あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

短歌研究文庫版「塚本邦雄全歌集 別巻1」を読んで

2023-09-19 10:31:14 | Weblog

 

照る日曇る日 第1961回

 

全8巻の全集によって塚本短歌の全貌はほぼ明らかになったが、2冊の創作ノートに拠るさ2冊の別巻が加わることになった。

 

例によってえいやっと開いたページの数首を引用してみる。

 

 ダリを父として大雪の(大阪or魚市)の箱に睡魔のごとき海鼠ら

 

 仙人掌の掌に熱き掌を重ねつつ かくのごと不毛の愛の刻経つ

 

 死せる杉原一司は生きて酔へばその唇むらさきのマルドロールよ

 

 みしみしと重き若者一月の骨牌の赤き女王を踏みて

 

これらは第3歌集「日本人霊歌」、第4歌集「水銀伝説」、第5歌集「緑色研究」、第6歌集「感幻樂」に時代にひそかに書き継がれたものらしいが、ではそれら公刊歌集の作品とくらべてみると、特に抜きんでた秀作揃いかというと、そうでもなく、敢えて言うなら総じて試行錯誤に励んだ習作程度の出来栄えであるから、作者自身も生前は公表しなかったのではないだろうか?

 

塚本短歌の熱愛者や研究者にとってはヴェールを取り払われた幻の垂涎の作品かも知れないが、私のような門外漢には、猫に小判、豚に真珠の作物であった。

 

   大杉と野枝を殺せし甘糟の子孫と見做して長く憎みき 蝶人

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