みどりの一期一会

当事者の経験と情報を伝えあい、あらたなコミュニケーションツールとしての可能性を模索したい。

国の原発対応に満身の怒り - 児玉龍彦/今さらですが 測定も評価も難しい…内部被ばく

2011-07-30 11:32:55 | 地震・原発・災害
ツイッターやブログなど、web上で共感の輪が静かに広がっている、
衆議院厚生労働委員会での児玉龍彦参考人の発言を紹介します。

一人でも多くの人に聞いてほしいので、ぜひ視聴してみてください。

  2011.07.27 国の原発対応に満身の怒り - 児玉龍彦 

2011年7月27日 (水) 衆議院厚生労働委員会
「放射線の健康への影響」参考人説明より
児玉龍彦(参考人 東京大学先端科学技術研究センター教授 東京大学アイソトープ総合センター長)

衆議院TVのこの会議のURL:
http://www.shugiintv.go.jp/jp/video_lib3.php?deli_id=41163&media_type=wb


児玉教授の4つの緊急提案
14:10 (1) 国策として、食品・土壌・水を、日本が持っている最新鋭の機器を投入して抜本的に改善する。
14:36 (2) 緊急に子供の被曝を減少させるために新しい法律を制定する。
15:37 (3) 国策として、土壌汚染を除染する技術に民間の力を結集する。

時間制限のためか、4つ目の提言が話されていません。 



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児玉龍彦教授の衆議院厚生労働委員会での参考人説明の動画の
文字版も、守田敏也さんのブログ「明日に向けて」に全文紹介されています。

以下は、内部被ばくの新聞記事も含めて長いので、読みたい方はお読みになってください。

 明日に向けて(208)放射線の健康への影響について(児玉龍彦教授国会発言)改訂版

・・・・・・・・・・・・・
以下、児玉さんの発言のノートテークをお届けします。
(なお当初投稿したものは、画像・ノートテーク共に最初が切れて
いたので、初めから映っているものに差し替えました。この際、誤
字脱字など数か所訂正しました。何人かの方がアドバイスをください
ました。お礼申し上げます)

*****************************
衆議院厚生労働委員会 「放射線の健康への影響について」
児玉龍彦教授発言 7月27日
http://www.youtube.com/watch?v=O9sTLQSZfwo


私は東京大学アイソトープ総合センター長の児玉です。
3月15日に、大変に驚愕しました。私ども東京大学には27箇所の
アイソトープセンターがあり、放射線の防護とその除染などの責任
を負っております。

私自身は内科の医者でして、東大病院の放射線の除染などに数十
年関わっております。まず3月15日の午前9時ごろ、東海村で5マイ
クロシーベルトという線量を経験(観測)しまして、それを文科省
に第10条通報ということで直ちに通報いたしました。

その後東京で0.5マイクロシーベルトを超える線量を検出しま
した。これは一過性に下がりまして、そのあと3月21日に東京で雨
が降り0.2マイクロシーベルト等の線量が降下し、これが今日ま
での高い線量の原因になっていると思っております。このときに
枝野官房長官が、さしあたり健康にあまり問題がないということを
おっしゃいましたが、私はじっさいにこのときにこれは大変なこと
になると思いました。なぜなら現行の放射線の障害防止法というの
は、高い線量の放射線が少しあることを前提にしています。このと
きは総量はあまり問題ではなくて、個々の濃度が問題になります。

ところが今回の福島原発の事故というのは、100キロ圏で5マイクロ
シーベルト、200キロ圏で0.5マイクロシーベルト、さらにそれを越
えて、足柄から静岡のお茶にまで汚染が及んでいることは、今日、
すべてのみなさんがご存じの通りであります。

われわれが放射線障害をみるときには総量を見ます。それでは政府
と東京電力はいったい今回の福島原発事故の総量がどれぐらいであ
るかはっきりとした報告はまったくしていません。

