家から、ぶらりと歩いて、歌舞伎見物にいけるなんて最高。そんな日が年に一、二度ある。一昨日がそうだった。演目は是非、観たかった、”一本刀土俵入り”。そして、お蔦には猿之助、駒形茂兵衛に中車いう豪華版。それに舞台装置も楽しみだった。
この芝居、小村雪岱の関わりが深い。まず、原作が長谷川伸の戯曲。その装幀を担当したのが雪岱。
そして、歌舞伎座の舞台装置も雪岱が担当。今回の舞台もほとんど、雪岱版といっていいくらい。では、その雪岱舞台をつかって、思い出してみよう。
序幕第一場 取手の宿 安孫子屋の前
店の前では、この辺りのやくざの子分、弥七(猿四郎)が若い夫婦にいちゃもんつけて騒ぎ立てている。そこに、関取を夢みて、一旦はお払い箱になった江戸の相撲部屋に再入門しようと、通りかかる茂兵衛。弥七がこんどは茂兵衛にからむ。騒ぎに気付き、二階から顔を出す、酌婦のお蔦。そして、盃洗の水を弥七にかける。怒った弥七も、親分の惚れた女に手を出すわけにはいかない。茂兵衛をこづくが、一文なしで、腹ペコでふらふらしていても、相撲取り。頭突きでどすんと一発かます。弥七は腹を痛めてすごすごと引く。
舞台は茂兵衛とお蔦の二人だけになる。ぽつり、ぽつりと身の上話しがはじまる。身寄りはなく、いつか横綱になって、上州の、おっ母さんの墓前で晴れの土俵入りをしたいという茂兵衛。越中八尾の出、お蔦、しんみりして、おわら節をくちづさむ。そして、立ち去ろうとする茂兵衛に、ありったけの金と櫛、かんざしまで渡し、立派な相撲取りになっておくれよ、と励ます。おねいさんに頂いた恩は一生忘れません、と何度も何度もお辞儀をして立ち去る茂兵衛。
(三代目猿之助と七代目中村芝翫のとき)
途中は省いて、10年が経過する。大詰 お蔦の家
お蔦と小さな娘が荒れ果てた小屋に住んでいる。そこへ、いかさまをしてやくざに追われている旦那、辰三郎(市川門の助)が何年か振りに帰ってくる。ここを離れて、今度こそ一緒に暮らそうという辰三郎。そこに現れたのは、近くを通りかかり、お蔦を探していた股旅姿の茂兵衛だった。小屋から聞こえてくるおわら節に、お蔦の住む家だと知ったのだった。しかし、お蔦は茂兵衛を思い出すことができない。思い出さないで結構でござんす、むしろその方がありがたい、その時のお礼にと金包みを置いて帰っていく。
そこへ、追手がやって来る。しかし、駆け付けた茂兵衛がたちまち相撲の技で片付けてくれる。それをみて、あ、あのときの、と思いだすお蔦だった。早くお逃げなせい、あとは、わっしが見張っている、と送り出す。
何度も礼を言いながら立ち去るお蔦。
感慨深くつぶやく駒形茂兵衛。
これが十年前に櫛、かんざし、巾着ぐるみ意見をもらった姐さんにせめて見てもらう駒形の、しがねぇ姿の横綱の土俵入りでござんす。
。。。。。。
三波春夫の歌で感動をもう一度(爆)。今なら、島津亜矢の歌唱でききたい!
一本刀土俵入り
作詞:藤田まさと
作曲:春川一夫
千両万両 積んだとて
銭じゃ買えない 人ごころ
受けた情の 数々に
上州子鴉 泣いて居ります
泣いて居ります この通り
(セリフ)
わしゃア姐さんのようないい人に、
めぐり逢ったのは初めてだ、
はい、はい、きっと成ります。
横綱になった姿を姐さんに見て貰います。
そしてなア、わしゃ、死んだおっ母さんの
御墓の前で立派な土俵入りがしたい……。
野暮な浮世の うら表
教えこまれて 一昔
夢でござんす なにもかも
角力(すもう)修業も 今じゃ日蔭の
今じゃ日蔭の 三度笠
(せりふ)
角力にゃなれず、やくざになって
尋ねて見りゃこの始末。
さァ、姐さん、この金持って、
早くお行きなせえまし。飛ぶにぁ今が汐時だ。
後はあっしが 引受けました。
さァ、早く 早く 行きなさいまし。
ああ、もし、お蔦さん。
親子三人、何時までも 仲良く御暮しなさんせ。
十年前に 櫛、笄、巾着ぐるみ、
意見を貰った 姐はんへ、
せめて見て貰う駒形の
しがねぇ姿の 土俵入りでござんす。
御恩返しの 真似ごとは
取手(とって)宿場の 仁義沙汰
御覧下され お蔦さん
せめて茂兵衛の 花の手数(でず)入り
花の手数入り 土俵入り
猿之助のお蔦 女形もじょうず。おわら節もしんみり。おわら風の盆、また行きたくなってしまった。
中車の駒形茂兵衛 股旅姿も堂に入ってた。
大ホール三階席まで満席。さすが!