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階下に住むM夫人が亡くなった。この3月、室内で転倒して骨折し、入院して回復を待っていたが、誤嚥による肺炎で帰らぬ人になった。思えば集合住宅というのは、不思議な空間である。床一枚を隔てているだけだが、たまにエレベータで顔を合わせるぐらいで、それほどの行き来はない。それでも顔を合わせる度に、にこやかに挨拶を交していた人がいなくなるのは、寂しい。
今年 花落ちて 顔色改まり
明年 花開いて 復た誰か在る
年々歳々 花相似たり
年々歳々 人同じからず
唐の劉廷芝が詠んだ名吟「白頭を悲しむ翁に代る」の一部分である。自然のなかで咲き開く花の美しさには、変わりはないが、その花を愛しむ人は年々別の人になっているという詠嘆である。1200年も前の人が詠んだ詩だが、心に響いてくる感慨は、そんな年月を感じさせない。人の生命は変わることなく惜しまれていた。
Mさん宅でお茶をご馳走になったことが何度かある。小さな湯呑みに、せん茶をていねいに入れてくれた。お茶請には、奥さん好みの和菓子が添えてあった。室内はきれいに片づけて、ものを置かない、住い方であった。おそらくM夫人の好みによるもであっただろう。そんなありし日の夫人を偲びながら冥福を祈る。