画面を白くぼかしたりして白い闇を表現するカメラワークが、異様なくらい人物の実感に密着している。音響効果のセンスもすごい。
銃と食料と、おそろしくプリミティブな物を押さえた者がイコール権力を握る身も蓋もないリアリズム。にわか盲の国では生まれたときからの盲人の方が自由がきく分、権力のヒラエルキーの上に行くアイロニー。今更だが障害者といえどたいてい俗人に過ぎない。
唯一目が見える女性が、夫をはじめ収容者を助ける(というより波風を立てないようにする)ために見えないふりをしなくてはいけない、というあたりも怖い。
スティービー・ワンダーの真似が出てくるあたりの皮肉が強烈。
収容所の荒廃の実感がブラジル出身の監督の体質を思わせる。
木村佳乃が「おろち」に勝るすごい般若顔になるところあり。伊勢谷友介との日本人夫婦は、日本人だからどうというレッテル貼りから逃れて、いくつもある人種の一つになりおおせている。
バッハの平均律クラヴィーアが流れたり教会の像が目隠しされていたり、何より神の救いがまったく見えないあたりに、かえってはっきり宗教色が出ている気がする。
見たあとで原作者がマルクス主義者で無神論者であることを知る。白い闇というのは、神の恩寵=光があれば解決するという道を絶たれた世界とでもいった象徴か。
病気が蔓延する世界の緻密をきわめた描写と逆にそこから象徴性は、とうぜんカミュの「ペスト」を思わせる。
ジョン・ウィンダムの「トリフィドの日」も流星群を見た人々がみんな目が見えなくなる話だったけれど、あそこで三本の足を持って動ける植物(だから「トリ」フィド)の、その「三」という数字が、三位一体の三と関係あったのかなと思わせたりする。
(☆☆☆★★★)