そこで私どもはアイソトープセンターの知識をもとに計算してみま
すと、まず熱量からの計算では広島原爆の29.6個分に相当するもの
が露出しております。ウラン換算では20個分のものが漏出していま
す。

さらにおそるべきことにはこれまでの知見で、原爆による放射能の
残存量と、原発から放出されたものの残存量は1年経って、原爆が
1000分の1程度に低下するのに対して、原発からの放射線汚染物は
10分の1程度にしかならない。

つまり今回の福島原発の問題はチェルノブイリ事故と同様、原爆数
十個分に相当する量と、原爆汚染よりもずっと大量の残存物を放出
したということが、まず考える前提になります。

そうしますと、われわれはシステム生物学というシステム論的にも
のをみるやり方でやっているのですが、総量が少ない場合には、あ
る人にかかる濃度だけを見ればいいです。しかしながら総量が非常
に膨大にありますと、これは粒子の問題です。

粒子の拡散というのは、非線形という科学になりまして、われわれ
の流体力学の計算ではもっとも難しいことになりますが、核燃料と
いうものは、砂粒のようなものが、合成樹脂のようなものの中に埋
め込まれております。

これがメルトダウンして放出されるとなると、細かい粒子がたくさ
ん放出されるようになります。そうしたものが出てまいりますと、
どういうことがおこるかというのが今回の稲藁の問題です。例えば
岩手の藤原町では、稲藁5万7千ベクレルパーキログラム、宮城県の
大崎1万7千ベクレルパーキログラム、南相馬市10万6千パーキログラ
ム、白河市9万7千パーキログラム、岩手6万4千パーキログラムと
いうことで、この数値はけして同心円上にはいかない。どこでどう
落ちているかということは、その時の天候、また例えばその物質が
水を吸い上げたかどうか、にかかります。

今回の場合も、私は南相馬に毎週行っています。東大のアイソトー
プセンターは現在までに7回の除染を行っていますが、南相馬に最初
にいったときには1台のNaIカウンターしかありません。農林省が
通達を出した3月19日には、食料も水もガソリンもつきようとして、
南相馬市長が痛切な訴えをWEBに流したのは広く知られていると
ころであります。

そのような中で通達1枚を出しても誰も見ることができないし、誰
も知ることができません。稲藁がそのような危険な状態にあるとい
うことは、まったく農家は認識されていない。農家は資料を外国か
ら買って、何十万という負担を負って、さらに牛にやる水は実際に
自分たちが飲む地下水にその日から代えています。

そうするとわれわれが何をやらなければいけないのかというと、ま
ず汚染地で徹底的な測定ができるように保障しなければいけません。
われわれが5月下旬に行ったときに1台しか南相馬になかったという
けれど、実際には米軍から20台の個人線量計が来ていました。しか
しその英文の解説書を市役所の教育委員会で分からなくて、われわ
れが行って、教えてあげて実際に使いだしてはじめて20個での測定
ができるようになった。それが現地の状況です。

それから先程から食品検査と言われていますが、ゲルマニウムカウ
ンターというのではなしに、今日ではもっとイメージングベースの
測定器が、はるかにたくさん半導体で開発されています。なぜ政府
はそれを全面的に応用してやろうとして、全国に作るためにお金を
使わないのか。3カ月経ってそのようなことが全く行われていないこ
とに私は満身の怒りを表明します。

第二番目です。私の専門は、小渕総理のときから内閣の抗体薬品の
責任者でして今日では最先端研究支援ということで、30億円をかけ
て、抗体医薬品にアイソトープをつけて癌の治療をやる、すなわち
人間の身体の中にアイソトープを打ち込むのが私の仕事ですから、
内部被曝問題に関して、一番必死に研究しております。

そこで内部被曝がどのように起きるかということを説明させていた
だきます。内部被曝の一番大きな問題は癌です。癌がなぜ起きるか
というと、DNAの切断を行います。ただしご存知のように、
DNAというのは二重らせんですから、二重のときは非常に安定的
です。

