二月御園座大歌舞伎・十三代目 市川團十郎白猿襲名披露「三人吉三巴白浪」「 鯉つかみ」「 外郎売」「吉野山」(2月12日・御園座)
コロナ禍もあって遅れに遅れた十三代團十郎襲名。襲名披露が始まってもう1年が経つが、やっと名古屋にもお目見え。御園座で襲名披露公演が開催された。同時に息子が新之助(八代目)を襲名するので揃っての来名となった。ただこの襲名披露公演、歌舞伎界の大名跡でありながら興行の方はなかなか苦戦しているとも伝え聞く。良くも悪くも話題性は十分だし、めでたい巡業なんだけれど。やはり團十郎自身の人気度に加え、コロナ禍と昨今歌舞伎界が直面した暗い話題が影を落としているのだろうか。
今回購入したのは自分の予定を鑑みて祝日に合わせたりと色々と訳あって一番遠い2階席。あまり演目をしっかりと調べず、観た事の無い「鯉つかみ」がある昼公演にしたのだけれど、團十郎が演じるのでもないし、襲名披露なのに昼は口上が無いとはうっかりしていた。ただ演目は4つもあるし、新之助が6歳で演じた時に話題になった「外郎売」もあったので昼の部もなかなか。いつもこのくらい充実した演目を揃えてくれると嬉しいんだけれど(そうはいかないか)。
会場は着物を召したご婦人方も多く華やいだ雰囲気。ほぼ満席だったが、超満員という訳ではなさそう。残念だったのは知らないうちに会場の建物(1階の「御園小町」含む)以外の飲食物の持込みが出来なくなってしまったこと。折角の”ハレ”の日なのに酒もダメなんだと…。他所で吟味した弁当を買って幕間に食べるの好きだったんだけれどナ。
「三人吉三」は大川端の場面から。ここに出てくる3人が全員悪党でどうしようもない不条理な話なのに人気演目として成り立っているのが面白い(笑)。特に”色悪”(二枚目の悪役)でもないし。昔の人はこういう演目をどう観ていたんだろう。七五調の台詞がテンポ良く、馴染みの台詞も出てきてとっつき易い。梅玉の養子、莟玉(かんぎょく)は相変わらず可愛らしい姿。その姿で男言葉に戻るのが可笑しい。
「鯉つかみ」は右團次。通常「鯉つかみ」は本水(ほんみず=舞台で本当の水を使うこと)なので期待していたが、流石に後の演目に差し支えるのか、今回は布とスモークで演出。鯉が出てくるのだが、歌舞伎で動物を表現する時は何故か写実的ではなくユーモラスな姿の場合が多い。この鯉も何だか間抜けな姿。右團次の大きな演技が演目の豪快さとぴったり。
幕間は座席で弁当を広げた。下の「御園小町」で購入した江戸時代創業の名古屋の駅弁屋「松浦商店」の「コーチンわっぱめし」。名古屋コーチンのそぼろは甘辛く味付けしてある。でもやっぱり観劇の時には酒が欲しいよなァ…。
さて八代目を襲名した新之助の「外郎売」。本筋では敵役の工藤祐経を演じるのは梅玉。昼の部は口上が無いと思っていたら、”劇中口上”で梅玉が新之助襲名を紹介。なるほどそういう趣向だったか。代々演じてきた外郎売、他の役者の台詞も「早口を上手にやれ」「しっかり努めろ」(意訳)と圧力たっぷりだし、会場の御婦人方は孫か、ひ孫の晴れ舞台を見届けるといった雰囲気(苦笑)。新之助は堂々と披露して大拍手を貰っていた。
さてしんがりは今回の主役、十三代團十郎の「吉野山」。静御前を演じるのは雀右衛門。前半はほぼ2人による舞踊で、実は狐という忠信の振りが所々に出てくる。自分は海老蔵時代の彼の飲み込んだような口跡(台詞の言い回し)があまり好きでは無かったが、今回観てそういう部分が無くなって大きくなっているのに感心した。もとよりどこから見たってイイ男だし(笑)。これから十八番(←この言葉も團十郎由来だ)の演目が目白押しだろうし、もっと名古屋に来て欲しいものだ。
一、三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)大川端庚申塚の場
お嬢吉三 莟玉
お坊吉三 廣松
和尚吉三 男女蔵
二、湧昇水鯉滝 鯉つかみ(こいつかみ)
滝窓志賀之助/滝窓志賀之助実は鯉の精 右團次
小桜姫 玉太郎
三、歌舞伎十八番の内 外郎売(ういろううり)
八代目市川新之助初舞台相勤め申し候
外郎売実は曽我五郎 新之助
大磯の虎 魁春
小林朝比奈 男女蔵
化粧坂少将 廣松
遊君喜瀬川 莟玉
遊君亀菊 玉太郎
梶原平次景高 男寅
茶道珍斎 市蔵
梶原平三景時 家橘
小林妹舞鶴 萬次郎
工藤祐経 梅玉
四、吉野山(よしのやま)
佐藤忠信実は源九郎狐 海老蔵改め團十郎
逸見藤太 九團次
静御前 雀右衛門
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