二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

ありえないからこそおしろい♪ ~ドリトル先生シリーズの虜になる

2022年11月08日 | ファンタジー・メルヘン
「こんなことありえないだろう!?」
いやいや、だからこそのイメージの快楽にはまる。
人間は空想する生き物である。大人になって、現実の何たるかを知ると、だんだん煮つまってきたり、息苦しさを覚えたり、隠者願望にとりつかれたりする。
ほとんど無自覚に、脱出口をもとめてさすらう。
わたしがそうであるようにそういう人間がほかにもいる・・・と推察したくなる。

大人でも子ども同様、マンガやアニメやファンタジーに走ったり溺れたりする人がいるのは、そのあたりに理由がありそうである。
ヒュー・ロフティングは現代ファンタジー発祥の地、イギリスに生まれ、のちアメリカに移り、カリフォルニアで没している。

豊かな空想力にめぐまれ、風刺的な才能もあった。ありえない設定だからこそ、こんなにおもしろいのである(^^♪
現実批判が、お伽話にとかしこまれている。
アンデルセンの創作童話、グリムの昔話。ドリトル先生シリーズは、その延長上にあらわれた、長編児童文学と見ていいだろう。
小学校の高学年~中学生ならば、よほどひねこびた人でないかぎり、無条件に愉しむことができる。



■「ドリトル先生航海記」ヒュー・ロフティング(井伏鱒二訳)岩波少年文庫 1960年刊
シリーズ第2巻

原作は1922年まずアメリカで刊行された。翌1923年にはイギリスでも発刊。
深刻な人種問題、差別をかかえているアメリカではあまり読まれず、イギリスや日本で根強い人気をたもっているようである。

第1巻「ドリトル先生アフリカゆき」につづき、舞台はイギリス、そしてアフリカや小さな島々が舞台となっている。
1923年といえば、第一次世界大戦(1914から1918年まで)のあと、日本では大正12年にあたる。イギリスでもアメリカでも、成熟した市民社会がすでに成立していた。

《靴屋のむすこのトミー少年は,大博物学者ロング・アローをさがしに,尊敬するドリトル先生と冒険の航海に出ることになって大はりきり.行先は海上をさまようクモサル島.島ではロング・アローを救い出し,ついに先生が王さまに選ばれ活躍しますが,やがてみんなは大カタツムリに乗ってなつかしい家に帰ります.シリーズ第2話.》BOOKデータベース

ドリトル先生シリーズの中で一番有名であり、多くの人に読まれている一冊だろう。靴屋の息子のトミー少年を語り手にすえているのが、物語にある種の社会的な陰影をそえている。
原文を読んでいうわけではないから、ほんとうのところはわからないが、井伏訳は、名訳の部類にはいるだろう。です・ます調も、児童文学ならではのもの。なめらかで、非常にこなれている。意訳したところもあるのではないか。
移動する浮島のクモザル島が、設定として秀逸だし、ロング・アローの性格も、キャラクターとして成功している(^o^)

本作を読んで、もっともっとつづきを読みたくなったが、先は長いなあ。


評価:☆☆☆☆




■「ドリトル先生の郵便局」ヒュー・ロフティング(井伏鱒二訳)岩波少年 1952年刊
シリーズ第3巻


《寒い冬のイギリスを脱出,ドリトル先生は動物たちと再びアフリカに出かけてファンティポ王国の郵政大臣になります.ツバメたちを使った小鳥郵便局は,世界でいちばん早い郵便として大成功.そして動物の通信教育も始まりますが,ある日,太古のカメから手紙が届くと,先生はさっそくカメに会いに秘密の湖に出かけてゆきます.》BOOKデータベース

読みはじめるまえは、郵便局がどうかしたの!?
そうかんがえていたけど、読みだしたらずぶずぶにはまった。いやはや、おもしろいのなんの(*^。^*)

本編は全体で四部構成となっているが、とくに第三部に入って、ヒュー・ロフティングの魅力が全開となる。
先生は動物雑誌というものを刊行することになる。
1.先生のお話
2.ガブガブのお話(ブタ)
3.ダブダブのお話(アヒル)
4.白ネズミのお話(ネズミ)
5.ジップのお話(イヌ)
6.トートーのお話(フクロ。フクロウではなくフクロと表記される)
7.オシツオサレツの話(両頭動物)

これらのお話が、とても興味をそそるエピソードとしてゆったり語られてゆく。
ドリトル先生が、ある島の郵便局の局長となる、その設定がまずユニーク♪
最後はドロンコという巨大なカメを生息地だった沼に送り届ける。このカメはノアの箱舟の生き残りだというのだから、文明批評として読んでもおもしろい。
岩波少年文庫版で363ページ、ストーリーとしての推進力がめざましく、一気にラストへとはこばれてゆく。シリーズ一、二を争う秀作だと、わたしにはおもえた。


評価:☆☆☆☆☆




■「ドリトル先生のサーカス」ヒュー・ロフティング(井伏鱒二訳)岩波少年 1952年刊
シリーズ第4巻

ご都合主義のストーリー展開だし、ありえないことの連続だけど、読んでいるとヒュー・ロフティングの語り口にのせられてしまう。それはわたしにとっては“至福の時間”なのでありまする。

《航海から帰ってまた一文なしになったドリトル先生と動物たち.ついにみんなでサーカス団に入ることにしますが,サーカスの動物たちのひどい暮しに大憤慨.あわれなオットセイ脱出のために,先生の大冒険がはじまります.やがてだんまり芝居で大成功した先生は,悪い団長に代わってサーカスを率いることになりますが….》BOOKデータベースより

アラスカ生まれのオットセイ、ソフィーの脱出劇が圧巻!
はらはらどきどきを十分満喫できること、請け合いである。
そしてまた、作者ロフティング自身が描いた、素人くさい挿絵がじつにすばらしい^ωヽ*
これらの挿絵をしみじみと眺めていると、作者がいかに愛着をもって、これらの物語を書きつづっていたかが、如実に理解できる。








物語の向こうから、出演者(キャラクター)が立ち上がってくる。動物と自由自在に話ができることで、ドリトル先生はサーカスの花形(^^♪ いかさま師の団長が売上金を持ち逃げすると、とうとう先生が団長を引き受ける。その間の細々としたいきさつに説得力がある。
児童文学も、なかなかこんなふうには書けないものだろう。
金銭に恬淡としているところも、経済力を持つということが正義とかんがえられていたイギリス、アメリカの社会を睨んでのこと。
わたしは深いため息を何度となくつかざるを得なかった。

作者ロフティングの才能はキラキラしたものではなく、底光りしている。こういう作品を子どもたちだけのものにしておくのはもったいない・・・とおもう。
宮崎駿さんのアニメだって、大人が観ても十分おもしろいのと同じ。

動物たちとドリトル先生をめぐる空想力、想像力の宴は、本編でその絶頂をむかえているのかもね。
岩波少年文庫で全13巻、先は長いが、現在は第5巻の「動物園」を、惜しみ惜しみ読んでいる。
途中でマンネリに陥るかと心配していたけど、そんなことはまったくない・・・と断言しておこう(^ε^)


評価:☆☆☆☆☆

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