先日、”男はつらいよ/紫陽花の恋”の感想文を書いたが、その映画には、先代の片岡仁左衛門が京都の陶芸家の役で出演していた。11月の吉例顔見世大歌舞伎で、当代の仁左衛門が出ていて、昨晩の夢の中で、親爺のことを書いて、何故、俺のことを書かないノダと文句を言われたので、しぶしぶ(笑)、書き始めている。
演目は元禄忠臣蔵/御浜御殿綱豊卿。仁左衛門の役は、赤穂浪士の本懐を遂げさせてやりたいと、常々、思っているお殿様、徳川綱豊。一方、綱豊の愛妾、お喜世(梅枝)の兄、赤穂の浪人、富森助右衛門には、市川染五郎。8月に鎌倉で上演された”松浦の太鼓”では、染五郎は赤穂びいきの、吉良邸隣家のお殿様を演じている。そのときのお殿さまがとてもいい感じだったので、正反対の役をどう演じるか、楽しみにしていた。こちらも、なかなか良かったし、もちろん、仁左衛門のお殿様は貫録十分って感じ。昭和55年12月の初演以来、回数を重ねてきた当たり役とのこと。
二人は二幕三場、御浜御殿元の御座の間ではじめて顔を合わせる。お喜世を相手に盃を傾ける綱豊。そこに助右衛門がやってくる。綱豊が誘うも、敷居を越えようとしない。吉良の来訪が気になり、そわそわしている。綱豊は面白がり、自分に仕える気はないかとか、放蕩を重ねている大石を侮ったりで、助右衛門の反応をみて楽しんでいる。そして、ひと悶着あったあと、綱豊は、近衛関白家から浅野家再興の願いがきていることを明かす。しかし、それが叶えられれば、仇討はできなくなると言う。その言葉を聞き、助右衛門、はじめて敷居を越えて、必死の眼差しで綱豊を睨むのであった。心情を察した綱豊はその場を立ち去る。そのあと、吉良が来邸したことを、お喜世が伝える。殺気立つ助右衛門を心配したお喜世は、今宵の宴で、吉良が”望月”の能を演じることを告げ、自分が手引きをするからとなだめる。
そして、第四場、御浜御殿能舞台の背面。夜更けの、満開の桜の屋敷内に忍び込んだ助右衛門。そこへ、”望月”の後ジテの拵えをした人物が現れる。てっきり、吉良と思い、斬りつけるのだが、実は綱豊だった。一人で斬りつけるような助右衛門の不心得を厳しく諭して(大願成就するようにと)、その場を立つのだった。
配役
徳川綱豊卿 仁左衛門
富森助右衛門 染五郎
中臈お喜世 梅枝
中臈お古宇 宗之助
津久井九太夫 橘太郎
小谷甚内 松之助
上臈浦尾 竹三郎
御祐筆江島 時蔵
新井勘解由 左團次