冒頭から私事で申し訳ありませんが、去年の暮れメールをくれた旧姓丸山君へ。パソコンがクラッシュしてしまったため、メールの返事を書けないでいます。もしこの文に気付かれたら再度のメールを待ってます。
さて、鶴田法男監督の'11年作品『王様ゲーム』をスカパーの東映チャンネルで見ました。王様からのメールが届くごとにクラスメートが世の中から抹消されていき、最後に主人公が残るという映画でしたが、画面が終始明るく、まったく怖くありませんでした。
また、宮田珠己さんが著書『はるか南の海のかなたに愉快な本の大陸がある』の中で紹介していた、中野美代子さんの'96年作品『奇景の図像学』を読みました。
宮田さんの文章をそのまま引用すると「(前略)(変な絵を見つけてくる才能は天下一品である)彼女の著作のなかでも、私が個人的に最高傑作だと思うのが、今回のイチ押し『奇景の図像学』(角川春樹事務所)である。未知の土地や幻想の空間、どこにもない場所などへの嗜好がぎゅっと詰まったエキゾチックな一冊だ。
本書はエドガー・アラン・ポオの『アルンハイムの地所』と『ランダーの別荘』の物語を視覚化した地図に関するエッセイから始まる。なんでも『アルンハイムの地所』を地図にすると、人間の消化器官そっくりになるのだそうだ。作中の登場人物エリソンが乗る舟は、肛門から直腸、大小腸、胃と遡って、脳へ到る。空想世界の地図に目のない私は、その話だけで引き込まれてしまった。
さらに清院本『清明上河図』という北宋時代の風景を描いた絵の中に、一戸だけ妙に西洋建築風の建物があると指摘、そんなあるはずのないものがなぜ描かれたのか考察したり、西洋の古地図の欄外に描かれた、グロテスクな人食い人種の絵を、ひとつひとつ取り上げて解説したかと思えば、グリーンランドは氷の島なのに、なぜ?グリーン?なのかとおちょくり、中国におけるセックスとぶらんこの関係について論じる。
そうやって縦横無尽に話題を広げながらも、内容は基本的に異世界の風景をめぐって展開していく。
『奇景の図像学』はつまるところ、古来、人はどのように異世界に心遊ばせてきたか、の具体例を列挙した見本市のような本なのだ。
なかでも私には、中国人の風景観に触れた「太湖石のある風景」「園林をつくる視線」という一連のエッセイが、個人的に印象深かった。
中国人はどういうわけか洞窟が好きだと中野は指摘する。中国の庭園へ行くと、太湖石という妙に穴ぼこだらけの石が置かれていることが多いが、それも洞窟好きが高じたものらしい。(中略)
まるで共感できないが、人間なんてどこへ行っても基本は同じだろうと思っていたのが、ほんの隣国であっても風景を見る感覚が全然違うというのは、私にはちょっとした驚きであった。派手なエッセイではないけれど、しみじみ世界は面白いと感じ入った次第である。
そんあわけで、世界をあくまで見た目から面白がる、中野美代子の視線に、私はすっかりハマっている。」
他にも奇妙な図版をいろいろと見ることができるのが本書の最大の魅力で、例えば、奇怪な現代アートのような小山の周りに子供の骸骨3人が立っている絵や、どろどろになって波打っているように見える岩々が連なっているように見える絵、太湖石にインスピレーションをを得て描いたように見える呉彬の数々の絵、ピエロ・ディ・コジモの絵『アンドロメダの解放』の中央部を占める怪物の絵(尾はサザエのようにくねくねと螺旋状となり、毛の生えた頭と、下顎から生える異常に長い2本の牙を持つ)、ミヒャエル・パッハーの絵『聖ヴォルフガングと悪魔』の悪魔(異常に細い四肢を持ち、尻に顔を持ち、頭からは鹿のような角を生やし、背中にはコウモリのような翼を持つ)などがそうでした。また中野さんの文献に関する知識の膨大さにも驚きました。
公共図書館でも借りられる本だと思いますので、気軽に読んでみたらいかがでしょうか?
