曇り、晴天の予報を信じて6時に自宅を出発する。小国あたりまで雲が低く、予報に違いはないかと心配しながら峠を越えるとトンネルの向こうに青空がパッと広がる。木々の新緑に混じって桜があちこちで咲いている。
櫛形山脈といっても、いったいどのくらいの人がその存在を知っているだろうか。
日本で一番小さな山脈。地形図を見ると、この山脈はEの文字を寝せたような形をしている。新潟は新発田市に隣接した胎内市の海岸の方へせり出した10キロほどの山脈なのだ。
せいぜい580mの櫛形山(568m)を盟主とする山脈であるが、ぶなの美林に覆われ、春は新緑、秋は紅葉の美しさがここを訪れる人々を魅了する。
山脈とはそもそもどう定義されているか、辞書にあたってみた。「特に顕著な脈状をなす山地。奥羽山脈の類」とある。脈とは物のつづき、つながり。すこし解説風に言うと、連綿とつながっている山地が山脈である。
辞書にある奥羽山脈は青森から福島にまたがる巨大な山脈で、岩手山、吾妻山と2000mを越える2つの盟主を持つ日本一の山脈である。では、蔵王連峰などの連峰とはどう違うのか。これも辞書によると「つらなり続いた峰、連山」とある。つまり刈田岳、熊野岳、地蔵岳と高い峰々が連なることを言うらしい。
物知りのsさんが薀蓄を語る。「連峰や山脈では、そこにある山の名には岳がつく。○○山というには独立峰についている場合が多いよ。まあ、例外もあるけどな」
櫛形山脈の櫛形山、鳥坂山、白鳥山はまさにその例外であるらしい。白鳥山の駐車場へ車を置いて、始点である関沢登山口へは中条タクシーを頼んだ。
「県外からたくさん登山の人が来るよ。何しろ日本一の山脈だからね」「そう、日本一小さい山脈ね」「なんでも日本一というところに価値があるみたいね」「だけどくたびれるのに何で山に登るんだろうね、きょうくたびれてもまた登りたくなるみたいだね」「不思議だねえ、永遠の謎だよ」こんな会話をしながら登山口へと向かう。
登山の魅力を登ったことのない人に説くのは難しい。
ある人は、難しい登山ルートを攻略することの楽しさであるかも知れない。自分の場合は
その一瞬に得られる感動だ。いまなら新しく芽吹き始めた生命の輝き、枯葉の上で咲く花の美しさ、そして残雪が白く輝いている展望の美しさ。これらとの出会いは、自分の体の状態、気候、季節などの条件でその一瞬にしか得られない感動である。どの山行でも全く同じということはあり得ない。だから新しい感動がいつもある、それが登山なのだ。
気温がぐんぐんと上がる。約10kの長丁場の歩きは、老体を鞭打つ。だが、それを癒すようにブナ新緑がほほえみ、イワイチョウやイチゲの可憐な花が語りかけてくる。汗をかいた体に稜線からのそよ風が心地いい。櫛形山からは、飯豊連峰の峰々が残雪に輝いている。サイドバッグからカメラを出そうとして、家に忘れたことに気づく。止むをえず、携帯のカメラでこの飯豊の写真を撮った。
もう春の登山というより、初夏の登山である。
どうにか白鳥山の城跡にたどりついたのは、3時20分であった。ここのあづま屋からは、日本海が目睫の間である。沖に、粟島の山並みがうっすらと浮かんで見える。そして白鳥コースを取って下山。だが、最後に沢下りというおまけが付いた。気軽にすいすいと下るつもりが岩が削られた沢の下りである。沢水が澄んでいたので、口に含むと美味。
総歩行距離9.18k、歩行計24272。この日もまた楽しい感動に出会えた一日であった。帰路、関川道の駅「ユーム」で汗を流して、帰宅、19時30分。
GPSに記録された軌跡を記す。ピンクの表示は計画ルート、実際の軌跡は白抜きの点のあるグレイのラインである。