照る日曇る日 第1035回
大学を卒業しても就職せずにコンビニでアルバイトを続け、30を過ぎても浮いた噂の一つもない女性というのは、あちこちにいそうな気もするでが、そんな「自由で気儘で不安定な生き方」を放置せず、なんとか「治してやろう」とするのが「大人な」私たちの世の中なのである。
主人公自身も、別に自分で望んでそんな生き方を選びとったわけでもないので、家族のアドバイスとか偶然目の前に現れた「はみだし男」の言うがままに、そんな受け身の暮らしから転身しようとするのだが、腰かけ仕事であるはずのコンビニの労働があまりにも彼女の心身に馴染んで、今更どうしようもない。
彼女はコンビニという高度に発達した資本主義の極北を体現した超優良な労働力商品なのであるが、そういう自覚は全くないし、彼女にとって冷徹なメカニズムの部品であることが「疎外された労働」ではなく、むしろ生甲斐であると感じるような物神崇拝的感受性を懐いている点が興味深い。
小説のラストで主人公が久しぶりにおのれの中のコンビニ人間性と再会し、大いなる喜びを実感するシーンは感動的ですらあって、その神神しい姿は現代資本主義のミューズと呼んでもいいかもしれない。
この国をめちゃくちゃにしたその男今度は9条を壊しにかかる 蝶人