→Nature LIfe(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)
さて、鶴田法男監督の'11年作品『王様ゲーム』をスカパーの東映チャンネルで見ました。王様からのメールが届くごとにクラスメートが世の中から抹消されていき、最後に主人公が残るという映画でしたが、画面が終始明るく、まったく怖くありませんでした。
また、宮田珠己さんが著書『はるか南の海のかなたに愉快な本の大陸がある』の中で紹介していた、中野美代子さんの'96年作品『奇景の図像学』を読みました。
宮田さんの文章をそのまま引用すると「(前略)(変な絵を見つけてくる才能は天下一品である)彼女の著作のなかでも、私が個人的に最高傑作だと思うのが、今回のイチ押し『奇景の図像学』(角川春樹事務所)である。未知の土地や幻想の空間、どこにもない場所などへの嗜好がぎゅっと詰まったエキゾチックな一冊だ。
本書はエドガー・アラン・ポオの『アルンハイムの地所』と『ランダーの別荘』の物語を視覚化した地図に関するエッセイから始まる。なんでも『アルンハイムの地所』を地図にすると、人間の消化器官そっくりになるのだそうだ。作中の登場人物エリソンが乗る舟は、肛門から直腸、大小腸、胃と遡って、脳へ到る。空想世界の地図に目のない私は、その話だけで引き込まれてしまった。
さらに清院本『清明上河図』という北宋時代の風景を描いた絵の中に、一戸だけ妙に西洋建築風の建物があると指摘、そんなあるはずのないものがなぜ描かれたのか考察したり、西洋の古地図の欄外に描かれた、グロテスクな人食い人種の絵を、ひとつひとつ取り上げて解説したかと思えば、グリーンランドは氷の島なのに、なぜ?グリーン?なのかとおちょくり、中国におけるセックスとぶらんこの関係について論じる。
そうやって縦横無尽に話題を広げながらも、内容は基本的に異世界の風景をめぐって展開していく。
『奇景の図像学』はつまるところ、古来、人はどのように異世界に心遊ばせてきたか、の具体例を列挙した見本市のような本なのだ。
なかでも私には、中国人の風景観に触れた「太湖石のある風景」「園林をつくる視線」という一連のエッセイが、個人的に印象深かった。
中国人はどういうわけか洞窟が好きだと中野は指摘する。中国の庭園へ行くと、太湖石という妙に穴ぼこだらけの石が置かれていることが多いが、それも洞窟好きが高じたものらしい。(中略)
まるで共感できないが、人間なんてどこへ行っても基本は同じだろうと思っていたのが、ほんの隣国であっても風景を見る感覚が全然違うというのは、私にはちょっとした驚きであった。派手なエッセイではないけれど、しみじみ世界は面白いと感じ入った次第である。
そんあわけで、世界をあくまで見た目から面白がる、中野美代子の視線に、私はすっかりハマっている。」
他にも奇妙な図版をいろいろと見ることができるのが本書の最大の魅力で、例えば、奇怪な現代アートのような小山の周りに子供の骸骨3人が立っている絵や、どろどろになって波打っているように見える岩々が連なっているように見える絵、太湖石にインスピレーションをを得て描いたように見える呉彬の数々の絵、ピエロ・ディ・コジモの絵『アンドロメダの解放』の中央部を占める怪物の絵(尾はサザエのようにくねくねと螺旋状となり、毛の生えた頭と、下顎から生える異常に長い2本の牙を持つ)、ミヒャエル・パッハーの絵『聖ヴォルフガングと悪魔』の悪魔(異常に細い四肢を持ち、尻に顔を持ち、頭からは鹿のような角を生やし、背中にはコウモリのような翼を持つ)などがそうでした。また中野さんの文献に関する知識の膨大さにも驚きました。
公共図書館でも借りられる本だと思いますので、気軽に読んでみたらいかがでしょうか?
→Nature LIfe(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto)