みどりの一期一会

当事者の経験と情報を伝えあい、あらたなコミュニケーションツールとしての可能性を模索したい。

オキナワとフクシマ/検証・大震災:福島原発事故後の世界 「ノーモア・フクシマ」の裏で

2011-07-11 09:41:11 | 地震・原発・災害
昨夜、帰宅してたまった新聞を読んでいたら、
中日新聞の社説の「オキナワとフクシマ」という言葉にひき付けられました。

9日の上野千鶴子さんの「生き延びるための思想」の講演のなかで語られた「3.11と8.15」。
つまり、原発事故と戦争は共通点が多いということが、印象に残っていたことの一つだったからです。

「逃げよ! 生き延びよ!」

でも、逃げることも、立ち去ることもできない人はどうするのか?

ほんとうの問いはそこからはじまるのではないか、とわたしは思うのです。

週のはじめに考える オキナワとフクシマ

 沖縄で、こんな声を聞きました。オキナワとフクシマは同じではないか、ともに無関心が生んだのではないか。その視点から私たちを考え直してみます。
 先月、沖縄であった会合でのことでした。講師に招いた沖縄国際大教授の佐藤学さんが「他人事の論理を超えるために」という題で話をしてくれました。
 テーマは基地問題。佐藤さんは日米の政治の研究者です。
 こう問いかけます。なぜ、日本政府は辺野古(米軍普天間基地の移転予定地)に固執するのだろうか。そう問うて、佐藤さんは言いました。
 「それは、日本国民の圧倒的無関心からではないか」

◆無関心がつくる誤解
 本土の無関心はこれまでにも指摘されてきたことでした。圧倒的かどうかはともかく、沖縄での米軍基地の占有率は、本土の人の想像をはるかに超えるものです。その戦争目的や騒音への関心はどれほど実感できるか。しかも沖縄の人を一番落胆させるのは、沖縄は基地なしでは経済が回ってゆかないという誤った想像が、無関心をさらに強めていることです。
 それらをより合わせると、沖縄は基地を望んでいるという、本土側に都合のいい偽りの正当化、論理の擬制とでもいうべきものへと発展してゆく。つまり声の小さい少数者を相手に絶対多数のにせの論理がまるで正しいかのようにふるまい始めるのです。
 そこでフクシマです。
 オキナワとフクシマは似ているというのが佐藤さんの話の論旨でしたが、それをもう少し膨らませて考えてみます。
 (フクシマとカタカナで書くのはつらいのですが、世界的原発事故が起きてしまったということで許されたい。オキナワのカタカナ書きは米軍の大きな基地が集積している世界性からです)

◆民主主義の核心部分
 事故で放射能を放出したフクシマ原発は、一九七〇年代、日本では最もはやい時期に動きだした原発でした。立地する太平洋岸沿いの浜通りは、福島県内でも特に過疎の地域で、電力は首都圏へ。原発の以前、水力発電の時代は福島西部・只見川のダム群が電力を送っていた。だがその電力を使う都会は、実はどれほどフクシマを意識していたのだろうか。
 そのあと、原発立地をめぐる争いが全国各地で起きた時、そこから遠い都会では、争いをニュースでは知っていても結局、無関心だったのかもしれない。国の税金が投入されるほど、無関心が許されるという仕組みだ。それはオキナワによく似ています。
 世界では、米国のスリーマイル島、またソ連時代のチェルノブイリの原発事故が起き、その恐るべき危険性が実感されたはずだったのですが、日本ではそんな愚かな事故は起きるはずがないという安全神話が逆に強められたのでした。無関心は温存されたのでした。オイルショックがもたらしたエネルギー安保という国策も神話を補強しました。
 考えるべきは、無関心の構造です。政治学では、政治に対する無関心は民主主義をその内側から崩壊させ、政治そのものを死なせるといいます。逆にいうと人々の関心こそが民主主義の核心部分であり、活力なのです。関心こそが政治を社会を成長させるのです。
 関心の対象はわが街であり、自治体であり、また国家、もっと広げるのなら世界でもあります。
 共同体の中のはるか遠い所で起きていることをいちいち見に行くわけにはゆきません。しかしそこに住む人の身になって考えることはできるはずです。関心をもつとはそうすることであり、無関心とはそうしないことです。
 オキナワの基地について政治家はよくこんなふうに言います。
 「現実に、受け入れるところはない。沖縄の皆さんにお願いせざるをえない」
 さらりと聞けば正しいように思われても、沖縄には忍従を、本土には無関心を促しかねない言葉です。日本という共同体の全体で考える機会を消し去るような言葉です。これはフクシマでも、また他の原発稼働地でも同じです。

