円

当期純利益929億円(非支配株主分683億円含む→イオン株主分は245億円のみ いやはやスーパーマーケット事業は全然儲からないんですね…

 

連結キャッシュ・フロー計算書

営業CF 4639億円収入

投資CF 4278億円支出

財務CF 286億円収入

期末キャッシュ残高8700億円

 

さて、このようなイオン株式会社が新リース会計基準を適用するとどのような形になるかを考えます。

ヒントはオペレーティングリース取引に関する注記にあります。

具体的に、2018年2月期有価証券報告書PDF版の130/213ページ(PDF上のページ数)を参照します。すると以下の金額が解約不能未経過リース料として示されています。

短期分:0.2兆円

長期分:1.2兆円

これはリース契約において、イオンがリースの相手方に対して支払うと約束している金額に相当します。その結果、概ねこの金額が以下の会計処理により貸借対照表に計上されてくることが予想されます。

借方:諸資産(リース利用権)1.4兆円

貸方:短期リース債務 0.2兆円

貸方:長期リース債務 1.2兆円

 

オペレーティングリース計上後の連結貸借対照表の予想図は以下になります。

連結貸借対照表

総資産額9.5兆円→10.9兆円

流動負債5.5兆円→5.7兆円

固定負債2.1兆円→3.3兆円

純資産額1.9兆円(非支配株主持分0.8兆円含む)*変わらず

 

したがって総資産額+1.4兆円、流動負債+0.2兆円、固定負債+1.2兆円となります。

(厳密には少し議論がありますが、損益計算書とキャッシュ・フロー計算書にはあまり影響は出ません)。

 

ここで、リースを貸借対照表に計上する結果、総資産利益率(ROA)がどうなるかを見てみます。

適用前ROA

当期純利益929億円/ 総資産9.5兆円=0.98%

適用後ROA

当期純利益929億円/ 総資産10.9兆円=0.85%

 

リース基準による影響試算値

ROA-0.13%(13.2%減少)

ここでROAが低下することが見出しの「企業の利益率下押しも。」の部分になります。

 

なお、負債が増えていますので、当然自己資本比率にも影響が出ます。

適用前自己資本比率

純資産額1.9兆円/ 総資産額9.5兆円=20%

適用後自己資本比率

純資産額1.9兆円/ 総資産額10.9兆円=17.4%

 

リース基準による影響試算値

自己資本比率-2.6%(13%減少)

財務比率にはかなり影響が出ることが試算で明らかになりました。金融機関等借り入れで、コベナンツのついている会社は要注意です。

 

なお、見出しの「会計を国際基準に、」の部分は国際会計基準(IFRS)と米国会計基準で既に同様のルールが策定されているので、同等のルールを日本にも導入していく流れのことを指しています。

 

ここからが記事の説明ではない本論なのですが、手短に述べます。

論点は2つあります。

①株式投資家の立場で有用なのか

②中小企業の経営診断・経営支援への応用可能性

 

①株式投資家の立場で有用なのか

この文章をお読みになっていただいた方に質問ですが、新リース基準は適用すべきでしょうか?ご自身の心の中で、その答えと理由を考えてみてください。

②中小企業の経営診断・経営支援への応用可能性

どういう事が考えられるでしょうか?これも同様にお願いします。

 

 

・・・

 

 

・・・・・

 

 

 

①についてですが、私は適用することは有用であると考えています。

車や飛行機の運転・操縦を想像してください。運転席にある計器類が正しい数字を示していない状況で、適切な判断ができるでしょうか?新リース基準の適用で、会社の状態がより正しく数字で表現されますので、より適切な判断につながるのではないでしょうか。 

 

②についてですが、簡易な経営診断などをするときに財務諸表だけでなく、各種リース取引による支払予定額なども情報として利用できると良いですね。

その情報を追加で組み入れることにより、本当の自己資本比率が算定できるなどメリットがあります。その情報に基づく解釈を社長にレポートできれば、仕事の付加価値も上がるかもしれません。入手した決算書を吟味もせず、M○○○などにペチペチ入力するだけでは物足りない・・・ということでしょうか。

上場企業の財務の側面や、株式投資の側面、あるいは中小企業支援の現場といった側面からも企業会計は影響があります。

診断士の方にも企業会計に興味を持つきっかけにしていただければ幸いです。

長文お読みいただきありがとうございました。

 

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (渡邉大輔)
2019-03-22 08:08:43
診断士試験で勉強しただけの危うい知識でしたが、実例を伴った解説で良く理解できました。 より実態を把握できるという点は同意です。
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Unknown (石川 健)
2019-03-19 23:31:51
会計はルール・決まりの世界なので、どちらが正しいか突き詰めるより、どう腹に落とすかという気がしますね。
返信する
Unknown (木村祐介)
2019-03-14 14:32:19
リースの区分がなくなりますね。私の会社はあまり影響なさそうですが、事例はとても影響が大きいですね。
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