おはようございます。
十二月大歌舞伎は三部制だが、第一部の新作歌舞伎、”あらしのよるに”を観てきた。絵本が原作というだけあって、ほのぼのと、また、しみじみとした情感に溢れた素晴らしい舞台であった。
現代絵本が歌舞伎の演目になるのは、これが初めてだそうだ。どういう物語かというと、本来は喰うか、喰われるかの間柄のオオカミとヤギが、嵐の夜に、真っ暗闇の小屋で出会い、話し合っているうちに、とても気が合ってしまう。また翌朝、会いたいと互いに想う。相手の姿が見えないので、合言葉を”あらしのよるに”と決める。翌朝、ヤギのめいが手土産に幸福草をもって待っていると、オオカミのガブもやはり幸福草を手に現れる。お互いの姿に一瞬、おどろくが、幸福草を交換してから、親しみを感じるようになる。楽しいデートの時間が過ぎていくと、突然、雷が。二人とも雷が大嫌い。洞窟に逃げ込むが、めいが足を滑らして怪我をしてしまう。こころやさしいガブは介抱してあげ、メイのことを”ともだち”と言う。ふたりがすっかり打ち解けて、再会を約束する。
と、ここまでが序幕。きむらゆういち作”あらしのよるに”では、第1巻である。はじめは、これで終わるつもりだったそうだが、出版社に次はいつ出るのかという問い合わせが相次ぎ、ついに第二巻が出て、また催促があり、結局、10年間で7巻+完結編の8冊の本が出版されたとのこと。歌舞伎では、全巻の物語となる。
絵本”あらしのよるに”。
絵本の歌舞伎化の発端が筋書に載っている。10年ほど前、NHK”テレビ絵本”の初回に、”あらしのよるに”が採用され、その朗読を担当したのが中村獅童だったのだそうだ。獅童はその頃から歌舞伎化を考えていたそうで、脚本家、今井豊茂の協力を得て完成した。自身がオオカミのガブを演じ、松也が恋人めいで、昨年、京都南座で初演。今回が二回目となる。今後も幾度となく上演され、きっと、獅童の当たり役になるのではないかと思う。
獅童のがぶと松也のめい
絵本のがぶとめい あべ弘士の画。以前、旭川動物園に務めていたとのこと。
友達だけどおいしそうと思うがぶと、血のにおいのするがぶを信じようとするめいの関係はつづいていくが、そのうち、それぞれの部族に知られることになる。そして、複雑な部族内の権力闘争などに巻き込まれながら、物語はすすむ。
がぶの父親である部族長をだまし討ちし、現在の長になっている狼ぎろ(中車)と、だまし討ちの証拠を握って、反撃する狼がい(権十郎)。
ぎろの子分、狼ばりい(猿也)とぎろに取り入る狼おばば(萬次郎)
めいの恋に理解を示す山羊みい姫(梅枝)
さて、いろいろあって。
最終盤、雪崩れで気を失うがぶとめい。目が醒めて、再会するふたり。がぶの様子が違う。おいしそうな獲物だと、迫ってくる。記憶喪失していたのだ。あわや、という瞬間。めいが発した言葉”あらしのよるに”に、がぶがぎくっと反応する。あらしのよるに、あらしのよるに・・・つぶやくがぶ。記憶は戻った・・・
”君の名は”も二度見してしまったが、これも二度見したい舞台だった。明日、千穐楽なので、次の上演を待つことにしよう。
では、みなさん、今日も一日、がぶとめいのように苦難を乗り越え、お元気で!