世界のニュースを見ると今後の行く末が暗くなるような気がしてくる。中でも最近一番の「トンデモニュース」は、アメリカのトランプ大統領がイスラエルのゴラン高原「併合」を認めたというニュースだった。トランプ大統領は今までも国際秩序を無視するような決定を行っている。イスラエルにある米国大使館をエルサレムに移すという決定はその代表。今度の決定はそれをもしのぐ暴挙、愚挙であり、評する言葉がない。この決定は3月21日に表明されて、25日に正式に文書に署名した。その式場にはイスラエルのネタニヤフ首相も駆けつけて感謝の意をを表した。
(署名後のトランプとネタニヤフ)
イスラエルは選挙戦中で、4月9日に投開票される。ところでイスラエル検察当局はネタニヤフ首相を汚職で起訴する手続きを開始したところだった。ネタニヤフ首相は1996年から99年までの第一次政権時代にも汚職容疑が持ち上がっていた。それは逃れたものの、2009年以後の第2次、第3次政権でも汚職容疑がかけられている。容疑は何件かあり、その一つは通信大手に便宜を図る代わりに、自分に有利な報道をさせ賄賂も受け取ったというものだ。なるほど、こういう政治家はトランプ好みなのかもしれない。しかし、イスラエルでは有力新党も出来てネタニヤフ苦戦も伝えられる。トランプの方針転換はネタニヤフ支援策であり、露骨な「内政干渉」そのものだ。

ゴラン高原(英語表記=Golan Heights)は上の地図で判るように、イスラエル東北のシリアとの国境にある。1967年の第3次中東戦争(6日戦争)でイスラエルが占領した。同時にヨルダン川西岸地区(ヨルダン領)、シナイ半島とガザ地区(エジプト領)も占領した。シナイ半島は1979年のキャンプ・デーヴィッド合意で返還された。しかしゴラン高原は戦略上の要衝で、イスラエルを望む高原地帯になっているため、イスラエルが占領を続けた。それだけでなく、1981年にはイスラエル国会でゴラン高原を「併合」してしまった。それに対し国連安保理は併合を不法とする決議を採択した。むろん常任理事国であるアメリカも賛成したのである。
(ゴラン高原)
この政策転換がおかしいのは、国連安保理決議を自ら踏みにじっていること、「力による領土変更」は認められないという原則を破ったことである。これならロシアがウクライナ領のクリミア半島を「併合」したケースを批判できなくなる。それどころか、1990年にイラクがクウェート領に侵攻したケースも同様で、1991年の湾岸戦争の根拠がなくなる。「北朝鮮」に対する制裁決議をどこかの国(中国やロシア等)が無視したとしても、アメリカが批判できなくなる。イランに対するアメリカの「制裁」も同様。EU各国も、あるいはトランプべったりの安倍政権でも、ゴラン高原併合を認めない政策を継続するのも、このように他の問題への波及が深刻すぎるからだ。
歴史的には第一次大戦までは、中東一帯がほぼオスマン帝国領だった。オスマン帝国崩壊後、独立を求めるアラブ民族主義に対し、英仏で分割統治されることになった。具体的には国際連盟のもとで委任統治領となり、フランス委任統治領シリア、フランス委任統治領レバノン、イギリス委任統治領パレスチナ、イギリス委任統治領メソポタミアである。それぞれ独自の歴史をたどるが、ゴラン高原はこのときからフランス委任統治領であり、歴史的に「パレスチナ」ではない。住民も歴史的にレバノンやシリアに多いドゥルーズ派イスラム教徒が多い。イスラエルの侵攻はシリアへの侵略にあたる。
ゴラン高原を失ったシリアでは、内部対立が激しくなり国防相だったハーフィズ・アル=アサドが1971年に政権を握った。1974年にはエジプトと組んで第4次中東戦争を起こすが、ゴラン高原奪還は成功しなかった。しかしアサド政権はソ連との結びつきを強め、独裁化していった。その後、エジプト、ヨルダンはイスラエルと国交を結んだが、シリアは一貫してイスラエルを認めていない。しかしシリア一国でイスラエルと軍事的に対決しても勝ち目はない。だからアサド政権は父子2代にわたって、口先とは別にゴラン高原に対して事実上の放置を続けてきた。そこに「一定の安定」があったわけだ。
トランプは「アメリカ・ファースト」と言うけど、その実は「自分ファースト」だ。アラブ諸国内の親米国、サウジアラビアやエジプトなどは、国内的に突き上げられるだろう。トランプ、あるいはアメリカは「イスラエルの利益しか関心がない」と見られれば、親米国の立場がなくなる。中東波乱を呼び込む愚策としか言い様がないが、要するにトランプは「そういうヤツ」だということ。今後安倍首相は何度もトランプに会うけど、「忠告」できるか。「友人」なら苦言を呈するべきだが、「部下」なら黙っているしかない。まあ判りきっているだろう。

