言わずと知れた「東池袋大勝軒」の流れを汲む暖簾分け店。自分はその歴史にそんなに詳しくはないが、東池袋大勝軒の元主人である山岸一雄氏はレシピの公開に関してとてもオープンで、色んな雑誌や専門誌にその作り方を詳しく露わにしているくらいで、行列を作るラーメン店として評判の最中でも、一夜漬けの人や電話での質問を含めて、かなりの数の人に親切にもレシピを教えたそうだ。すごい事ですね。ここ岐阜の店主は直接教えをいただいたようで、「大勝軒のれん会」にも名を連ねている。
この店は開店が2001年頃との事なので、この界隈(名古屋を含めて)ではかなり早い時期からつけ麺(この店では「もりそば」)を提供した店ということになる。当時はまだつけ麺がどういうものかという認知がされていなかっただろうし、今のように多種多様なつけ麺が乱立していなかったので、大勝軒と現在世間一般に定着した濃厚豚骨魚介系のつけ麺を一緒に論じると「ちょっと違う」ということを念頭に入れる必要があると思う。というのも、この岐阜の店に関する昨今のブログなどの評価は不当に低く、曰く「麺が柔らか過ぎる」、「水切りがなされていない」、「ぬるい」、「味が薄い」、「玉子が半熟でない」、などと酷い評価が与えられている事が多いのだ。それらの仕様の全てが山岸氏によって「わざわざ」なされた事で、この岐阜店でもその教えをたぶん忠実に守っているだけだというのに。
自分が最初にここを訪れたのは濃厚系のつけ麺がこの地方でもちらほら出来始めた頃なので、それらの店と比べると、確かに時間はかかるし、予想したより麺が柔らかいし、味は薄めだし、でも食べきれるかなと思うほど量は多いし(当時比)、とその頃に流行り始めた他店とは別物だった。正直自分も最初は良さが分からなかった。その後、ここの中華そばを食べて印象は変わるのだが、「あぁ、こういう事なのか」と合点がいくようになったのは、自分がこの地域のほとんどの有名店や、首都圏のラーメンを食べまわり、何かの媒体で山岸氏のインタビューを読んで、上記の仕様が全て氏の想いがあってなされていると分かってから。特に5年程前から濃厚が売りの店ばかり乱立して食傷気味になってからだ。
以前と比べると行列は少なくなったような気がするが、根強い人気があり定着している。店に入るとカウンターと小上がりがあり、基本的に店主1人が調理作業をしていて、給仕を複数女性に任せている。麺の茹であげには珍しく大ざるを使い、ある程度の数の注文は一緒にこなしていく。もりそば、中華そばのどちらの場合でも提供までには割合時間がかかる事が多いので、昼休み時とかは要注意。柔目の麺が甘酸っぱいスープに絡まり、喉越し良くスルスルと腑に落ちる。麺量もスープもかなり多いのであまり食べられない人はあらかじめ少なめで頼んだ方がいい。麺の水分も加わりマイルドになったつけ汁はやさしく、濃厚系を食べ飽きて、だんだんクドく感じるようになってきた自分のようなおじさんにはぴったり。この歳になってやっと旨いと感じられるようになった訳だ。ただつけ汁やスープの印象は以前よりもやや食べ易く、分かり易い味に寄ってきた感じはするが。
猫も杓子も、という状態の最近の濃厚なつけ麺やラーメンに飽きた方にこそ、いまお勧め。
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岐阜県岐阜市茜部菱野3-51-1 1F
(岐阜大勝軒 岐阜・大勝軒 ぎふたいしょうけん たいしょうけん)