獅子文六の小説を読みふけっている間に、新型コロナウイルス問題が拡大し続けた。その間にも神田伯山襲名披露や桂文珍独演会に行ったりして映画の話を書いてない。この間も新作映画を少しは見ているので、「第一次世界大戦」を題材にするという共通点を持つ2本の映画をまとめて取り上げたい。どっちもかつてない映画を見たという感想を持つ映画だ。ただ楽しんで見られるという映画じゃないけれど、内容的にも技術的にも非常に貴重な達成である。
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「1917 命をかけた伝令」はイギリス兵2人のある任務を「ワンカット」(風)で撮影している。監督は「アメリカン・ビューティ-」(アカデミー賞作品賞、監督賞など5部門受賞)、「ロード・トゥ・パーディション」などのサム・メンデス。監督の祖父から聞いた話が基になっているという。1917年4月6日の西部戦線。ドイツ軍と戦うイギリス軍は塹壕を掘って持久戦を強いられている。ドイツ軍が後退したのを見て一部の連隊が総攻撃を計画している。しかし航空機偵察によってドイツ軍後退は罠であることが判ったが、連絡手段が途絶えてしまった。そこで2人の兵士に伝令の命令が下る。
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トム・ブレイクは兄が攻撃部隊にいるので早く伝えたい。ウィリアム・スコフィールドはドイツ軍のど真ん中を突破するのは危険だから夜まで待とうというが、トムは聞かない。そこで決死の思いで戦場を通り過ぎてゆくのだが、この塹壕のオープンセットが超リアル。次々と襲いかかる危険をカメラはずっと追い続ける。「ワンカット」映画は今までにもあるが、どうも技法のための技法感が強かった。今回はとにかく動き続ける主人公をカット割りして整然と見せる方が不自然で、違和感は少ない。しかし主人公の密着ドキュメントという感じで、これでいいのかという気も起こってくる。
果たして2人は任務を達成できるのか。驚くような展開が連続するが、この映画では主人公密着度が高いから他のことを考えなくなる。迫力がある割に、戦争や人間について深く考えさせられたといった思いが残らない気がした。ゴールデングローブ賞では作品賞、監督賞を受賞し、アカデミー賞でも10部門にノミネートされ、撮影賞、録音賞、視覚効果賞を受賞した。撮影のロジャー・ディーキンスは「ショーシャンクの空に」「ファーゴ」「ノーカントリー」など13回もノミネートされ、2017年に「ブレードランナー2049」で初受賞した。コーエン兄弟の作品が多い。
一方さらに驚くべき映画が「彼らは生きていた」(They Shall Not Grow Old)である。こちらは記録映画なのである。イギリスの帝国戦争博物館に保管されていた映像を編集したものだが、何と着色してある。第一次大戦当時に映画はあったわけで、チャップリンの初期短編は戦争中に製作されている。しかし、もちろんそれらは白黒の無声映画で、チャップリンやキートンなどは後に音楽を入れて上映された。しかし多くのニュース映画などは撮影されたまま、歴史映像として時々使われるだけだった。第一次大戦終結100年を機に、ピーター・ジャクソン監督が依頼され驚くべき映像世界が再構成された。
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ピーター・ジャクソンは「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズで世界に知られるが、出身はニュージーランドである。祖父が戦争に従軍したといい、この映画は祖父に捧げられている。当時のフィルムは速度もバラバラで、まずそれを調整し、効果音などを加える。退役軍人のインタビューが残されていて、その音声を再構成する。訓練中は白黒なんだけど、戦場シーンになるとカラーになって塹壕戦がいやにリアルによみがえった。こんな映画体験は今までにないもので、かつてない戦争映画である。
塹壕戦というのは、言葉ではもちろん知っていたが初めて実感できた気がする。寝る場所もなく、食事も貧困、トイレもひどい。とにかく非常に困難な環境の下で戦っていた。彼らはほとんどが10代の若者で、時には本来は志願兵の対象にならない18歳未満も多かった。申告でウソを言えば、体の大きな男子は兵士になれた。志願しないと臆病者と非難され、兵士は苦しい訓練を乗り越えて戦場へ向かった。そこではもう日々の苦しさになれてしまうしかない。人間性を忘れ残虐にならないと生きていけない。しかしドイツ兵が捕虜になると、人間的な触れあいも生まれる。死地を生き延びて故郷に生還すると、今度は理解されず失業者になった。
第一次世界大戦は日本も参戦したものの、火事場泥棒的にドイツ支配下の山東半島や南洋諸島を奪っただけだったから印象が薄い。しかし欧米にとっては決定的に歴史を変えた戦争として今も大きな意味を持っている。1917年のロシア革命を別にしても、ずいぶん多くの映画になっている。当たり前だが戦前に作られた戦争映画は第一次大戦が題材になっている。「西部戦線異状なし」や「大いなる幻想」などが有名。ヘミングウェイの「武器よさらば」は、日本では検閲で「戦場よさらば」に変更させられた。戦後の映画ではドルトン・トランボ「ジョニーは戦場に行った」がある。「アラビアのロレンス」や「エデンの東」も忘れられない。
