尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

3D中国映画「ロングデイズ・ジャーニー この世の涯てへ」

2020年03月18日 20時43分03秒 |  〃  (新作外国映画)
 ビー・ガン監督の「ロングデイズ・ジャーニー この世の涯てへ」という映画が上映されている。とても不思議な感覚で作られた映画で、一種の「奇作」「怪作」と言えないこともない。何しろ世界映画史上初めての「途中からの3D映画」なのである。冒頭に案内があり、映画の途中で主人公がある合図をしたら観客も3Dメガネを掛けるようにと出てくる。それまでも夢幻の世界みたいだが、特に後半3Dシーンは60本ノーカットの夢魔としか思えない見応えある映像になっている。

 監督のビー・ガンは1989年に中国・貴州省凱里で生まれた。短編で認められ、2015年に自主製作した「凱里ブルース」(2020年4月公開予定)がロカルノ映画祭、ナント三大陸映画祭などで高く評価された。長編第2作の今作「地球最后的夜晩」(原題)はカンヌ映画祭「ある視点」部門で上映されたほか、世界各地の映画祭で評価され、本国では公開初日で41億円の大ヒットを記録したという。中国でもアート系映画がヒットするようになっているのである。
(ビー・ガン監督)
 経済発展が背景にあるんだろうが、中華圏でも「ジャンル小説」「ジャンル映画」が多くなっている。ミステリーやSFで世界的に注目される作品が現れるようになったのである。映画でもちょっと前の巨匠は「国民的物語」を語っていたが、最近の注目される映画には「ノワール映画」が多い印象がある。「ロングデイズ・ジャーニー」も同様に「ノワール仕立て」とでもいう作風だが、ストーリーはよく判らない。

 ホームページからコピーすると、「ルオ・ホンウは、何年もの間距離を置いてきた故郷・凱里へ、父の死を機に帰還する。そこでは幼馴染 白猫の死を思い起こすと同時に、彼の心をずっと捉えて離れることのなかった、ある女のイメージが付き纏った。彼女は自分の名前を、香港の有名女優と同じワン・チーウェンだと言った。ルオはその女の面影を追って、現実と記憶と夢が交錯するミステリアスな旅に出る... 。」と出ている。まあ言われてみればそういう感じで、「幻の女」を求めるミステリーである。

 特に後半の3Dシーンはまさに「夢世界」であって、リクツで考えては理解出来ない独自のイメージの連続。ほとんど「ブレードランナー」が現実化したような夢幻の町(地下世界)を主人公はさまよい続ける。ノスタルジックな映像や音楽に浸りながら、細かなストーリーはどうでもよくなって映像に没頭する。世界各地で熱狂する人がいるのも無理はない。この映画をヒッチコック「めまい」やタルコフスキー「ストーカー」と並べて語る人もいるというが、それもなるほどと思わせる。

 「夢」というものは不思議なもので、誰もが思い当たるだろうけど、「決してたどり着かない」という特徴がある。どこかに紛れ込み、思い出が錯綜し続け、どんどん脱線していくが、夢の中では急いでいるのに必ず落とし穴にはまる。今度の映画でも、不思議な卓球少年とか、ビリヤードの女など途中に「関所」が続々と現れる。2D上映もあるんだけれど、3Dで見られるなら一度は体験する意味もあると思う。世界映画史に残る不思議な映画だと思う。予算面もあるから、ゴダールみたいな巨匠は別にして、アート系の3D映画は珍しい。今後も「途中から3D」なんて映画を作る監督は出て来ないだろう。
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