朝畑の隣人に、「梅干を漬けたか」と聞かれた。まだ漬けていないと答えると、「きょうは半夏だから、もう漬けていいんだよ」と教えてくれた。たしかに、この日あたりを境にして梅は黄色く色づいていく。そうすると、柔らかくなって梅干には適さないようだ。半夏生という言葉は、以前山の仲間から聞いたことがある。辞書にあたって見た。
半夏草(からすびしゃく)さといもの類の多年草が生えるころの意、とある。また暦ではドクダミ科の多年草で夏になると葉の一部が白色に変化するので、半化粧からこう呼ばれるとの解説もある。いずれにしても、中国から伝わった暦で、農村で知られる季節である。都市化された近年には、この言葉も死語に近いが、畑の隣人が使ったので、自分のなかではもうしばらく死語となることはない。
この半夏が毒草で、空気中に毒気がたちこめるので、付近の野菜を食べるのを控え、井戸には前の日から蓋をする慣わしがあったという。その日に限ってそんなことをしても、その後はその毒はどうなるのだろう。ちょっと不思議な気がする。農村ではそんな風習もすっかり影をひそめ、梅干の漬け込みの適期を知らせる言葉となって今に残っている。