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「1917 命をかけた伝令」はイギリス兵2人のある任務を「ワンカット」(風)で撮影している。監督は「アメリカン・ビューティ-」(アカデミー賞作品賞、監督賞など5部門受賞)、「ロード・トゥ・パーディション」などのサム・メンデス。監督の祖父から聞いた話が基になっているという。1917年4月6日の西部戦線。ドイツ軍と戦うイギリス軍は塹壕を掘って持久戦を強いられている。ドイツ軍が後退したのを見て一部の連隊が総攻撃を計画している。しかし航空機偵察によってドイツ軍後退は罠であることが判ったが、連絡手段が途絶えてしまった。そこで2人の兵士に伝令の命令が下る。
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トム・ブレイクは兄が攻撃部隊にいるので早く伝えたい。ウィリアム・スコフィールドはドイツ軍のど真ん中を突破するのは危険だから夜まで待とうというが、トムは聞かない。そこで決死の思いで戦場を通り過ぎてゆくのだが、この塹壕のオープンセットが超リアル。次々と襲いかかる危険をカメラはずっと追い続ける。「ワンカット」映画は今までにもあるが、どうも技法のための技法感が強かった。今回はとにかく動き続ける主人公をカット割りして整然と見せる方が不自然で、違和感は少ない。しかし主人公の密着ドキュメントという感じで、これでいいのかという気も起こってくる。
果たして2人は任務を達成できるのか。驚くような展開が連続するが、この映画では主人公密着度が高いから他のことを考えなくなる。迫力がある割に、戦争や人間について深く考えさせられたといった思いが残らない気がした。ゴールデングローブ賞では作品賞、監督賞を受賞し、アカデミー賞でも10部門にノミネートされ、撮影賞、録音賞、視覚効果賞を受賞した。撮影のロジャー・ディーキンスは「ショーシャンクの空に」「ファーゴ」「ノーカントリー」など13回もノミネートされ、2017年に「ブレードランナー2049」で初受賞した。コーエン兄弟の作品が多い。
一方さらに驚くべき映画が「彼らは生きていた」(They Shall Not Grow Old)である。こちらは記録映画なのである。イギリスの帝国戦争博物館に保管されていた映像を編集したものだが、何と着色してある。第一次大戦当時に映画はあったわけで、チャップリンの初期短編は戦争中に製作されている。しかし、もちろんそれらは白黒の無声映画で、チャップリンやキートンなどは後に音楽を入れて上映された。しかし多くのニュース映画などは撮影されたまま、歴史映像として時々使われるだけだった。第一次大戦終結100年を機に、ピーター・ジャクソン監督が依頼され驚くべき映像世界が再構成された。
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ピーター・ジャクソンは「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズで世界に知られるが、出身はニュージーランドである。祖父が戦争に従軍したといい、この映画は祖父に捧げられている。当時のフィルムは速度もバラバラで、まずそれを調整し、効果音などを加える。退役軍人のインタビューが残されていて、その音声を再構成する。訓練中は白黒なんだけど、戦場シーンになるとカラーになって塹壕戦がいやにリアルによみがえった。こんな映画体験は今までにないもので、かつてない戦争映画である。
塹壕戦というのは、言葉ではもちろん知っていたが初めて実感できた気がする。寝る場所もなく、食事も貧困、トイレもひどい。とにかく非常に困難な環境の下で戦っていた。彼らはほとんどが10代の若者で、時には本来は志願兵の対象にならない18歳未満も多かった。申告でウソを言えば、体の大きな男子は兵士になれた。志願しないと臆病者と非難され、兵士は苦しい訓練を乗り越えて戦場へ向かった。そこではもう日々の苦しさになれてしまうしかない。人間性を忘れ残虐にならないと生きていけない。しかしドイツ兵が捕虜になると、人間的な触れあいも生まれる。死地を生き延びて故郷に生還すると、今度は理解されず失業者になった。
第一次世界大戦は日本も参戦したものの、火事場泥棒的にドイツ支配下の山東半島や南洋諸島を奪っただけだったから印象が薄い。しかし欧米にとっては決定的に歴史を変えた戦争として今も大きな意味を持っている。1917年のロシア革命を別にしても、ずいぶん多くの映画になっている。当たり前だが戦前に作られた戦争映画は第一次大戦が題材になっている。「西部戦線異状なし」や「大いなる幻想」などが有名。ヘミングウェイの「武器よさらば」は、日本では検閲で「戦場よさらば」に変更させられた。戦後の映画ではドルトン・トランボ「ジョニーは戦場に行った」がある。「アラビアのロレンス」や「エデンの東」も忘れられない。