◆共感は不可能でない
 共感はとても難しそうに見えますが、例えば日本では水俣病やイタイイタイ病などの公害に対し関心は全国から集まり、世界では人種差別や飢餓などに対しやはり関心は集まりました。今は津波の三陸や原発のフクシマに対し、全国また世界の関心が集まります。
 もちろん、物事は関心だけで解決するわけではなく、負担が公平化されるわけでもない。しかし関心をもつとは、問題をだれかに押し付けるのではなく、ともに考える始まりとなるはずです。大震災が与えた悲しき教訓です。


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 検証・大震災:福島原発事故後の世界 「ノーモア・フクシマ」の裏で 

 東京電力福島第1原発事故は、3月11日の発生から4カ月近くたった今も収束の道が見えない。一方で、世界は「ノーモア・フクシマ」で一致しながらも、「安全安心」を売り文句にした原発商戦が熱を帯びる。国益が複雑に絡みあう「フクシマ後の世界」を検証する。(肩書は当時、現地時間)

 ◇「何が起きた?」電話殺到
 「フクシマで何が起きているんだ」「放射性物質はどこまで飛散するのか」。国内の原子力関係企業、地方自治体など482団体でつくる東京都港区の社団法人日本原子力産業協会。3月11日の大震災直後から東京電力福島第1原発事故の状況を問う海外メディアや原子力関係団体、専門誌からの国際電話や英文メールが殺到した。
 14日、政府や東電の発表資料を基に原子炉ごとの被災状況をインターネットのホームページ(HP)上に英文で掲載。途端、世界中のメディアが引用を始め、アクセス数は震災後1週間で1日8万6000件を超えた。
 29日には東電の海外メディア担当の外国人職員も訪れた。東電内での情報の少なさに加え、日本人社員と専門的な内容について正確に意思疎通できない、と語り、協会に情報提供の協力を求めたのだった。
 木下雅仁・同協会情報コミュニケーション部長は「政府や東電が英文の説明資料を本格的にHPに掲載し始めたのは事故から10日過ぎた後だった」と振り返る。東電の発信する情報過疎に、世界がいら立った。
 「生きた心地がしなかった」。福島第1原発事故から数日後のフランス・パリのシャルル・ドゴール空港。日本から避難してきた仏人たちと、出迎えた家族らが涙を流しながら抱き合った。仏のテレビは、毎日のように再会場面を報道。帰国した人々はカメラを前に「放射能の恐怖」を語った。日本への不信感が増幅された。
 脱出劇を支えたのは、各国政府が用意した自国民のためのチャーター機。米国や中国、フランスや英国など主要国は、定期便に乗れない人の家族から優先して搭乗させた。
 東京の大使館機能を大阪や京都などへ移した国は、ドイツやオーストリア、スイスなど20カ国以上。うちパナマは神戸に、フィンランドは広島に、ブルガリアは福岡に一部機能を移転した。海外メディアも拠点を関西のホテルなどに移した。
 いずれの国も外務省に「一時的な措置」と説明した。

 ◇仏「推進」独「廃止」、2大潮流
 ◇ロシア「震度9、14メートルの津波でも安全」 中国「火消し」に躍起、ハッパかける韓国大統領
 大震災後、いち早く日本に目を向けたのは、原子力発電所の数で世界第2位の「原発大国」フランスだった。
 「できるだけ早く日本を訪問したい」。サルコジ大統領が菅直人首相に電話で伝えたのは震災から1週間後の3月18日。全国の警察が被災地へと向かう中、警備に手が回らずいったんは断った。が、間もなく外交ルートを通じ、2度目の打診。首相は大統領の熱意を受け止め承諾。31日、震災後、初の主要国首脳の訪日となった。
 フランスは「原発輸出大国」。サルコジ氏が訪日にこだわったのは、福島第1原発事故を受けた「脱原発」の潮流を食い止めて国益を守るため、事故の当事者である日本の首相と原発の重要性を確認する必要があったからだ。また、来年の大統領選を巡る3月の世論調査では、支持率が18%と国際通貨基金(IMF)専務理事だったストロスカーン氏(33%)らを下回り、人気挽回を図る狙いもあった。
 このため、訪日時に5月に議長を務める仏ドービルでの主要8カ国(G8)首脳会議で原発の世界的な安全基準の年内策定などを表明する考えを示し、「原発維持」の流れが揺るがぬよう先手を打とうとした。
 しかし、日本政府にとって原子力安全基準の提案は「寝耳に水」。G8には脱原発路線のドイツが参加する一方、原発輸出国の韓国は入っていない。
 日本大使館が仏政府に真意を問い合わせると、「これはトップダウン。現場は何も知らない」と回答。日本政府高官は「原発推進国としての強い思いと、そうでもしないともたない、との判断が大統領にあったのだろう」と振り返った。
 3月14日朝、ドイツの与党・キリスト教民主同盟の幹部会合。2週間後に南部の州議会選を控え、レトゲン環境相が「首相、ここで明確な(脱原発の)シグナルを出さないと、今度はツナミがわが党を襲う」と叫んだ。
 「脱原発」政策から昨年に「原発維持」へかじを切ったドイツを日本での原発事故が直撃。世論は「脱原発」へ勢いを増していた。メルケル首相に、原発容認では選挙を戦えない、と訴えたのだった。
 物理学者の首相は原発事故直後、「これまでの知識を総動員しても全く対処できない事態」と漏らしていた。相次ぐ地方選の敗退で与党は5月末、22年までに国内17基を全廃する方針で合意する。
 同じころ、廃炉が決まったドイツ最古のビブリス原発のある南西部の町。放射線技術者として同原発で働いてきた50歳代の男性が、「いずれは外国に行くしかない。同僚とはそんな話ばかりだ」と酒場で語り、泣いた。
   ■
 仏独が「原発推進」「脱原発」に分かれ、二つの潮流に国際社会がのみ込まれた。
 世界を震撼(しんかん)させた史上最悪のチェルノブイリ原発事故から25年を迎えるロシア。4月21日、古都サンクトペテルブルクの国際原子力エネルギー会議で、国営原発企業ロスアトムのキリエンコ総裁は「福島第1のような古い原発は早く止めるべきだ」と言い放ち、こう続けた。「ロシアで稼働している原子炉が震度9の地震と14メートルの津波に襲われた事態を想定し点検した結果、すべての安全システムが保証された」
 原発大事故のトラウマを抱えるロシアが、福島原発事故後、安全性をことさら強調したのは伏線がある。
 「(ロシアが計画中の原発は)国際的な安全基準に違反している。我が国の潜在的脅威になりかねない」
 2日前の19日、チェルノブイリ原発の廃虚が残るウクライナの首都キエフで開かれた原子力安全首脳級会議。リトアニアのクビリウス首相が隣国ベラルーシなど2カ所でのロシアの原発建設計画を批判すると、ロシアのセチン副首相は「最新型の最も安全なシステム。福島第1原発のような事態はありえない」と反論した。
 リトアニアは旧ソ連時代にチェルノブイリ原発と同型炉を導入したが、04年の欧州連合(EU)加盟の際、「安全基準に達していない」と閉鎖を要求され、09年に廃炉に応じたが、ロシアの技術への不信は根深い。
 26日にはメドベージェフ大統領が各国首脳と国際原子力機関(IAEA)などに書簡を送った。地震多発地域での安全規制強化などの提案だったが、トルコやイランなど地震多発国で原発販売を進めるロシアの特性を強調する狙いもあった。
 資源大国ロシアの狙いは原発だけではない。河野雅治駐露大使が震災後、セチン副首相と面会すると、露政府の液化天然ガス(LNG)や石炭の担当者らがずらりと居並び、支援を申し出た。外務省幹部は「ロシアとすれば原発事故の影響で化石燃料を必要としている日本へのビッグビジネスになるということだろう」と明かした。
   ■
 「フクシマ・ショック」は新興国にも広がる。世界最多の53基(うち1基は高圧ガス炉)が建設・計画中で原発急進国の中国。
 「ドイツ原発技術者を中国で歓迎したい」。「脱原発」を決めたドイツの有力紙に5月末、中国原子力産業協会の徐玉明・副秘書長の発言が掲載された。中国はイタリアが87年の国民投票で脱原発を決めた後にも核技術者を招請した。「世界最大の原発輸出国」を目指す中国には今、ドイツの技術者を獲得するチャンスと映る。
 中国は震災直後から「防衛策」にも躍起になった。3月14日、広東省で5基の原発を運転している原子力大手の中国広東核電集団が、インターネットの中国版ツイッター微博で突然、「つぶやき」始めた。「(同集団運営の)原発は地殻が安定していて大地震の確率は非常に低い」「福島原発は40年前の技術を採用しており安全でない」
 広東核電集団は昨年12月に微博を開設したが、震災までの情報発信はゼロ。中国国民の原発不信を一気に高めた福島事故は、情報開示に消極的だった当局側を一変させた。同集団は「(中国の原発で)放射性物質の漏えいはないのか」との個別の質問にも、「透明性のある情報公開に努めるので心配ない」と丁寧に返信した。
 「飛行機事故の起きる確率は低いが致死率は高い。だからといって、飛行機には乗らないというのか」
 5月17日、韓国原子力安全技術院。70年代に現代建設幹部として韓国初の商用原発・古里1号の建設に携わり、現職大統領として初めて同院を視察した李明博(イミョンバク)大統領は、反原発機運に「我が国は100%エネルギー輸入国。エネルギー多元化の観点からも原発は必要だ」とげきを飛ばした。
 東部の江原道で福島事故後初の知事選が4月27日にあり、原発誘致に「反対」を訴えた野党候補が当選した。江原道は、過疎化に悩む旧産炭地からの脱却を目指し、莫大(ばくだい)な補助金と税収をもたらす原発の誘致を狙っていたが、水泡に帰した。「技術大国の日本であんな事故が起きるなら韓国だって」と住民は不安を口にした。
 李大統領のげきから数日後、韓国電力公社幹部らがハノイを訪れた。ベトナムは2期計4基の原発建設を計画。1期はロシア、2期は日本が事実上の受注を決めたが、手続きは福島事故で滞っている。国際原発商戦に参入した韓国は、09年にアラブ首長国連邦から4基を受注、20年までに計10基の輸出目標を掲げる。福島事故で原発に脅威を感じた国内世論を尻目に、海外での商機をうかがう。

