セルジオ・レオーネ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト」(1968,Once Upon a Time in the West)が公開されている。えっ、そんな映画あったっけ。「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」(1984)なら知ってるけど…という人もいるだろう。この映画は公開当時は「ウエスタン」という邦題だった。それなら知っている。時代的に僕は見てないけど、名前は知っている。クラウディア・カルディナーレ、ヘンリー・フォンダ、チャールズ・ブロンソンなど懐かしき大スターが出演している。
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「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」が今度宝塚で舞台化されるという。タランティーノの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」の影響もあるのか。いわゆる「ワンス・アポン・ア・タイム」三部作の最初、2時間45分のオリジナル版の初公開はうれしい限り。セルジオ・レオーネ(1929~1989)は、イタリアの監督で「マカロニ・ウエスタン」の巨匠として知られた。50年代から60年代にかけて、ハリウッド映画は歴史大作をイタリアでたくさん作っていて、レオーネはそれらに参加し、映画監督になった。その後、黒澤明の「用心棒」をもとに作った「荒野の用心棒」(1964)が大ヒット。続いて「夕陽のガンマン」(1965)、「続・夕陽のガンマン」(1966)も世界的に大ヒットした。
(セルジオ・レオーネ監督)
今ではこれらの映画は映画史的な重要性を認められている。芸術的にも評価されているが、同時代的には「暴力が売り物の安直なまがい物」とみなされていた。本来の「西部劇」の暴力ヴァージョンと思われていたのである。世界でも日本でも、当然のように賞レースの対象になっていない。これは日本の東映任侠映画と同じような事情だろう。加藤泰監督の「明治侠客伝 三代目襲名」や山下耕作監督の「博奕打ち 総長賭博」などの極めつけの名作を生んだ「東映ヤクザ映画」だが、同時代には「暴力礼賛」の低俗映画とされてベストテンなどでも無視されていた。
映画は西部(アリゾナ州の設定)のとある駅に始まる。3人の殺し屋がねらう通称「ハーモニカ」(チャールズ・ブロンソンが素晴らしくカッコいい)。その後、農場で新しい妻を待つマクベイン一家が映し出される。そこに何者かが現れ襲撃してくるが、それは誰で理由は何か。マクベインの新妻は、ニューオーリンズで知り合った高級娼婦のジル(クラウディア・カルディナーレ)。ジルが列車から降り立つシーンは忘れがたい。すでに結婚していて未亡人となったジルを、今度は男たちが付け狙う。襲撃事件は大陸横断鉄道を早く作りたい鉄道王と、手下の殺し屋フランク(ヘンリー・フォンダ)の仕業だった。
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その構図は早くから明らかにされるので書いたけど、その後の長い長い経過は書かないことにする。絵がキレイで、俳優が見事。そこに例によってエンニオ・モリコーネの素晴らしい音楽が流れる。セリフもキレがあり、長さは感じない。西部の終焉をうたいあげる壮大な叙事詩で、見終わったらまた見たくなる。そんな映画である。ヘンリー・フォンダが悪役を演じるのは珍しいが、さすがの存在感を発揮している。それでもブロンソンのかっこよさには負けてるかもしれない。クラウディア・カルディナーレはキャスト最上位にクレジットされている。ほぼ出ずっぱりの主演と言ってよい。「山猫」などヴィスコンティのアート映画の印象が強くなってしまったが、これこそカルディナーレだなと思った。
ジルは事件を知らずに馬車で農場へ向かうが、そのシーンは明らかにモニュメント・ヴァレーでロケしてる。しかし「マカロニ・ウエスタン」なんだから、ほとんどのシーンはスペインなどに作られたオープンセットと、ローマのチネチッタに作られたセットで撮影されたという話。でも見ている側は、これが西部だという気持ちで見ることができる。映画ができる経緯については、各種の情報で見られるが、レオーネは原案作成に若きベルナルド・ベルトルッチとダリオ・アルジェントに協力を求めたと出ている。
