
数日間にわたって取り組んでいた小説、カミュの「ペスト」を、昨日ようやく読み終わりました。
ご存知この本は、「アルジェリアのオラン市でペストが発生。市民は外部と遮断された孤立状態に置かれる。・・・その市民たちの姿を、(医師リゥーの目を通して)年代記風に淡々と描くことで、人間性を蝕む「不条理」と直面した時に示される人間の諸相(※)や、過ぎ去ったばかりの対ナチス闘争での体験を寓意的に描き込んだ長編小説」(表紙裏の「紹介文」をアレンジ)です。
(※)・・・ペスト蔓延と感染の恐怖、都市封鎖による自由の喪失の中で、例えば「神の正義」に身を委ねようとする司祭、「社会正義」を貫ぬこうとする判事、幸福追求の「人間の正義」を試みる新聞記者、無害な仕事の継続で「心の安定」を保つ老吏、あるいは、苦しむ人の側に立った「心の平和」を貫く活動家、等々。夫々の人々が、夫々の背景の中で、生き続ける根拠を求めてもがきつつ、ある者は愛する家族を失い、ある者は自ら命を落とします。・・・
今回新型コロナ感染拡大の不安に遭遇した日本国内で、突如売れ行きが大幅に伸びたと言われるこの本。緊急事態宣言が出された4月末ごろ、次女の夫のMさんから私の夫に送られてきました。
夫が読み終わったところでバトンタッチされた私は、内容の余りの重さに打ちのめされ、描かれている状況が今現に私たちが置かれている状況と重なって、途中で何度も読むのを断念しそうになりましたが、「最後は終息する」という夫の言葉に励まされて、やっとの思いで読み通しました。
そうして読み終わってみると、個人の力では克服しようのない過酷な状況下、自らは「責務を果たす誠実さ」を拠り所とする医師リゥーが、恐怖や絶望や悲しみの中で様々な反応を示す人々に、暖かい眼差しで寄り添い続けることで、人間同士の連帯を導き出すという展開に、強く心を動かされ、感動が深く静かに心に広がっていきました。
今起きている新型コロナ禍も、医療技術などは当時と比べれば格段に進歩しているのだろうとは思いますが、伝染病の危険性、解決策の不透明性、そのことが人心に与える苦痛など、ことの本質はカミュの「ペスト」の時代と余り変わらないような気もします。
というわけで、今も続くこの重苦しい状況の中、この本に多くの人が惹きつけられ、多くの人が読んだのだとすれば、新型コロナ後の時代をどう生きて行ったら良いかを考える上で、多くの人たちと共有できる土台が生まれたかもしれない、という一縷の希望も感じました。
さて、次女の夫、Mさんの読後感は如何に、、、?


おまけ(気分転換):いま我が家で満開の花をつけている紫陽花とクチナシです。(三女)
