結論をさきにのべれば、「蟹工船」は、秀作である。ただし、ある一点をのぞいて。
その理由についてはあとでふれよう。
こういう作品が、昭和4年、24歳の青年によって書かれていたとは。
まず、本書冒頭、十行ばかりを引用してみよう。
『「おい地獄さ行《え》ぐんだで!」
二人はデッキの手すりに寄りかかって、蝸牛《かたつむり》が背のびをしたように延びて、海を抱え込んでいる函館の街を見ていた。――漁夫は指 . . . 本文を読む
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