尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「ドン・キホーテ」と「ジョジョ・ラビット」

2020年02月11日 23時32分43秒 |  〃  (新作外国映画)
 「マリッジ・ストーリー」について書いたから、ついでに主演俳優のアダム・ドライヴァースカーレット・ヨハンソンの新作についても書いておきたい。まずはアダム・ドライヴァーの方で、「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」(The Man Who Killed Don Quixote)がついに完成して日本でも公開された。「未来世紀ブラジル」や「12モンキーズ」の監督テリー・ギリアムはここ何十年もドン・キホーテに取り憑かれてきた。とても面白かったけど一般受けは難しいだろう。見たい人は早めに見た方がいいと思う。

 何しろテリー・ギリアムの「ドン・キホーテ」と言えば、ここ何十年も製作中止が相次ぎ(9回ということだ)、映画史上「最も呪われた映画」と言われていた。当初はジョニー・デップが出演するはずで、メイキング映画の方が「ロスト・イン・ラ・マンチャ」(2002)として先に出来たぐらい。かつてオーソン・ウェルズも映画化を前に亡くなり、僕は結局「ドン・キホーテ」の映画化とは「The Impossible Dream」(見果てぬ夢=ドン・キホーテのミュージカル化「ラマンチャの男」のテーマソング)になるんだと思っていた。
(テリー・ギリアム監督)
 冒頭でドン・キホーテがサンチョ・パンサを振り切って風車に突進するから、これは本格的な映画なのかと思うと、すぐにカメラが引いて撮影シーンだと判る。それもCMらしい。監督のトビー(アダム・ドライヴァー)は10年前に近くの村で「ドン・キホーテを殺した男」という自主映画を卒業制作で撮ったことがある。謎の男からDVDを貰って、翌日訪れてみると…。ドン・キホーテ役を頼んだ靴職人は、その後自分は本当のドン・キホーテと思い込んじゃったらしい。ドルシネア姫役の酒場の娘は自分もスターになれると信じてマドリッドに行ってしまったという。フィクションが村人の運命を変えてしまったのだ。

 そこから夢と現実が渾然一体となった迷宮のような世界が続いてゆく。トビーは村で火事を起こして警察に追われ、ドン・キホーテ(と思い込んだ男)に救われる。サンチョ・パンサと間違われ同行するが、行くところ行くところで騒動が起きる。大昔の夢の中にいるかと思うと、そこはムスリムの不法移民の村でテロの心配もする。ボスやボスの妻とのイザコザ、ロシア人富豪に囲われたアンジェリカ(昔の映画のドルシネア)をいかに救うか。結局、人間はジタバタしながらも幻の巨人に立ち向かっていく大切さを感じる。夢かうつつか、決して判りやすい映画じゃないけど、壮大な映像が美しい。

 一方、スカーレット・ヨハンソンがアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた「ジョジョ・ラビット」。ナチスドイツに生きる少年を描くが、英語で作られたエンタメ作品。すべてを「子ども目線」で描くところに新味があるが、初めからリアリティは無視されている。ジョジョはヒトラーを崇拝する少年だが、ヒトラー・ユーゲントのキャンプでウサギを殺せずに「ラビット」(弱虫)とあだ名される。そんなジョジョの脳内にはことあるたびにヒトラーが現れアドバイスしてくれる。

 しかし、家の中に謎の音がすることに気付き、探してみると少女が隠れていた。母(スカーレット・ヨハンソン)は実は反ナチスで密かにユダヤ人を匿っているらしい。本当は密告するべきなんだけど、ジョジョはそれも出来ず悩みながら少女と仲良くなってしまう。ある日、母親が帰らず、その日から二人暮らしになってしまう。この映画は映画的魅力からすると、他のアカデミー作品賞候補作品に比べて弱い。「子ども目線」の功罪だろう。英語で作っていることもあり、臨場感が薄くなるのはやむを得ない。

 アカデミー賞ではタイカ・ワイティティが脚色賞を獲得した。この映画の監督でもあり、上の写真で空想上のヒトラーに扮している俳優でもある。元々ニュージーランド出身で、父がマオリ人、母がロシア系ユダヤ人だという。ニュージーランドで演劇を学び、喜劇役者として活躍。短編映画を作ってアカデミー賞にノミネートされ、長編映画がサンダンス映画祭で認められる。そんなルートでハリウッドで商業映画を撮れるようになっていった。ニュージーランドだから元々英語だけど、その文化的背景は複雑で注目すべき才能が現れてきたものだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする