是枝裕和監督の新作映画「真実」(La vérité)が公開されている。前作「万引き家族」はカンヌ映画祭パルムドールを受賞して大ヒットした。次の作品が注目されたわけだが、それがカトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュが母娘を演じるフランス映画だと発表された時は驚いた。世界的大スターが出演するということで、日本では吹替版まで作って、シネコンで全国公開した。しかし、あまりヒットしてないようだ。こういう映画を見に行く人は、ドヌーヴの声を聞きたいに決まってる。僕が見たところ、この映画は十分に面白い「フランス映画」だ。東京だったら渋谷Bunkamuraのようなところでやる映画。
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基本的なストーリーはかなり報道されているが、映画館のページからコピーしておくと…、国民的大女優ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)が自伝本【真実】を出版。アメリカで脚本家として活躍する娘のリュミール(ジュリエット・ビノシュ)、テレビ俳優の娘婿ハンク(イーサン・ホーク)、ふたりの娘のシャルロット、ファビエンヌの現在のパートナーと元夫、そして長年の秘書……お祝いと称して、集まった家族の気がかりはただ1つ。「一体彼女はなにを綴ったのか?」…。
「ファビエンヌ」はカトリーヌ・ドヌーヴのミドルネームである。本人との話し合いで役名を決めたという。映画の中には「サラ」という名前が登場する。若い頃はライバルと言われ、若くして死んだ。娘のリュミールは「サラおばさんの方が優しかった」という。どうしても交通事故死した姉のフランソワーズ・ドルレアックを思い出してしまう。「ロシュフォールの恋人たち」では姉妹共演し、トリュフォー映画ではカトリーヌより早く「柔らかい肌」で主演した。若い頃から人気、演技力、スキャンダルともに妹のカトリーヌの方が知られていた。だからドヌーヴが実際に姉に嫉妬していたわけではないと思うが、若いときに非業の死を迎えた肉親を忘れたことはないだろう。
ファビエンヌは今も映画を撮影している。それはSF映画で、セリフが少ないと若い監督に言われてOKしたけど、その後せっかくだからセリフを増やすと言われた。撮影所に来てセリフを覚えているが、実際にそうなんだという。(ジュリエット・ビノシュは反対に何週間も前からセリフを覚えて役作りをするという。是枝監督が前日にセリフを変更するので、最後は諦めたらしいが。)宇宙では年を取らない設定で、母親は難病で宇宙に出かけ数年にいっぺん戻ってくる。地球では娘のファビエンヌが70歳になったが、宇宙の母の方は若々しい。そんな設定で、映画作りの内幕的な面白さもある。実際のドヌーヴの人生を背景に、役としてのファビエンヌ、映画内映画の母娘の逆転関係と「三重の仕掛け」で人生を考える。
(ヴェネツィア映画祭で)
母と娘の感情のぶつけ合いという映画では、ベルイマンの「秋のソナタ」が代表作だろう。世界的ピアニストの母をイングリッド・バーグマン、母に見捨てられたと感じて育った娘にリヴ・ウルマンという配役で、傑作だけど寒々しい映画だった。バーグマンとドヌーヴはいずれ劣らぬ映画史に輝く美人女優。老いてなお、存在感の大きさに圧倒される。だが是枝映画は、やはりベルイマンと違って、「軽み」が持ち味だ。「誰も知らない」や「万引き家族」のような社会的テーマは前面に出た作風ではない。「奇跡」や「歩いても歩いても」のように家族を温かくも冷静に見つめた映画だった。
娘のリュミールが脚本家だという設定が生きている。「真実」という本(そして映画の題名)だが、母の書いた本に「真実」はないという娘は詰め寄る。だが「真実」とは何なのか。母との衝突と和解をめぐる二人のありようは、人生はどこまで演技なのかという疑いを呼び起こす。人生はお芝居、人間はみな役者という観点で見れば、フランスの大女優の話だけどすべての人に通じる物語だと思う。そして子役のシャルロットが素晴らしい。今までも子役の素晴らしさが印象的だったが、フランスで撮っても是枝映画だった。娘の夫役のイーサン・ホークもいい。夫と娘のシャルロットがいて、大女優二人の演技合戦が生きる。撮影や音楽も素晴らしかった。クレジットのシーンに流れるドヌーヴも素晴らしいから、最後まで席を立たないこと。確かに「万引き家族」の方が上だと思うけど、僕は十分に満足。
