川北稔編『イギリス史(上・下)』(山川出版社、2020年)を図書館で借りてきた。
最終頁に「『新版世界各国史第11 イギリス史』1998年4月 山川出版社刊」と書いてあり、同書との関係が分からないが、2019年の総選挙の記述などがあるから、たんなる新装版ではなさそう。いずれにしろ、知りたいのはホッブズ『リヴァイアサン』を読むための時代背景だから、1998年刊と2020年刊との間に大きな違いはないだろう。
ほかの部分は流し読みで済ませ、上巻の近世以降(チューダー朝からオレンジ公ウィリアムの名誉革命まで)をきちんと読んだ。
著者によれば、名誉革命の成果は、(1)「権利章典」によって議会と国王の抗争に決着をつけ立憲君主制を確立させるとともに、カトリックの君主による王位継承を否定したこと(議会主権)、(2)「寛容法」によってカトリック教徒と無神論者を除いて非国教徒の処罰が廃止されたこと(信仰の自由)、(3)農業の発展と貿易の振興によって経済発展を遂げたことの3点に集約される。
この時代のイギリス史は、じつは宗教「革命」(緩慢だったので「革命」と呼べるかはともかく)の歴史でもあった。スコットランドがイングランドに併合されて「グレート・ブリテン」となり、カトリックのアイルランドは植民地化された背景も宗教が大きな要因になった。アイルランドの背後にいたフランスとの覇権争いもあるが。
著者によれば、上記名誉革命の成果のうち(1)はあくまでイギリス固有の歴史的経験(議会と国王の抗争)の中から承認されたもので、自然権と社会契約論が普遍的な市民社会の原理となったのは、ロック『市民政府論』(『統治二論』)がアメリカ独立革命やフランス革命に受け継がれた結果であるという(上巻243頁)。
なお、ホッブズにも言及はあるが、あくまでジョン・ロックに先行して社会契約説を唱えた点に意義を認めるようで、国家主権の絶対性を唱えた点への言及はない。ホッブズが時代状況にどのような危惧感を抱いて、あのような主権の絶対性を唱えたのかを知りたかったのだが。
『リヴァイアサン』の第1部は「人間の本性」ではなく、第2部「コモンウェルス」で強大な国家主権をとなえることになったホッブズの本心を書いてほしかった。書いてあるのかもしれないが抽象的で、凡庸なぼくの能力では第1部の議論は読み取れない(まだ読んでないのだから、正確に言えば「読み取れなさそう」である)。パラパラ眺めた感じでは『法の原理』の第1部よりは整理されている印象だが。キリスト教を論じた第3部、第4部は(時代背景からすると、本当は重要なのだろうが)理解できないだろうから、はなからスルーするつもりでいる。
上の写真は図書館で借りてきた岩波文庫の『リヴァイアサン』全4冊のカバー
ホッブズ『リヴァイアサン』を読み始める前に、ロック、クロムウェルと、気が散ってしまった。
2021年7月15日 記