照る日曇る日第1701回
岩波書店から刊行されたこのシリーズを順不同で読んでいるが、本巻が2016年5月に上梓された第1回目だった。
ここに登場するのは、1990年に死んだ栃錦、成田三樹夫、グレタ・ガルボ、池波正太郎、藤山寛美、幸田文。91年の江青、中島葵、火山学者3人、山本七平、相田みつお。92年の中村曜子、山村新治郎、尾崎豊、小池重明、長谷川町子、大山康晴、中上健次、永山則夫、寺田ヒロオ、太地喜和子、風船おじさん。93年のオードリー・ヘップバーン、神永明夫、山本満喜子、ハナ肇、山本安栄、マキノ雅弘、田中角栄、逸見政孝。94年の安井かずみ、アイルトン・セナ、金日成、吉行淳之助、乙羽信子の面々である。
これら多士済々の顔ぶれを眺めて思うことは、どんな人も遅かれ早かれ死ぬんだなあという当たり前の感慨と、その死がいつ訪れるかの出鱈目に近い多様性である。
その人柄が浮かび上がってくるような著者の光彩陸離とした見事な点鬼録の中で、私の印象に残ったのは長谷川町子と太地喜和子の2人。げんざいBSで再放送中の「マー姉ちゃん」に出てくる仲良し3姉妹は、実際には母親の死後2対1に仲間割れして、和解しないままに上の2人は死んでしまうのであった。
杉村春子の後継者として大きな期待を寄せられていた酒豪にして超妖艶な名優太地喜和子(当時48歳)が、静岡県伊東市の公演のあと、車ごと深夜の海に転落死したのは92年10月13日。同乗者がすべて助かったというのに彼女だけが死んだのは、飲みすぎではなく、泳げなかったからだった。嗚呼!
知恵遅れなれどその遅れこそ愛らしく宝物のように思わるるなり 蝶人