それが細胞分裂するときは、二重らせんが1本になって2倍になり、
4本になります。この過程のところがもの凄く危険です。そのために
妊婦の胎児、それから幼い子ども、成長期の増殖の盛んな細胞に対
しては、放射線障害は非常な危険性を持ちます。

さらに大人においても、増殖の盛んな細胞、例えば放射性物質を与
えると、髪の毛に影響したり、貧血になったり、それから腸管上皮
に影響しますが、これらはいずれも増殖の盛んな細胞でして、そう
いうところが放射線障害のイロハになります。

それで私たちが内部に与えた場合のことで知っている事例を挙げま
す。これは実際には一つの遺伝子の変異では癌はおこりません。
最初の放射線のヒットが起こったあとにもう一個の別の要因で、癌
への変異が起こるということ、これはドライバーミューテーション
とか、パッセンジャーミューテーションとか、細かいことになりま
すが、それは参考の文献をつけてありますので、後で、チェルノ
ブイリの場合や、セシウムの場合を挙げていますので、それを見て
いただきますが、まず一番有名なのはα線です。

プルトニウムを飲んでも大丈夫という東大教授がいると聞いて、
私はびっくりしましたが、α線は最も危険な物質であります。それ
はトロトラスト肝障害というところで、私ども肝臓医は、すごくよ
く知っております。

要するに内部被曝というのは、さきほどから何ミリシーベルトと
いう形で言われていますが、そういうのは全く意味がありません。
I131(ヨウ素131)は甲状腺に集まります。トロトラストは
肝臓に集まります。セシウムは尿管上皮、膀胱に集まります。
これらの体内の集積点をみなければ全身をいくらホールボディ
スキャンしても、まったく意味がありません。

トロトラストの場合、これは造影剤でして、1890年からドイツで用
いられ、1930年頃から日本でも用いられましたが、その後、20から
30年経つと肝臓がんが25%から30%起こるということが分かってま
いりました。最初のが出て来るまで20年というのが何故かと言うと、
トロトラストはα線核種なのですが、α線は近隣の細胞を障害しま
す。そのときに一番やられるのは、P53という遺伝子です。

われわれは今、ゲノム科学ということで人の遺伝子の配列を知って
いますが、一人の人間と別の人間はだいたい三百万箇所違います。
ですから人間を同じとして扱うような処理は今日ではまったく意味
がありません。いわゆるパーソナライズドメディスンと言われるよ
うなやり方で、放射線の内部障害を見るときにも、どの遺伝子がや
られて、どのような変化が起こっているかということをみることが、
原則的な考え方として大事です。

トロトラストの場合は、第一の段階でP53の遺伝子がやられて、それ
に続く第二、第三の変異が起こるのが20年から30年かかり、そこで
肝臓癌や白血病が起こってくることが証明されています。

次にヨウ素131、ご存知のように甲状腺に集まりますが、成長期の
集積がもっとも特徴的であり、小児に起こります。しかしながら1991
年に最初、ウクライナの学者が甲状腺癌が多発しているというときに、
日本やアメリカの学者は、ネイチャーに、これは因果関係が分から
ないということを投稿しております。なぜかというと1986年以前の
データがないから統計学的に有意だということが言えないということ
です。

しかし統計学的に有意だということが分かったのは、20年後です。
20年後に何が分かったかというと、86年から起こったピークが消えた
ために、過去のデータがなくても因果関係があるということがエビ
デンスになった。ですから疫学的な証明というのは非常に難しくて、
全部の症例が終わるまでだいたい証明できないです。

ですから今、われわれに求められている子どもを守るという観点から
はまったく違った方法が求められます。そこで今、行われているのは
国立のバイオアッセ―研究センターという化学物質の効果を見る、
福島昭治先生という方がチェルノブイリの尿路系に集まるものを検討
されていまして、福島先生たちが、ウクライナの医師と相談して500
例以上のある症例を集めています。

前立腺肥大のときに手術をしますと膀胱もとれてきます。これを見まし
て検索したところ、高濃度の汚染地区、尿中に6ベクレルパーリットル
と微量ですが、その地域ではP53の変異が非常に増えていて、しかも
増殖性の前癌状態、われわれからみますと、P38というMAPキナーゼと、
NFカッパーBというシグナルが活性化されているのですが、それに
よる増殖性の膀胱炎というのが必発性でありまして、かなりの率で
上皮内の癌ができているということが、報告されています。

それでこの量に愕然といたしましたのは、福島の母親の母乳から2から
13ベクレル、7名から検出されているというがすでに報告されていること
であります。われわれアイソトープ総合センターでは、現在まで毎週
だいたい4人ぐらいの所員を派遣しまして、南相馬市の除染に協力して
おります。

南相馬でも起こっていることはまったくそうでして、20キロ、30キロ
という分け方はぜんぜん意味が無くて、幼稚園ごとに測っていかないと
全然ダメです。それで現在、20キロから30キロ圏にバスをたてて、
1700人の子どもが行っていますが、実際には南相馬で中心地区は海側で、
学校の7割は比較的線量は低いです。

ところが30キロ以遠の飯館村に近い方の学校にスクールバスで毎日100
万円かけて、子どもが強制的に移動させられています。このような事態
は一刻も早くやめさせてください。今、一番その障害になっているのは、
強制避難でないと補償しないということ。参議院のこの前の委員会で
当時の東電の清水社長と海江田経済産業大臣がそのような答弁を行って
いますが、これは分けて下さい。補償問題と線引の問題と、子どもの
問題は、ただちに分けて下さい。子どもを守るために全力を尽くすこと
をぜひお願いします。

それからもう一つは現地でやっていて思いますが、緊急避難的除染と
恒久的除染をはっきりわけていただきたい。緊急避難的除染をわれわれ
もかなりやっております。例えば図表にでています滑り台の下、ここは
小さい子どもが手をつくところですが、滑り台から雨水が落ちて来ると
毎回ここに濃縮します。右側と左側にずれがあって、片側に集まって
いますと、平均線量1マイクロのところですと、10マイクロの線量が
出てきます。こういうところの除染は緊急にどんどんやらなくては
なりません。

またコケが生えているような雨どいの下、これも実際に子どもが手を
ついたりしているところなのですが、そういうところは、高圧洗浄機を
持って行ってコケをはらうと2マイクロシーベルトが0.5マイクロ
シーベルトにまでなります。

だけれども、0.5マイクロシーベルト以下にするのは非常に難しいです。
それは建物すべて、樹木すべて、地域すべてが汚染されていますと、
一か所だけを洗っても全体を下げることは非常に難しいです。

ですから除染を本当にやるときに、一体どれぐらいの問題がかかり、
どれぐらいのコストがかかるかといことをイタイイタイ病の一例であげ
ますと、カドミウム汚染地域、だいたい3000ヘクタールなのですが、
そのうち1500ヘクタールまで現在、除染の国費が8000億円投入されて
います。もしこの1000倍ということになれば一体どれだけの国費が必要
になるのか。

ですから私は4つのことを緊急に提案したいと思います。
第一に国策として、食品、土壌、水を、測定していく。日本がもってい
る最新鋭のイメージングなどを用いた機器を使って、半導体のイメージ
ング化は簡単です。イメージング化して流れ作業にしていくという意味
での最新鋭の機器を投入して、抜本的に改善してください。これは今の
日本の科学技術でまったく可能です。

二番目。緊急に子どもの被曝を減少させるために、新しい法律を制定
してください。私の現在やっていることはすべて法律違反です。現在
の障害防止法では、核施設で扱える放射線量、核種などは決められて
います。東大の27のいろいろなセンターを動員して南相馬の支援を行っ
ていますが、多くの施設はセシウム使用権限など得ていません。

車で運搬するのも違反です。しかしお母さんや先生たちに高線量のも
のを渡してくるわけにはいきませんから、今の東大の除染では、すべ
てのものをドラム缶に詰めて東京にもって帰ってきています。受け入
れも法律違反、すべて法律違反です。このような状態を放置している
のは国会の責任であります。

全国の国立大学のアイソトープセンターには、ゲルマニウムをはじめ
最新鋭の機種を持っているところはたくさんあります。そういうとこ
ろが手足を縛られたままで、どうやって、国民の総力をあげて子ども
を守れるでしょうか。これは国会の完全なる怠慢であります。

第三番目、国策として土壌汚染を除染する技術に、民間の力を結集して
下さい。これは例えば東レとかクリタだとかさまざまな化学メーカー。
千代田テクノルとかアトックスというような放射線除去メーカー、竹中
工務店などは、放射線の除染に対してさまざまなノウハウを持っていま
す。こういうものを結集して、ただちに現地に除染研究センターを作っ
て、実際に何十兆円という国費をかかるのを、今のままだと利権がらみ
の公共事業になりかねないいう危惧を私は強くもっています。
国の財政事情を考えたら、そんな余裕は一瞬もありません。どうやって
本当に除染をやるか。七万人の人が自宅を離れて彷徨っているときに
国会は一体何をやっているのですか。

以上です。
(なお文中の障害防止法とは、「放射線同位元素等による放射線障害の
防止に関する法律」のことと思われます。)


  特集ワイド:今さらですが 測定も評価も難しい…内部被ばく  

福島第1原発事故で大量に漏れ出た放射性物質。体が放射線を受ける「被ばく」という言葉が連日報道されるが、放射性物質が体の中に入り込んだ「内部被ばく」とは何なのか。今さらですが、おさらいしてみましょう。【宍戸護】

 ◇原爆被害では重視されず 髪を取り置くなど対策を
 Q 被ばくとは何ですか。
 内部被ばくの研究を長年してきた稲葉次郎・元国際放射線防護委員会(ICRP)委員 放射線を体の外から受けることを外部被ばく、呼吸や飲食を通して体に入った放射性物質から受けることを内部被ばくといいます。体に入った放射性物質を線源と呼び、1秒間に出る放射線の数をベクレルという単位で表します。放射性物質には放射性ヨウ素、セシウム、ストロンチウム、プルトニウムなどがあり、それぞれの性質により、α(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)線などの放射線を出します。各線ごとに体に与える影響の大きさも違います。これらのあらゆる要素を取り込んで、人体への影響を勘案した単位がシーベルトで、累積100ミリシーベルトを超えると体に障害が生じる可能性が出てきます。
 内部被ばくの具体例としては、20世紀前半の米国で、ラジウムを含む蛍光塗料を使って筆で時計の文字盤などを作っていた労働者が、骨肉腫で死亡するケースが相次ぎました。筆先をなめながら作業し、体内にラジウムを取り込んだのが原因です。ラジウムは化学的性質がカルシウムに似ていて、骨に沈着し組織を破壊していました。
 ■
Q どういうメカニズムで体に影響するのですか。
 原爆症認定集団訴訟で内部被ばくについて証言している矢ヶ崎克馬・琉球大名誉教授(物性物理学) 体は60兆の細胞の集まりです。細胞には自らの情報を伝える遺伝子(DNA)があり、そのDNAはたくさんの原子が連なった分子からできています。一方、放射線にはα線、β線、γ線などがあり、α線が飛ぶ範囲は40マイクロメートル、β線は1センチ程度、γ線は体を貫通します。放射性物質のチリが体外にある時は主にγ線で被ばくしますが、体内にある場合はα線やβ線でも被ばくします。この二つの放射線はごく短距離で消滅しますが、その間に大きなエネルギーを集中的に出し、DNAの分子を切断し傷つけます。100ミリシーベルト以下でも安全とはいえません。ただしICRPでは、γ線のみを対象にしたモデルで、被ばく量を臓器ごとに平均化・均質化しており、低線量の内部被ばくで障害が出ることを認めていません。
 稲葉元委員 DNAの鎖は確かに切れたりしますが、DNAは壊れても修復する能力を持っています。修復できずにDNAが変質した細胞は自死したり、変質した細胞を免疫系がやっつける仕組みも持っています。いずれの監視網も逃れた細胞が最終的にがんになります。
 一方、放射性物質が体内にある間、体は被ばくし続けます。放射性物質には物理学的半減期のほかに、代謝を通して体の中から排出されていく生物学的半減期があります。物理学的半減期はセシウム137が30年、放射性ヨウ素は8日、ストロンチウムは29年、プルトニウムは2万4000年。生物学的半減期はセシウムが100日、放射性ヨウ素が80日、プルトニウムは数十年。ストロンチウムは数年~20年という最近の報告もあります。臓器別では、セシウムは筋肉に蓄積し、放射性ヨウ素は、甲状腺に集まります。カルシウムと性質が似ているストロンチウムは骨に、プルトニウムは肺や骨、肝臓に沈着します。
 ■
 Q 被害について分かっていることを教えてください。
 広島で被爆し、被爆者治療に携わってきた全日本民医連顧問の肥田舜太郎医師 広島・長崎の原爆被害が参考になります。広島で閃光(せんこう)(ピカ)と爆風(ドン)に遭った多くの人は発熱から吐血に至る被ばくの急性症状で亡くなりました。続けて爆発後、市街地に入っただけで原爆病となり死亡した人が相次ぎました。症状は下痢や口内炎、鼻血、紫斑などで、血を吐いて亡くなりました。その後、「体がだるい」と「ぶらぶら病」を訴える人も大勢出ました。当初は原因が分からず、多くの人は「怠けている」と差別された。原因を探して30年後、米国人研究者の著書で、内部被ばくを知りました。
 矢ヶ崎教授 広島・長崎の被ばくの大きさを評価するため、日米両政府の共同研究機関などが4回、調査報告書を出しています。このうち内部被ばくに触れたのは86年の報告書だけで、しかも事実上内部被ばくを否定する内容でした。06年以降、各地の裁判で原爆症の人々の内部被ばくを認める判決が出てきますが、日本政府は事実上内部被ばくの被害を認めていません。
 稲葉元委員 広島、長崎の長期調査は、基本的には外部被ばくのみという考え方に基づいています。ただし、今回の福島の事故では、内部被ばくもきちんと測定し、評価しないといけません。
 ■
 Q がんとの因果関係は?
 肥田医師 占領軍の調査は原爆投下4年後に開始されました。それまでに多くの人が亡くなりましたが調査されていません。また、爆心地から半径2キロ外の被爆者、つまり内部被ばくの被害者は事実上除外されました。検査が受けられると喜んで病院に行き、がっくりして戻ってきた患者さんの表情を覚えています。内部被ばくを測定する装置ホールボディーカウンターや尿検査で体内にある放射線量の一部を測定することはできますが、がんとの因果関係をはっきりと証明することは今も難しいのが実情です。
 矢ヶ崎教授 ホールボディーカウンターは体を突き抜けるγ線を測定するのであって、体から飛び出してこないα線やβ線をとらえることはできません。しかしα線やβ線によって体の中で被ばくしていることは確かです。欧州の放射線専門家で作る欧州放射線リスク委員会によると、内部被ばくの実際のひどさは、外部被ばくの600倍の影響があるというチェルノブイリ以後の研究もあります。

 Q 被害に備え、国や個人がやるべきことは?
 稲葉元委員 国が示している食品の暫定基準値はもっと分かりやすくしたほうがいいと思います。国には、学校給食のような日常食の放射線量を目安として出すことを検討してほしい。
 肥田医師 人の命の重さを考えれば、福島第1原発からなるべく遠ざかるしかない。福島にいる子どもを他県に疎開させる仕組みを政府には作ってほしいと思います。
 矢ヶ崎教授 現実的な個人の対策として、散髪の際、髪の毛の一部を取っておくことを勧めます。放射性物質が含まれており、がんになったときの証拠になります。国は自らの責任で全国民の健康管理をし、被害者を救済する医療制度を設けるべきです。
==============

 ◇「特集ワイド」へご意見、ご感想を t.yukan@mainichi.co.jp
ファクス03・3212・0279
毎日新聞 2011年7月28日 東京夕刊


  ヒバクシャからの警告:/2線引き 内部被ばく、対応疑問 

◇「政府はもっと真剣に考えよ」
 東日本大震災の大津波が襲った翌日の3月12日、福島第1原発の1号機が水素爆発する映像を自宅のテレビで見た全国被爆体験者協議会長の小川博文さん(68)=長崎市=は、ぼうぜんとなった。プラントメーカー技術者の経験から、原子炉が制御不能になったことが容易に想像できた。「放射性物質がまき散らされ、発がんなど将来にわたり不安を抱える私たちのような『核被害者』が生まれかねない」
 小川さんは長崎地裁で係争中の「被爆体験者」集団訴訟の原告団長だ。被爆者健康手帳を申請して却下された395人が、国や長崎県などを相手取り処分の取り消しなどを求めている。国が定める長崎原爆の被爆地域は、爆心地から南北に最大約12キロ、東西約7キロの細長い範囲で、小川さんたちはその外にいた。広島と同様に国の線引きで、被爆者と区別された。訴訟では、放射性降下物を井戸水や農作物とともに体内に取り込み「内部被ばく」し、がん発症など健康被害を受けたなどと主張し「被爆者」として認めるよう訴えている。
 原爆投下時、小川さんは2歳7カ月で、爆心地から南西に10・1キロの畑で作業する母のそばから海を眺めていた。「目の前で2メートルくらいの青い光を見た」。小1で慢性腎炎になるなど病気がちで、小学校では2年留年した。今も体の不調を抱える。
 26歳でプラントメーカーに入社。08年に廃炉が決まった浜岡原発1号機(静岡県)の建設にも約1カ月間従事した。原子炉について独学した。もとより、放射線被害の怖さは身をもって知っている。以後、原発での仕事は極力避けてきた。
 国は、原発事故で半径20キロ圏などで住民を避難させる一方、集団訴訟では「被爆地域外で内部被ばくによる人体への影響があったと結論付けるデータはない」と主張する。原告らは、広島で黒い雨を浴びながら援護対象にならない人たちと同じく、国の対応に矛盾を感じている。
 チェルノブイリ周辺で放射線調査をした元気象研究所研究室長の増田善信さん(87)は「原発事故と原爆の違いはあるが『被ばく』は同じ。放射性セシウムによる汚染牛の問題は内部被ばくを象徴している。微量摂取した人が全て病気になるとは限らないが、政府はもっと真剣に考えるべきだ」と警告する。
 07年11月の提訴から間もなく4年。小川さんは「一刻も早く勝訴し、内部被ばくの危険性も提起したい。そして、放射線を浴びたヒバクシャが今も生きていることをフクシマの人たちに伝え、勇気づけたい」と語った。【下原知広】=つづく
==============
 ■ことば
 ◇被爆体験者

 長崎市の爆心地から半径12キロ以内で原爆に遭遇しながら、被爆者援護法で定められた被爆地域外とされた人。長崎ではすり鉢状の地形から、12キロ圏内でも被爆地域に入らない場所がある。健康被害を訴える人も多く、02年に国が「長崎被爆体験者支援事業」と位置付けた。当初、医療支援は▽感染症▽がん▽外傷--以外の健康被害が対象だったが、05年から精神疾患などに限られた。受給認定されているのは7823人(11年5月末現在)。一方、被爆者は多くの病気で医療費の自己負担がなく、健康管理手当(月額3万3670円)などが支給される。
毎日新聞 2011年7月27日 東京朝刊


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