渋谷Bunkamuraル・シネマで上映中の映画「ヨーヨー・マと旅するシルクロード」を見てきました。
『世界的チェロ奏者であるヨーヨー・マが、2000年に【音の文化遺産】を世界に発信するために立ち上げた“シルクロード・アンサンブル”。異文化がクロスするシルクロードにゆかりがあり、さまざまな歴史的、文化的、政治的背景を背負ったメンバーたちとともに、ヨーヨー・マは自分自身のアイデンティティを確立していく。
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ケマンチェ、中国琵琶(ピパ)、尺八、バグパイプなど伝統的な東西の音楽と現代音楽とが融合し、国境を超えた究極の音楽そして人間のハーモニーが紡がれ、観る者の心に響く。 』(「公式サイト」より)
夫々の故郷に伝わる伝統文化を背景に、独特の楽器を演奏する卓越した才能を持つアーティストたちが、互いに刺激しあい、融和しあい、切磋琢磨していく中で全く新しい音楽を造りだし、そうして生まれた最高の芸術作品を、時に静かな公園の寛ぎの中で、時に街中のストリート・パフォーマンスとして、そして勿論大勢の観客の待つ劇場で、惜しみなく人々に披露する姿は、生き生きと楽しげで、興奮と喜びに満ち溢れ、本当に素敵です。(その場に居合わせた人が何とも羨ましい。)
イラン革命で家族や友人を失い、故郷に戻ることも叶わないケマンチェ奏者のケイハン。中国の文化革命で芸術文化の存続が危ういと判断した両親が海外で活動する道を作ってくれたピパ奏者のウー・マン。
シリア内戦で今も人々、とりわけ子供達が悲惨な暮らしを強いられていることに心を痛め、音楽で笑顔を取り戻してもらいたいと活動するクラリネット奏者のキナン。
スペイン・ガリシア地方のバグパイプを躍動感溢れる音楽に生まれ変わらせた天才的なバグパイプ奏者のクリスティーナは、認知症になりかけている母親に伝統楽器の調べで記憶を蘇らせたいと願う娘でもあります。
こうして、心優しく才能溢れる芸術家たちの音楽は、夫々が遭遇している社会や人生のリアリズムを背景に、深く個性的な調べとなり、その異なった調べがシルクロード・アンサンブルとして融合することにより、ヨーヨー・マの求める何者にも捕らわれない自由さや、温かさ艶やかさを併せ持つ、新しい音楽に生まれ変わります。
映画の中で流される素晴らしい音楽に触れ、演奏者自身が新しく生み出した音楽に感動した表情や、音楽に接した子供達の嬉しそうな顔を見るたびに、胸の奥底から嗚咽が付き上がってくるような感動を覚えました。
30年ほど前、ヨーヨー・マの大ファンだった友人の影響で、私も若かった彼の魅力に取り付かれたことがありましたが、見た目はすっかりオジサンになったヨーヨー・マも、明るいキャラクター、ダイナミックな音楽、音楽への真摯な姿勢は少しも変わらず、でも昔より更に円熟味を増して、より一層魅力的な芸術家になっていました。
映画を製作したモーガン・ネヴィル監督自身も、「何者にも捕らわれない自由」を心がけたのか、映画は時間・空間を越えて展開するので、時に戸惑いや混乱もありましたが、映画が終ってエンドロールが流れている間、感動に満たされしばし呆然としていました。
世界のあちこちを旅するのに興味のある人、優れた音楽に興味のある人、今の世界情況に関心のある人、必見です。(三女)
☆追記:見たのは3月18日(土)の一回目(10:20~)の上映。2~3割位の入りと空いていて、画面を独占状態で見られたのもポイントが高かったです。