照る日曇る日第1699回
資本主義の前段階の「共同体」について「土地の占取」に着目して論じたこの論文は1950年代の東大大学院における講義録にとして編まれたものであるが、本書ではこれに関連する6つの小論もグリコのおまけのようにつけられていて親しみやすい。
「アジアから見た文化比較の基準」という講演では、「共同体の基礎理論」を踏まえながら中世ヨーロッパに土地制度とマックス・ヴェーバーの「ヒンズー教と仏教」から引用したインドの土地制度との違いを具体的に図表を使って論じていて興味深い。
詳しくは本書に直接あたって頂きたいのであるが、西欧の土地にもインドの土地にも村落共同体が規定する共有地が存在し、それを所有者である農民が平等に使用できるような創意工夫がなされているのである。
しかし前者の「平等」が、四角四面の「形式的平等」(例えば共有地を農家の戸数に応じて機械的に頭割りをする)であるのに対して、後者では各農家の家族構成。生活能力などを考慮した「実質的・合理的な平等」が追求されていると指摘し、その点に彼我の土地制度のみならず文化の基準を見出しているのである。
なお本書の初版の刊行は1955年であるが、新宿のアートシアターギルドで「新宿泥棒日記」を観た後、紀伊国屋でギろうとして失敗したのは、ここで紹介した文庫本ではなく1970年に刊行された薄い単行本の第2版であったことをはしなくも思い出した。
満月より十三夜とか十六夜の月が好きだが君はどうかね 蝶人