あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

アリガトウ、サヨウナラ、ゲンキデネ

2023-09-08 11:14:07 | Weblog

 

これでも詩かよ 第302回

 

正午。

誰一人通らないカンカン照りの田舎道を歩いていると、どこかでポトっと音がする。

振りかえってみると、道の真ん中に、栗がひとつ落ちていた。

 

栗を拾って、なおもカンカン照りの道を進んで行くと、

道の真ん中に、小さなコジュケイが、ひとり佇んでいた。

 

コジュケイは、ゆっくりと歩きながら、しばらく物思いに耽っているようだったが、

いつものようにチョットコイと騒いだりせず、また一度も僕の顔を見ることもなく、

黙って電柱の脇に消えた。

 

どこからともなく、一陣のそよ風が吹いてきたとき、

僕は突然、分った、と思った。

彼女は、僕に、「アリガトウ、サヨウナラ、ゲンキデネ」と言いたかったのだ。

 

なぜか僕は、一瞬その電話を、とることを躊躇ってしまった。

去年の今頃亡くなった妹が、ホスピスから掛けてきた電話を、コロナで仰臥していた僕は、なぜか素早くとれなかった。

 

巨大な白入道が立ち上がる群青の空の彼方から、

ふと思いついたように吹きつけたそよ風は、歌うようにこう囁いたのだった。

「アリガトウ、サヨウナラ、ゲンキデネ」

 

  バスの中に忘れたはずの紙袋我が家の納屋に仕舞われていたずら 蝶人

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