 ◇日本の原発ビジネス急失速
 チェコの首都プラハの南約100キロ、4基の巨大な冷却塔から水蒸気を噴き上げるテメリン原子力発電所。米露仏3カ国が原子炉2基の拡張など推計約2兆4000億円分の受注を競う原発ビジネスの最前線だ。
 5月22日、極秘来日したバルトゥシュカ・エネルギー安全保障担当大使は、三菱重工業が原子力分野の設計開発や生産拠点を置く神戸に足を運び、東京では外務省、経済産業省原子力安全・保安院の担当者と会合を重ねた。入札に名乗りを上げているのは、仏アレバ▽米ウェスチングハウス▽露アトムストロイエクスポルト。勝敗を分けるのは高度な安全性に加え、「価格、原発技術の移転、地場産業の工事参入」とみられている。
 チェコ政府は07年、加圧水型原子炉メーカーの世界トップ5を選び、三菱重工業、韓国の斗山重工にも入札を依頼したが、斗山は他の原発受注に専念するため断念。三菱は入札条件の不一致などを理由に辞退したという。
 にもかかわらず、日本の原子炉メーカーに依然として熱い視線を送る。受注決定は2年後の13年。バルトゥシュカ大使は「日本が(原発ビジネスの)世界地図から消えることは決してない」との思いを強くした。
 「協定の早期締結を強く期待する」。プラハからの派遣団来日直前の5月4日、ハノイを訪れた野田佳彦財務相に、グエン・タン・ズン首相は伝えた。昨年10月、日越両政府間で日本が受注することで合意したニントゥアン第2原発建設のことだ。電力需要が毎年2けたの伸びを示すベトナム。「原発事故後もベトナムは全然ぶれていない」。日越外交関係者はこう語る。
 国を挙げて原発売り込みに取り組むため経産省主導で電力9社とメーカー3社(三菱重工業、日立製作所、東芝)の連合体「国際原子力開発」(JINED)を設立したのは昨年10月。だが、原発事故後は動きはない。
 社長は東電元副社長で福島第1原発事故対応で首相官邸に出入りする武黒一郎・東電フェロー。資源外交に携わる外務省幹部はため息をつく。「東電は賠償問題もあり、受注どころじゃない。今は動きにくいよね」
 原発事故は日本の原発ビジネスの勢いをそいだ。世界は日本のそんな弱みを見透かしているようだ。チェコの事情に詳しい関係者はこう見る。「原発事故直後にチェコが日本に接近してきたのは、うまくいけば日本製の原子炉を安く買えるという思惑か、仏露への値下げ要求の当て馬として利用しようとしているのではないか」