ちょうど10年前の1958年に作られたウィリアム・ワイラーの「大いなる西部」の正統的名作から、すでに大きく違う。ほぼ同時に作られたサム・ペキンパーの「ワイルドバンチ」ともかなり違う。今見ると「マカロニ・ウエスタン」(アメリカでは「スパゲッティ・ウエスタン」)ならではの作品世界だ。公開当時は「暴力性」を取り沙汰されたレオーネ映画だが、今見ると詩情あふれる世界に見入ってしまう。
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「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」が今度宝塚で舞台化されるという。タランティーノの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」の影響もあるのか。いわゆる「ワンス・アポン・ア・タイム」三部作の最初、2時間45分のオリジナル版の初公開はうれしい限り。セルジオ・レオーネ(1929~1989)は、イタリアの監督で「マカロニ・ウエスタン」の巨匠として知られた。50年代から60年代にかけて、ハリウッド映画は歴史大作をイタリアでたくさん作っていて、レオーネはそれらに参加し、映画監督になった。その後、黒澤明の「用心棒」をもとに作った「荒野の用心棒」(1964)が大ヒット。続いて「夕陽のガンマン」(1965)、「続・夕陽のガンマン」(1966)も世界的に大ヒットした。
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今ではこれらの映画は映画史的な重要性を認められている。芸術的にも評価されているが、同時代的には「暴力が売り物の安直なまがい物」とみなされていた。本来の「西部劇」の暴力ヴァージョンと思われていたのである。世界でも日本でも、当然のように賞レースの対象になっていない。これは日本の東映任侠映画と同じような事情だろう。加藤泰監督の「明治侠客伝 三代目襲名」や山下耕作監督の「博奕打ち 総長賭博」などの極めつけの名作を生んだ「東映ヤクザ映画」だが、同時代には「暴力礼賛」の低俗映画とされてベストテンなどでも無視されていた。
映画は西部(アリゾナ州の設定)のとある駅に始まる。3人の殺し屋がねらう通称「ハーモニカ」(チャールズ・ブロンソンが素晴らしくカッコいい)。その後、農場で新しい妻を待つマクベイン一家が映し出される。そこに何者かが現れ襲撃してくるが、それは誰で理由は何か。マクベインの新妻は、ニューオーリンズで知り合った高級娼婦のジル(クラウディア・カルディナーレ)。ジルが列車から降り立つシーンは忘れがたい。すでに結婚していて未亡人となったジルを、今度は男たちが付け狙う。襲撃事件は大陸横断鉄道を早く作りたい鉄道王と、手下の殺し屋フランク(ヘンリー・フォンダ)の仕業だった。
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その構図は早くから明らかにされるので書いたけど、その後の長い長い経過は書かないことにする。絵がキレイで、俳優が見事。そこに例によってエンニオ・モリコーネの素晴らしい音楽が流れる。セリフもキレがあり、長さは感じない。西部の終焉をうたいあげる壮大な叙事詩で、見終わったらまた見たくなる。そんな映画である。ヘンリー・フォンダが悪役を演じるのは珍しいが、さすがの存在感を発揮している。それでもブロンソンのかっこよさには負けてるかもしれない。クラウディア・カルディナーレはキャスト最上位にクレジットされている。ほぼ出ずっぱりの主演と言ってよい。「山猫」などヴィスコンティのアート映画の印象が強くなってしまったが、これこそカルディナーレだなと思った。
ジルは事件を知らずに馬車で農場へ向かうが、そのシーンは明らかにモニュメント・ヴァレーでロケしてる。しかし「マカロニ・ウエスタン」なんだから、ほとんどのシーンはスペインなどに作られたオープンセットと、ローマのチネチッタに作られたセットで撮影されたという話。でも見ている側は、これが西部だという気持ちで見ることができる。映画ができる経緯については、各種の情報で見られるが、レオーネは原案作成に若きベルナルド・ベルトルッチとダリオ・アルジェントに協力を求めたと出ている。
ちょうど10年前の1958年に作られたウィリアム・ワイラーの「大いなる西部」の正統的名作から、すでに大きく違う。ほぼ同時に作られたサム・ペキンパーの「ワイルドバンチ」ともかなり違う。今見ると「マカロニ・ウエスタン」(アメリカでは「スパゲッティ・ウエスタン」)ならではの作品世界だ。公開当時は「暴力性」を取り沙汰されたレオーネ映画だが、今見ると詩情あふれる世界に見入ってしまう。