満開になる前の桜は、たとえ強風や雨が降っても散らない。枝につけた蕾がすべて咲き、人々に見る楽しみを与えたあとで、春のそよ風に桜吹雪となって散っていく。梅の花は、枝に蕾を残しながら散っていく。それに比べて桜の散り際のよさとして、古くから日本人に愛されている所以でもある。
散る桜 残る桜も 散る桜 良寛
良寛の辞世の句として伝えられている。単純に考えれば、いずれ桜の花はすべて散っていくものだ、人の生命とて同じこと、というように捉えられる。しかし良寛はそれだけではなく、桜の花の命の先を見ている。今はすべて散っていくけれども、一年が過ぎてまた新しい春になれば、この花はまた咲く。自分は死んでいくが、桜と同じ自然の流れなかに入っていく。どうか寂しがらないで欲しいという意味をこめたのではないだろうか。