ここの建物にはイチョウの樹が5本ほどある。並木になっているわけでもなく、黄葉しても建物の陰になってさほど目立つ存在ではない。気温が下がると、いつの間にか葉を散らして、そのまま雪に埋もれてしまう。春がきて、新緑になるまで忘れているような樹である。今年は、その落葉が目立った。さほど黄色が冴えたとは思わなかったが、寒気が急にやってきて、見事な色と思ったその翌朝、樹の根元がじゅうたんを敷きつめたようなみごとな落葉になった。その上にさらに新しい落葉が降り積もる。
金色のちひさき鳥のかたちして銀杏ちるなり夕日の丘に
与謝野晶子がイチョウの散るろころを詠んだものだが、今朝のイチョウはのどかな景色ではない。戦場で敵の矢に倒れた若武者のを思わせる無残な雰囲気がただよう。鳥であるならば、はたと目覚めて飛び立つのではと、思わせるような生々しさだ。それほどに、押し寄せた寒気は、樹に大きな衝撃を与えたのであろう。