病理診断のための検体は採取されると一晩ホルマリンに漬けられたあと、すなわち固定(標本を作りやすいように組織を固くする)されたあと、翌日処理される。この処理を切り出しといい、病理診断の1/3ぐらいを占める重要な作業となる。切り出しがいい加減だと、いくら知識量の多い病理医でも診断に苦労する。病理医の一日はこの切り出しから始まる。これはあくまでも私の勤め先の病院の場合で、午後から切り出しをやっている施設もある。
さて、その切り出し、例えば各種臓器に発生した癌を例にとってみよう。臨床医の希望は癌の診断(確認)に加えて、その癌の生物学的特徴、臨床的に術前に解析した画像や検査データとどれほど整合性があるか、手術は成功していたか、化学療法、放射線治療には効果があったか、といったようなことを調べてもらうことなどもろもろある。だから、顕微鏡用の標本からいつでも肉眼所見に戻ることができなくてはいけないので、受け取った検体を適当に切り刻むのではいけないのだ。
そんなわけで、手術検体1例の切り出しであっという間に3,40分が過ぎてしまう。大きな手術がいくつかあった日の翌日だったりすると、あっという間に半日すぎてしまう。
それでも、静かに手術検体の切り出しだけ行っていられるならいいが、そうは問屋が卸さない。切り出し中にも、様々な仕事が入ってくる。
例えば、病理解剖の依頼が来ることはよくあるし、11時頃になると朝一番で始まった手術の術中迅速診断が入り始める。こうして気がつくといつの間にか13時近くになっていることも少なくない。こうして、病理医の午前中は慌ただしく過ぎていく。
さあ、今日も一日頑張ろう