イスラエルは選挙戦中で、4月9日に投開票される。ところでイスラエル検察当局はネタニヤフ首相を汚職で起訴する手続きを開始したところだった。ネタニヤフ首相は1996年から99年までの第一次政権時代にも汚職容疑が持ち上がっていた。それは逃れたものの、2009年以後の第2次、第3次政権でも汚職容疑がかけられている。容疑は何件かあり、その一つは通信大手に便宜を図る代わりに、自分に有利な報道をさせ賄賂も受け取ったというものだ。なるほど、こういう政治家はトランプ好みなのかもしれない。しかし、イスラエルでは有力新党も出来てネタニヤフ苦戦も伝えられる。トランプの方針転換はネタニヤフ支援策であり、露骨な「内政干渉」そのものだ。

ゴラン高原(英語表記=Golan Heights)は上の地図で判るように、イスラエル東北のシリアとの国境にある。1967年の第3次中東戦争(6日戦争)でイスラエルが占領した。同時にヨルダン川西岸地区(ヨルダン領)、シナイ半島とガザ地区(エジプト領)も占領した。シナイ半島は1979年のキャンプ・デーヴィッド合意で返還された。しかしゴラン高原は戦略上の要衝で、イスラエルを望む高原地帯になっているため、イスラエルが占領を続けた。それだけでなく、1981年にはイスラエル国会でゴラン高原を「併合」してしまった。それに対し国連安保理は併合を不法とする決議を採択した。むろん常任理事国であるアメリカも賛成したのである。

この政策転換がおかしいのは、国連安保理決議を自ら踏みにじっていること、「力による領土変更」は認められないという原則を破ったことである。これならロシアがウクライナ領のクリミア半島を「併合」したケースを批判できなくなる。それどころか、1990年にイラクがクウェート領に侵攻したケースも同様で、1991年の湾岸戦争の根拠がなくなる。「北朝鮮」に対する制裁決議をどこかの国(中国やロシア等)が無視したとしても、アメリカが批判できなくなる。イランに対するアメリカの「制裁」も同様。EU各国も、あるいはトランプべったりの安倍政権でも、ゴラン高原併合を認めない政策を継続するのも、このように他の問題への波及が深刻すぎるからだ。
歴史的には第一次大戦までは、中東一帯がほぼオスマン帝国領だった。オスマン帝国崩壊後、独立を求めるアラブ民族主義に対し、英仏で分割統治されることになった。具体的には国際連盟のもとで委任統治領となり、フランス委任統治領シリア、フランス委任統治領レバノン、イギリス委任統治領パレスチナ、イギリス委任統治領メソポタミアである。それぞれ独自の歴史をたどるが、ゴラン高原はこのときからフランス委任統治領であり、歴史的に「パレスチナ」ではない。住民も歴史的にレバノンやシリアに多いドゥルーズ派イスラム教徒が多い。イスラエルの侵攻はシリアへの侵略にあたる。
ゴラン高原を失ったシリアでは、内部対立が激しくなり国防相だったハーフィズ・アル=アサドが1971年に政権を握った。1974年にはエジプトと組んで第4次中東戦争を起こすが、ゴラン高原奪還は成功しなかった。しかしアサド政権はソ連との結びつきを強め、独裁化していった。その後、エジプト、ヨルダンはイスラエルと国交を結んだが、シリアは一貫してイスラエルを認めていない。しかしシリア一国でイスラエルと軍事的に対決しても勝ち目はない。だからアサド政権は父子2代にわたって、口先とは別にゴラン高原に対して事実上の放置を続けてきた。そこに「一定の安定」があったわけだ。
トランプは「アメリカ・ファースト」と言うけど、その実は「自分ファースト」だ。アラブ諸国内の親米国、サウジアラビアやエジプトなどは、国内的に突き上げられるだろう。トランプ、あるいはアメリカは「イスラエルの利益しか関心がない」と見られれば、親米国の立場がなくなる。中東波乱を呼び込む愚策としか言い様がないが、要するにトランプは「そういうヤツ」だということ。今後安倍首相は何度もトランプに会うけど、「忠告」できるか。「友人」なら苦言を呈するべきだが、「部下」なら黙っているしかない。まあ判りきっているだろう。