低予算で王朝ものを作る、という相当ムリな挑戦をどう実相寺昭雄監督以下のスタッフが実現したかという、かなり不純な興味で見る。
レンズにワセリンを塗って余分な空間をボカす技法は実相寺作品としてはこのあたりから始まった印象。CMを含めて正確なフィルモグラフィーがあれば照らし合わせてみたいが、とりあえず検索した中では見当たらず。
岸田森の阿闍梨が惚れた女の前で興奮して引きちぎって床に散らばった数珠の珠ひとつひとつに女にのしかかる姿が写るショット(たぶん元はヒッチコックの「見知らぬ乗客」の地面に落ちたメガネに写る殺人現場)をはじめ、実相寺らしいシャープなアングルの積み重ねを楽しむ。暗い屋内と外の光の対照も効果的。
元寇を絵巻物で済ませたのはいいとして、さすがに市場のセットなどは苦しい感じ。セットの外景がときどきまるっきりのっぺりしたホリゾンそのまんまというのもどんなものか。
脚本が詩人の大岡信なのだけれど、意識的にせよセリフがぶつかり合わず全体として半ばナレーションのように流れていく(当人の言によると「日本語のマチエールをもう少し堅牢なものにしようとした」とのこと)のに、絵物語のように映像がかぶさる印象。