 ◇G20閣僚会合「まるで戦場」 
 ◇IAEA天野氏「スケープゴート」に 官邸「10年で自然エネルギーの主導権握る」

 「どうなっているんだ、この会議は」
 6月7日、パリの経済協力開発機構(OECD)本部で37カ国・機関が出席して始まったG20(主要20カ国・地域)原子力閣僚会合。議長を務めるコシウスコモリゼ仏環境相が開会を告げても、ざわめきは静まらなかった。脱原発を宣言したドイツ、新興国の筆頭格の中国の代表が姿を見せなかったからだ。
 会議は、「核の番人」・国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長のビデオメッセージで始まった。「原子力政策を巡っては各国いろいろな対応があるが、脱原発を決めた国にとっても安全性向上は不可欠だ」
 だが、対立を極めたのは、「安全性」を巡る議論ではなく、主要国と新興国の「規制義務化」の論議だった。
 「IAEAによる調査を強化すべきだ」とフランスが口火を切ると、トルコやインドなどが猛反発した。
 「IAEAの助言は参考にするが、調査を義務的に受け入れるのは反対だ」「核拡散防止条約(NPT)が認めている原子力の平和利用の権利は何人も妨げることはできない」
 原発ビジネスが国益のフランスは「規制強化」で優位性を維持したいのに対し、新興国は制約を義務づけられるとコストが膨らみ、原発導入が進まないと危惧する--というのが表向きの構図だ。
 だが、一皮めくれば、「(加圧水型炉を造る)フランスはGE(ゼネラル・エレクトリック)の沸騰水型炉を全滅させようとしている」との見方や、「新興国は安全検査を名目に核兵器開発防止の目的で査察権限が強化されては困る」との本音がある。
 議論が沸騰する中、ドイツ代表は開会から1時間半後に「脱原発の政策決定について説明する」と記者団に言い残し、会場に入ったが、中国代表は最後まで姿を見せないまま。規制の議論も決着はつかなかった。
 表立った対立を封印したG8に対し、G20は「各国の主権がぶつかる戦場だった」と、会議参加者は交渉の難しさを指摘した。
   ■
 原発事故後、国際舞台で注視された日本人キーパーソンが2人いる。元外務省軍縮不拡散・科学部長の天野氏と、菅首相の補佐官・細野豪志氏(現原発事故担当相)だ。
 G20閣僚会合最終日の6月8日。米保守系紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が「主要3カ国が『天野外し』を進めている」と報じた。天野氏の「日本寄りの姿勢」に疑問を持つ3カ国が、天野氏が出席できない日程を選んでG20や国連特別会合を組み込んだ、という概要だ。記事に国名はないが、「英仏独」との観測が流れた。
 伏線は4月19日、ウクライナ・キエフであったチェルノブイリ原発事故25年の国際会議。潘基文(バンキムン)・国連事務総長が「9月に国連で原子力安全強化の特別会合を開きたい」と表明した。IAEA主導の流れに国連が横やりを入れた場面だった。
 ミスター・アマノは日本の肩を持ちすぎる--。国際社会にこんな風評が立っていた。記事は真偽を別に「天野氏をスケープゴートに」(日本政府関係者)、日本の事故処理への不満を表していた。
 批判は事故直後から始まった。「IAEAは対応が鈍い」。福島第1原発1号機が水素爆発した3月12日の夜、天野氏はビデオメッセージを世界に向けて発信したが、情報が迅速にIAEAに届くルートを構築したのは、18日、面会約束のないまま天野氏が訪日し、菅首相らと会談してから。原発事故の実情が明かされない情報過疎へのいら立ちが、「原発推進派」「脱原発派」問わず、国際社会に広がり、原発ビジネスへの影響を推し量れないもどかしさが、推進派には募った。
 首相の信頼が厚い細野氏が米英仏3カ国訪問に旅立ったのは、WSJが「天野外し」の記事を掲載した翌日の6月9日。IAEAに提出した事故調査報告書の内容説明が目的だったが、今後の原発政策の各国の思惑を瀬踏みする狙いもあった。
 10日、ワシントン。米原子力規制委員会(NRC)のヤツコ委員長との会談後、「協力の継続」を確認した共同発表文を作成。会談の意義を強調した。英仏では気候変動問題や再生可能エネルギーを巡っても協議した。
 帰国翌日の16日、細野氏は記者会見で「好意的な対応が多かった」と語ったが、首相側近にはこうつぶやいた。「各国は国益をかけて虚々実々だ」。「エネルギー戦争」を巡ってうごめく世界の現実をかいま見た細野氏の感想だった。
   ■
 「脱原発」をいち早く打ち出したドイツは、したたかにそろばんをはじいていた。
 「いずれ風力や太陽光は大当たりの輸出商品になる」。与党ベテラン議員は、メルケル首相が決断した背景を解説した。他の主要国の原発依存を横目に自然エネルギーの開発と世界販売の好機ととらえている。
 ドイツは現在、発電量に占める再生可能エネルギーの割合は約17%で、20年までに35%に倍増させる目標だ。日本の技術にも注目し、太陽光発電研究で欧州最大規模のフラウンホーファー太陽エネルギーシステム研究所は5月、日本の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などと共同技術開発で合意した。
 6月9日夜、菅首相は公邸で再生可能エネルギーに詳しい関係者の説明に耳を傾けた。「被災地のがれきを処理し、固形燃料にして再利用すれば、二酸化炭素排出を抑制できる。林業再生にもつながる」。原油価格高騰を受けて注目される木質バイオマスペレットのことだ。首相は農水省幹部に伝えた。「新成長戦略の要は経産省ではなく、農水省だ。エネルギー戦略の基幹を担う気概でやってくれ」
 自然エネルギー比率(約10%)を20年代のできるだけ早い時期に20%とするよう技術革新に取り組む--。目標を支える裏に当選1回時代から自然エネルギーの研究に没頭してきた自負がある。
 首相側近は解説する。「次の10年で自然エネルギーの分野で主導権を握る。ドイツだってそれを狙っている」。激烈な原発ビジネスの裏では、すでに自然エネルギーを巡る新たな「商戦」の火ぶたが切られている。

