尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

卒業式を奪ってはならないーコロナウイルス問題

2020年02月29日 23時47分01秒 |  〃 (教育問題一般)
 2月29日に安倍首相が記者会見を行い、「新型コロナウイルスの感染拡大防止のための小中学校などの臨時休校要請について「大変な負担をかける」と述べつつも、「集団感染のような事態を起こしてならない」と理解を求めた。保護者の休職に伴う所得減少に対応する新たな助成金制度なども表明した。」この会見はリアルタイムで少し聞いてたが、今になってこんなことを言うのではなく、せめて26日に、あるいは27日にでも言うべきだった。果たして現実に使える助成金制度が作れるのだろうか。

 会見を見て思ったのは「感染症予防における学校閉鎖の意義」を全然判ってない。それはまた別に考えたいが、今は3つのことを書きたい。まず「給食」の問題。休校で消えてしまう給食は9千万食にのぼるという。給食は地域の業者の納入が多いので、地域経済への影響も心配だ。給食は生徒のためのものなので、休校期間中には給食は作られない。しかし教職員は休暇じゃないから学校にいる。昼食をどうすればいいんだろう。給食費はもう3月分を納めているはずだから、返金の事務手続きも大変だ。むしろ「学校で子ども食堂を開いて欲しい」と思う。

 次に「学年評価」の問題。高校では卒業予定者の成績は付け終わっていると思う。(一部の三部制高校では卒業生も3月の学年末考査が終わってから成績を付けて、卒業判定を行う。そのような例外もある。)しかし、多くの生徒はこれから学年末考査があったはずだ。地域によって時期が違うようだが、都教委は「3月2日以降の学年末考査は実施せず、2学期までの評定等を総合的に評価」という方針を出した。それはそれで理解出来るのだが、最後のテストにかけて頑張っていた生徒はどうなるんだ。その後の行事に向けて頑張っていた生徒はどうなるんだ。

 いや頑張っている生徒ばかりじゃないし、感染リスクを心配する生徒もいるだろう。しかし、未だに一人の感染者もいない県であっても、全小中高特別支援学校がすべて一斉に休校しないといけないのか。それでも休校すると言うのなら、頑張る生徒への評価アップ手段を検討するべきだ。いろいろと出来るはず。課題図書やプリントを学校ホームページに示して、小論文をメールで提出するとか。まあ郵送でもいいし、一回ぐらい提出に来てもいいんじゃないか。

 そして最後に「卒業式をどうするか」。28日に登校したら、その日に突然卒業式になってしまった学校もあるという。保護者にも事前に伝えられないままでは、あんまりだ。生徒の方も心の余裕もないまま、急にもう終わりというのでは「卒業式を奪われた」という感じになってしまうのではないか。僕は生徒や保護者から「卒業式を奪わないで欲しい」と強く思う。卒業式なんかどうでもいいと言えば、どうでもいいとは思う。あらゆる儀式全部が僕はあまり好きではない。出ないでいいもの(成人式など)は行ってない。しかし、世のほとんどの生徒には卒業式が必要だと思う。
(突然の卒業式になった愛知県の大口中)
 安倍首相は親を受け継いで山口県下関市周辺の選挙区から出ているが、本人はずっと東京在住で小学校から大学まで同じ私立学校に通学した。地域の中学校を卒業する意味地元の高校を卒業する意味が、本当の意味では判らないのではないか。今は中等教育の一貫校も多いが、ほとんどの子どもは地元の中学校に通って、卒業で地域を離れて電車やバスで通学する。中にはむしろ高校の方が家から近いケースもあるだろうが、そういう人は数少ない。それでも高校は自宅から通うだろう。しかし、高校を卒業すれば、進学または就職で家を離れて地元を離れる生徒も多い
(突然卒業式になった松本市清水中)
 親にとっても中学卒業、高校卒業が一つの節目だし、是非参列したい人が多いはず。子どもの卒業式に休暇を取れない会社はないだろう。もちろんコロナウイルスへの心配もあるだろうし、教員や生徒から感染者が出ていたら中止でもやむを得ないと思う。しかし、ほとんどの学校ではそんなことはないはずだ。「卒業式」は形はいろいろと考えていいと思うが、いわゆる「冠婚葬祭」は人間社会に有用だ。「子ども」から「大人」になる「イニシエーション」は現代社会においては、進路活動卒業式が担っている。それなりの卒業式を実施することは大人の義務とも言えるのではないだろうか。

 しかし年にもよるが、卒業式は寒い。卒業式に感染リスクがあるとすれば、長い時間寒い中でガマンさせられるということだと思う。これも地域差があるかもしれないが、東京では高校は3月初旬、中学は3月20日前後、小学校は次の週辺りが多いと思う。学校の体育館は冷暖房がなく、どうしても寒いのである。だから新型コロナウイルスやインフルエンザを別にしても、健康不安を抱える生徒には不安である。暖房器具を総動員したりするが、広いからそれほど効かないと思う。では、どうするか。卒業式を最短にするにはどうすればいいのか。今考えるべきはその事だと思う。

 ①式辞は最小限にする。(校長式辞も放送でクラスで聞かせればいいと思う。)
 ②歌も最小限にする。(文科省は国歌斉唱は不要と通知するべきだ。)
 ③学校規模によるが、卒業生全員に校長が授与する必要はない。代表授与にする。
 ④面倒くさい礼儀指導はやめる。

 どうしても必要なのは、「卒業生呼名」と「送辞」「答辞」だ。「校歌斉唱」も二度と歌わないんだから、あってもいいと思うけど歌をどうするかは学校判断に任せればいい。生徒の希望もあるだろうし。歌いたくない生徒、感染が心配な生徒はマスク着用を容認すればいい。仲間同士で連絡してファミレスに集まるなんて今じゃすぐ出来る。連れだって学校に遊びに来ることも出来る。でもクラスメイト全員で集まることは二度とない。一生会わない人もいる。いつも迷惑をかけていた生徒が号泣して先生に感謝する姿。おとなしめの生徒が大きな声で呼名に返事をする姿。そういう意外な人間像に接するのが卒業式であって、その教育的意義は大きい。

 昔2012年に卒業式に関して、何回か記事を書いたことがある。以下を参照。
卒業証書の作り方ー卒業式①」(2012.3.18)
『謝恩』の日-卒業式②」(2012.3.19)
卒業式の時期と大阪のある卒業式ー卒業式③」(2012.3.19)
卒業生を出すということー卒業式④」(2012.3.22)
記念品は岩波文庫だったー卒業式⑤」(2012.3.25)
卒業式と歌ー卒業式⑥」(2012.3.26)
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