照る日曇る日 第1037回
「宇治十帖」は、読むたびに草食系薫選手の優柔不断と肉食系匂宮の相も変らぬ女漁り噺に食傷して、紫式部は、なんでまあこんな本編の縮小再生産の延長版を書いたんだろう、本編が大好評で続編の要請をどうしても断れなかったんだろうな、と想像しながら飛ばし読みするのが常だった。
けれども今回浮舟が宇治川に飛び込んだ直接の理由は、男二人のライバルの板挟みになったから、というよりも、死にたい死にたいと思っていたところに、つけこんだ「もののけ」の仕業と明記してあったり、「蜻蛉」の巻の構想が「竹取物語」の本歌取りであること、などに新たな興味を覚え、投げ出さずに読み進んでいったのです。
奇跡的に一命を取り留めたものの、またしても田舎の色好み男に肉薄されて現世に二度目の嫌気がさした浮舟は、強引に出家を遂げていたところを薫選手に見つけられてしまいます。
ところが、さあ、これから薫&匂宮の浮舟争奪戦の第2ラウンドが始まるぞ、と楽しみにしていたのに、あろうことか「夢浮橋」で突如物語はあっけなく終わってしまうのである。こんな酷い話は聞いた、いや読んだことがないぞ。
私と同じ感想を懐いた読者は昔から大勢いたと見えて、鎌倉室町から江戸時代にかけて数多くの後日譚が書かれているが、「宇治十六帖」くらいのコンテンツがなければ到底掉尾を飾るわけにはいかないはず。そういう意味では、読んだことはないが、室町時代の「雲隠六帖」は分量的にはリーズナブルな増補といえそうだなあ。それだと都合全60巻になるし。
恐らく作者も急いで続きを書こうとは思ったのだろうが、折悪しく病気か、身心の衰えを感じたために、万已むを得ず擱筆したのだろう。まことに残念無念なり。
シラスとはイワシ・イカナゴ・ウナギ・アユ白き稚魚の総称なりき 蝶人