 ◇「迷走」の印象残した首相演説
原発事故を巡り、国際社会で受け身の対応を余儀なくされた日本は、仏ドービルでのG8首脳会議でどんな姿勢を打ち出すのか。各国が注目するなか、菅首相は出発前、周辺に漏らした。
 「だれが何と言おうと、好きなことを話す」。原発の安全性向上と同時に、重要性も強調してほしい経済産業省や外務省には、菅首相が自然エネルギーに傾斜しすぎないか警戒感が広がった。
 5月24日、現地に向かう政府専用機。菅首相は演説の原案にはなかった追加を指示する。「太陽光パネルを約1000万戸の屋根に設置する」
 同行する内閣官房参与、田坂広志・多摩大大学院教授は太陽光など自然エネルギーの普及論者だ。信頼の厚い首相に出発前から頻繁に提言のメモを入れる。内容は「完全に自然エネルギーにシフトすべきだというもの」(官邸関係者)だった。
 田坂氏は現地での勉強会でも、演説の表現を細かくチェックした。首相がG8に先立つ経済協力開発機構(OECD)の演説で、エネルギー政策の柱として「原子力」「化石燃料」に加え、「自然」「省エネ」の四つを同列に並べた背景には、田坂氏の影響があったとされる。
「太陽光パネル約1000万戸」発言は波紋を呼ぶ。海江田万里経産相は「聞いてなかった」と反発。「実現不可能な数字」と受け止められた。だが、実は従来の路線を大きくは外れていない。
 現行のエネルギー基本計画は「2030年に自然エネルギーの発電比率20%」の目標を掲げており、太陽光パネルを約930万戸に設置することになっている。「経産省の出した数字をちょっとふくらまして時期を早めた」(経産省幹部)内容だった。
 原発推進かエネルギー政策の大きな転換か、結局、明確な姿勢は示せなかった。官邸関係者は「日本は迷走しているという印象を諸外国に与えたと思う」と語る。
 それでも、菅首相の演説は、日本の立場をアピールするぎりぎりの判断だった。
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 この特集は、会川晴之、伊藤智永、犬飼直幸、大貫智子、大前仁、尾中香尚里、栗田慎一、斉藤信宏、篠田航一、隅俊之、高塚保、竹地広憲、西脇真一、野原大輔、樋口直樹、宮川裕章、米村耕一が担当しました。(グラフィック 日比野英志、編集・レイアウト 深町郁子)
毎日新聞 2011年7月4日


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