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基本的なストーリーはかなり報道されているが、映画館のページからコピーしておくと…、国民的大女優ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)が自伝本【真実】を出版。アメリカで脚本家として活躍する娘のリュミール(ジュリエット・ビノシュ)、テレビ俳優の娘婿ハンク(イーサン・ホーク)、ふたりの娘のシャルロット、ファビエンヌの現在のパートナーと元夫、そして長年の秘書……お祝いと称して、集まった家族の気がかりはただ1つ。「一体彼女はなにを綴ったのか?」…。
「ファビエンヌ」はカトリーヌ・ドヌーヴのミドルネームである。本人との話し合いで役名を決めたという。映画の中には「サラ」という名前が登場する。若い頃はライバルと言われ、若くして死んだ。娘のリュミールは「サラおばさんの方が優しかった」という。どうしても交通事故死した姉のフランソワーズ・ドルレアックを思い出してしまう。「ロシュフォールの恋人たち」では姉妹共演し、トリュフォー映画ではカトリーヌより早く「柔らかい肌」で主演した。若い頃から人気、演技力、スキャンダルともに妹のカトリーヌの方が知られていた。だからドヌーヴが実際に姉に嫉妬していたわけではないと思うが、若いときに非業の死を迎えた肉親を忘れたことはないだろう。
ファビエンヌは今も映画を撮影している。それはSF映画で、セリフが少ないと若い監督に言われてOKしたけど、その後せっかくだからセリフを増やすと言われた。撮影所に来てセリフを覚えているが、実際にそうなんだという。(ジュリエット・ビノシュは反対に何週間も前からセリフを覚えて役作りをするという。是枝監督が前日にセリフを変更するので、最後は諦めたらしいが。)宇宙では年を取らない設定で、母親は難病で宇宙に出かけ数年にいっぺん戻ってくる。地球では娘のファビエンヌが70歳になったが、宇宙の母の方は若々しい。そんな設定で、映画作りの内幕的な面白さもある。実際のドヌーヴの人生を背景に、役としてのファビエンヌ、映画内映画の母娘の逆転関係と「三重の仕掛け」で人生を考える。
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母と娘の感情のぶつけ合いという映画では、ベルイマンの「秋のソナタ」が代表作だろう。世界的ピアニストの母をイングリッド・バーグマン、母に見捨てられたと感じて育った娘にリヴ・ウルマンという配役で、傑作だけど寒々しい映画だった。バーグマンとドヌーヴはいずれ劣らぬ映画史に輝く美人女優。老いてなお、存在感の大きさに圧倒される。だが是枝映画は、やはりベルイマンと違って、「軽み」が持ち味だ。「誰も知らない」や「万引き家族」のような社会的テーマは前面に出た作風ではない。「奇跡」や「歩いても歩いても」のように家族を温かくも冷静に見つめた映画だった。
娘のリュミールが脚本家だという設定が生きている。「真実」という本(そして映画の題名)だが、母の書いた本に「真実」はないという娘は詰め寄る。だが「真実」とは何なのか。母との衝突と和解をめぐる二人のありようは、人生はどこまで演技なのかという疑いを呼び起こす。人生はお芝居、人間はみな役者という観点で見れば、フランスの大女優の話だけどすべての人に通じる物語だと思う。そして子役のシャルロットが素晴らしい。今までも子役の素晴らしさが印象的だったが、フランスで撮っても是枝映画だった。娘の夫役のイーサン・ホークもいい。夫と娘のシャルロットがいて、大女優二人の演技合戦が生きる。撮影や音楽も素晴らしかった。クレジットのシーンに流れるドヌーヴも素晴らしいから、最後まで席を立たないこと。確かに「万引き家族」の方が上だと思うけど、僕は十分に満足。